第4話 主婦、異世界アイテムと戦う
「あっ、お疲れ様です、マリアさん」
仕事を終えて休憩室に行くと、先輩であるマリアさんがお弁当を食べていた。
「あら、ナターシャさん、お疲れ様ぁ。今日もきっちり定時上がりねぇ」
「はい、ここはきっちり上がれるので本当に助かってます」
そうなのよ、残業も一分単位でつくしねぇ、あたしが前にいたところは残業代が出なかったのよぉ、というマリアさんの愚痴を聞きながらタイムカードをガシャンと切る。
「あっ、そうそう、聞いたわよぉ、ナターシャさん」
「はい? 何ですか?」
ロッカーから荷物を取り出し、さっと上着を羽織る。『魔王ラスボス様』は制服――というか、大魔王ウラボス様の加護がガンガンに付与された巨大着ぐるみの中に入るので、私服通勤OKなのがありがたい。ちなみにこの、大魔王様の加護メガ盛り着ぐるみは高い防御力を誇り、いかなる魔法攻撃も跳ね返す優れものだ。これに守られながら、その中で大魔王様からレンタルされた魔法の杖を振って戦うのである。
尚、魔法はそれぞれ、口や指先から出るようになっている。魔王様が杖の力を頼って攻撃してきたら興醒めだもんね。イメージ商売だから、こういうのは。
「また、活躍したらしいじゃない?」
「え? あ、あ――……、あぁ!」
あれか、と私は思った。
それはこないだの転移者戦のこと。なんかここ最近、
地方軍の兵士相手に無双し、イキりにイキりまくった転移者は、仲間を連れて意気揚々と魔王城に乗り込んでくるのだが、まぁ正直なところ、その辺の兵士と戦うノリで挑まれても困る。そりゃあ、大軍VS少人数の戦況をひっくり返したりとか、色々活躍はしたのだろうけど、こちとら、一国の王(といっても私達は魔王様の威を借るパート主婦だけど)だ。
その日挑んできた転移者一行も、それはそれはノリノリだった。何やら、『スマホ』なる異世界のアイテムを使うスキルを持っていたようで、正直ちょっと苦戦した。こちらの攻撃パターンを分析し、弱点を検索してくるのである。私達は、未知の異世界アイテム『スマホ』に翻弄されっぱなしだった。
「困ったわね」
「これはいよいよもって大魔王様にパスかしら」
「あーん、でもお手当欲しいわぁ~」
メインモニタを見ながら相談していた時、たまたま、城内を飛び回っていたロクガコウモリが彼らの手元を映した。サブモニタに表示されたスマホ画面を見て、私は気が付いた。コレ、何かしらの電波を使っているんだわ。なーんだ、魔法でも何でもないのね!
「皆さん、ちょっと私に任せていただけますか」
「ナターシャさん?!」
「私、『妨害電波管理放出責任者』の資格持ってるんです!」
「何それ、初めて聞いたわ」
「その名の通り、妨害電波を管理したり、意図的に放出させたりする資格です。ちなみに、有資格者以外が妨害電波を扱えば、五万
「すごいわナターシャさん!」
「ちなみに私は三年かかりました! 二回落ちてます!」
「くじけなかったのね! 偉いわ!」
「ありがとうございます! 持ってて良かった、『妨電責任者』ァ! 喰らえ、妨害電波! 放――――出っ!!」
私は、額に埋め込まれた妨電責任者資格者証の力を使い、転移者パーティーを妨害電波でぐるりと囲んだ。
「あ、あれ? 急に電波なくなったぞ? おい、この城、フリーWi-Fiとかないのかよ! スマホ使えねぇじゃん!」
「はぁ? 『すまほ』が使えないだと? どうするんだ、おい」
「な、なぁ、俺達はこれからどう動けば良いんだ!? 戦略は?!」
「ねぇ、アンタさっき分解したあたしの魔法銃、組み立て方は
現場、大混乱である。
「ちょ、揉め始めたんだけど。ウケる」
「あの『スマホ』とかいうやつに頼りきりだったみたいですね」
「とりあえず、この隙に倒しちゃおっか」
「そうね、ハー、今回もお手当ゲットー! ナターシャさんサマサマだわぁ~」
「い、いえ! 今回もたまたまですよ! じゃあ皆さん、
という感じで、無事、スキル『スマホ』の転移者を撃破したのである。
「――って感じで」
「いやぁ、ほんともう、すごいよね、資格って」
私も何かとろうかなぁ、と言って、テーブルの上にある『ウィーキャン資格講座』のパンフレットを手に取る。
「あっ、これなんか良いですよ。邪気コーディネーター三級。とりやすいですし、生活にも活かせます」
「へぇー、何? あぁ成る程ねぇ。ウチもさ、家中邪気が凄いのよ。あちこちに散らばってて。そうか、こうやって有効活用出来たりするのねぇ」
「資格って、就職に役立つだけじゃなくて、生活に活かせるものもたくさんあるんですよ。マリアさんもぜひぜひ!」
「ちなみにナターシャさんは次狙ってるやつとかあるの? 勉強中のやつとか」
「いまはですね、この『獄炎BBQマイスター』辺りを狙ってます。いつか子どもが出来た時にパパっと獄炎起こしとか出来たら恰好良くないですか?」
「それは旦那さんに譲ってあげなよ~」
「あはは、そうですね」
そんな感じで談笑し、退勤した。
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