─魔王 ヴォルガノス─
突如現れた魔王を前に、皆は唖然とし、その圧倒的な存在感に、膝を折り頭を垂れそうな衝動に駆られた。
濃密な圧迫感が押し寄せ、息が上手く吸えない。足が震える。
そして、空気は更に淀みを見せた。元から淀んでいたのは間違いないが、それとは違う。言葉にし難い不快感だ。
凪は認識が甘かったと悔やんだ。魔王とはこれほどまでの存在なのかと思い知らされる。 自身のステータスを見て、これなら余裕なんじゃないか?と思っていた過去の自分を殴りたい。
それ程までに──圧倒的だった。
魔王はそのまま地面へと降り立つと、周囲を見渡し、「ふむ」とだけいい。口を動かした。
「久しいな、グリザードよ。」
「……ヴォルガノス。なにしに来た。」
「クハハハ。いやなに、そこの不良品を処分に、ね。」
魔王は坂柳に視線を向け、そう言った直後。
一瞬で坂柳の背後へと移動し心臓目掛けて、腕を突き刺した。
……!?
「か……は──っ──」
坂柳は盛大に血反吐を吐き、魔王はつまらなそうに突き刺した腕を引き抜いた。
そして、その手の中には坂柳の心臓と思われるものが握られていた。
「貴様ァァ!!」
凪は憤怒した。確かに殺す気ではいた。だがそれとこれとは話が違う。
そして、怒りに我を忘れ、回復魔法を掛けてくれていた、イリスたちを押し退け、魔王へと盛大に飛び掛かった。
「神威解放!!」
咆哮の刹那── 周囲の景色が劇的に変化する。
凪の体が金色のオーラに包まれると同時に音が消えた。
───はずだった。
「……っ!はぁ……っ、はぁ……っ──」
頭が混乱した。ついさきほど、いや。正確に言えば数秒前……コンマ何秒の世界だ。
なぜ俺は地面に突っ伏している。
剣を振り下ろしていたはずだ。
しかし、現実はちがう。
「く、クハハ。グリザードの息子よ。貴様は面白い。私の配下になれ。」
「…っ……!?な…ん……。」
声が出せない……身体も動かない…
凪は己の無力さに奥歯を噛み締めた。
「俺が憎いか?なぜだ?貴様はこの世界に対して執着はないと思うのだが──」
魔王はそう言い、更に話を続けようとした。
その時、凪の身体が突然軽くなり、身体が動くようになった。
っ……!?
その理由は魔王の視線の先にあった。
「凪くんから、離れて!!」
凛鳴だ。凪を包み込むように結界を張ったのだ。
そして、魔王は忌々しそうに凛鳴を睨み、口を動かした。
「貴様か?私の声を遮ったのは。」
「だったらなにかな?凪くんは貴方の仲間になんてならないよ!」
「ふむ、羽虫風情が。少々煩わしいな。」
そう言った直後、魔王から殺気が溢れ出し、持っていた心臓を握り潰すと
「!?ま──」
凪の声を置き去りにし、一瞬で凛鳴の間合いに移動。そして、腕を振り払った。
その瞬間、轟音と共にもうもうと噴煙が立ち込めた。
「……凛鳴ぁ!!!」
噴煙が段々と晴れていくと凛鳴が立っていた場所は地面をえぐったような跡が何メートルも道のように出来ていた。
その光景を見て一瞬絶望したが、ギリギリの所でグリザードが凛鳴を抱えその場を飛び退いている姿があった。
「……っ。あっぶねぇ。」
「ありがとう、ございま──っ!?」
避けたのかと思えば、グリザードの身体の右半分が抉れ無くなっていた。
「……っ。イリス!橘!」
「「わかっています!」」
凪の声に反応し、イリスと橘は走り出すが
「させんよ。」
魔王はそう言い。再度、腕を振り払った。
「くッ……!?」
イリスたちの足元の地面はえぐれ、それ以上進めば殺すと言わんばかりであった。
「殺すには惜しいな。グリザードよ」
「……ハッ!てめぇの下に付くぐらいなら死んだ方がマシだぜ!」
「……では望みのままに。」
ヴォルガノスが右腕を振り上げた、その刹那。凪は咄嗟に動いた──否。凪の意識とは裏腹に身体が勝手に動いたと言うべきだ。
「────ハァッ!」
スゥっと息を吸い、裂ぱくの気合とともに光の葉を振りぬいた。
怒気と敵意に染まった斬撃が宙を走り、反応に遅れたヴォルガノスへと直撃し、振り上げた右腕を切断した。
「ほぉ。私の腕を斬るとは中々……。」
そして、ヴォルガノスは何事もなかったかのように、腕を拾い上げ、己の切断された右腕へと持っていくと、驚くべきことに瞬時にその傷を治療した。
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