─1つの可能性─



 ︎︎ あれからどれだけの時間が経っただろうか。普通の人にとってはわずかな時間だろう。しかし、凪にとっては全く違う。彼にとっては、それは永遠にも感じられる程の時間だっただろう。




 ︎︎そんな永遠にも感じられる時間の中、凪はずっと考えていた。どうすれば梓を蘇らせる事が出来るのかを。



 ︎︎



 ︎︎そう、これは凪が坂柳に言った言葉だ。

凪もそんな事は分かっていた。 それでもだ。



 もう一度、橘に先輩と……

 もう一度、凛鳴に凪くんと……

 もう一度、梓になぎなぎと……


 その声を聴かせて欲しいと。



 ︎︎ そして、一つの可能性に辿り着く。アイツなら可能なのではないかと…




 ︎︎凪は梓の遺体を、そっと地面に置くと、立ち上がり、ゆっくりと歩みを進めた。




「……イリス」


 ︎︎ イリスはあまりにも酷い顔をした凪を見て、何も言えなかった。なんて声を掛けたら良いのかわからなかったのだ。そして、



「…約束を、今果たしてもらう」

「…………約束…ですか 。」


「…俺を……俺が産まれた時代に飛ばせ。」

「ッ……!? 無理です!私にはできません!!」

「お前あの時なんて言ったか覚えてるか?」

「…………。はい。」



 ︎︎凪が辿り着いた可能性はこれだった。


 ︎︎ 蘇らせるのではなく、死んだという事象を無くせばいいのだと。



 ︎︎ そして、凪とイリス、二人の間には約束がある。


 ︎︎ イリスの世界を救った後は凪の世界を救う手助けをする。


 ︎︎ 肝心なのはその後。



 ︎︎ だ。




「だったらやれ!!今すぐにだ!!」

「……できません。深刻なタイムパラドックスが起きる可能性があります」


「ふざけるな!!できないなら世界を滅ぼす。ネーヴェとともに全世界をだ。女神がいくつの世界を持っているのか知らないが、全てだ!!」

「──!?」


 ︎︎その瞬間。先程まで顔をぐちゃぐちゃにさせ笑っていたヴォルガノスが、一瞬で凪の背後に間合いを詰めた。


 ︎︎そして、


「そんな事、私が許すわけないだろうが!」


 ︎︎ と、右手で剣を振り下ろし、左手で指をパチン。と弾いた。


 ︎︎重力に押しつぶされそうになりながら、凪はヴォルガノスの剣を弾き返し、



「ち…っ!もうその技は見たんだよ!!」



 ︎︎それと同時に剣を地面に突き刺し、拍手をするかのように両手を一度、パンッ。と叩いた。



 ︎︎その瞬間── 凪たちの身体から重力が消えたと思えば、ヴォルガノスは地面に突っ伏した。


「なッ!?」

「それは対策済みなんだよ。イリスたちから聞いてたからな」


 ︎︎帝国を観光してる時に、凪たちは邪神とヴァンスについて話し合っていた。そこで、重力魔法についての話題になり、興味深い事をイリスが言っていた。


「相手が重力魔法を発動したら、それに対抗して自分も重力魔法を使えば、圧力が相殺されずに相手に返されるみたいです」 と。



「ははっ!どうやら、マジみたいだな!」

「ぐっ…き、さまぁ!!この程度で調子に乗るなァァ!」


 ︎︎ ヴォルガノスは見誤ったのだ。


 ︎︎ 確かに現状、ヴォルガノスを倒せる者はもう、この世界に居ないだろう。


 ︎︎そして、一番の危険分子であった凪の心を折り、後はゆっくりと楽しみながら殺すだけだと思っていたのに、だ。



 ︎︎ ヴォルガノスは無理やり立ち上がった。

全身からパチパチと殺気を放ち、額に青筋を伸ばし、凪の目に認識できない程の速度で近付き頬へと拳を叩き込んだ。


 ︎︎その拍子に凪の身体は勢いよく吹き飛び、もうもうと砂煙を上げながら地面を転がった。



「くっ…………イ、リス!はや、く。っ…! 俺が、このま、ま死んでも、世界は滅びるぞ」

「その前に殺してやろう。゛朧月 ゛─ッ…!?」


 ︎︎ ヴォルガノスがなにかスキルを使おうとしたその時、言葉を遮るかのように、一本の剣がヴォルガノスの背中に突き刺さった。


「凪……!今だ!」


 ︎︎それは、死んだかと思われたグリザードの剣であった。


「ッ…!?イリス!!」

「あぁ!もう!わかりました!」

「クソがァァァァ──」




「後……は頼ん……だぞ。凪──」





 ︎︎そして、凪たちはヴォルガノスの前から姿を消した。


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