─絶望─
は!? 今何した…?一瞬で腕をくっ付けたのか??
「ち……っ。ふざけろよ。化物が……。」
凪はその場で魔力弾を何発も放つが、全てヴォルガノスの前で消え去っていく。正しく言えば、消え去るではなく、ヴォルガノスが全てを叩き落としていた。
凪たちの視力では追いつけないほどの速さで腕を振るっていたのだ。 よく見ればヴォルガノスの足元には叩き落とした魔力弾が地面を貫いていた。
「くそがっ!」
凪はその場で地面を蹴り飛躍、落下の勢いを利用し、そのまま剣を振り下ろした。
しかし、その剣は切り裂くどころか、軽々と捕まれ、そして、
「ふむ……。こうしよう。」
と、ヴォルガノスが口を開いた。
「グリザードの息子…いや、山本 凪。配下になれ!」
「ッ…!? 断る!!喰らえ゛光刃閃舞 ゛」
凪が叫んだ瞬間、周囲は光で満ち、虚空から無数の刃がヴォルガノスを襲った。
しかし、それも全てを弾き落とされてしまう。
「ち……っ。どうしたらいい…」
凪は一度背後に飛び退きヴォルガノスから距離を取った。 その瞬間、急激に身体が重くなるのを感じた。
「くっ…!?」
なんだ? 魔法とかの類ではない……。重力でもない……。
凪と魔王の視線が交わると同時に理解した。
これは、ヴォルガノスの殺気なのだと。そして、
「……ふぅ。勘違いするなよ。羽虫が!私に、生かされている事を忘れるなよ。貴様たちなど、一瞬で消し去る事だってできる。さっきのは聞かなかった事にしてやる。言葉を選べ。」
「っ……!?」
くそ……まずいまずい。このままだと全滅する……一度体制を整えないと……
「だんまりか。見せしめが必要みたいだな。」
それだけ言うと、ヴォルガノスは一瞬で橘の背後に移動し、どこから出したのか、その手に握っていた黒剣で、その首を跳ねた。
「───。」
その瞬間。言葉にならない悲鳴が飛び交った。
凪は一瞬なにが起きたのか分からなかった。恐らく凪だけではないだろう。
橘が死んだ……? うそ、だろ…?
頭の整理がつかない中、ヴォルガノスは言った。
「答えは出たか?」
しかし、その言葉は凪へと届かなかった。
凪は現実に起きたことを受け入れらずに頭を抱えた。 そして、嘘だ嘘だ嘘だ。と段々と心が狂い始める。
そんな凪をよそ目に、ヴォルガノスは「まだ、足りぬか」とだけボソッっと言うと、次は凛鳴の前へ一瞬で、移動した。
「……!?」
「凛鳴ちゃん避けて!!」
凛鳴は突然目の前に現れたヴォルガノスに驚きつつも、瞬時に金剛杵を顕現し、結界を張るが、剣を一振りしただけで結界を破壊し
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そして、そのまま心臓へと突き刺した。
「……嘘だ、よな…。」
「金剛杵が…一撃……?ありえない……。」
凪は凛鳴の元へと走り、イリスは天使の武具が一撃で壊された事に驚きを隠せずにいた。
横たわった凛鳴の周囲には血溜まりが出き、今もなお領地を広げていた。
凪はその場で崩れ落ち、凛鳴を抱き抱え名前を呼んだ。何度も何度も何度も。
返事が返ってくる事はないのに。
その背後でヴォルガノスは凪を見下ろしながら冷たい声で再度こう言った。
「答えは出たか?」と。
「俺、は…。配下に……」
゛ダメだ!主様。゛
ネーヴェの声は既に凪には届かない。
「……なる。だから、もう、辞めてくれ……」
その瞬間音が消えた。かと思えば
「く、クク。クハハハハハハハハハハ。」
ヴォルガノスは先程までとは打って代わり、顔をぐちゃぐちゃにして笑いだした。
その光景にわけがわからず凪が唖然としていると
「だがもう遅い。」
ヴォルガノスは凪の耳元でそう囁き、そして、梓の背後へと移動した。
「や、やめ、や……」
凪は上手く声を出せなかった。目の前で梓が殺されそうになっているにも関わらず身体すらろくに動かせずに、梓に視線を向け手だけを伸ばした。
「なぎなぎ、ごめん。愛してる──」
そして、梓の胸元をヴォルガノスの刃が貫いた。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ」
「クハハハハハハハハハハ!!実に愉快!!人間の絶望に満ちたその顔こそ素晴らしい!!いいぞ!山本 凪。もっと絶望しろ。そして、その顔を私に見せろぉ!!」
凪は地面を這いつくばり梓の元へ行き
「───ああああ───ッ──」
梓の血に塗れた身体を抱きながら
慟哭とも憤怒とも取れぬ声を、天まで響かせた。
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