─坂柳 和馬3─
凪が坂柳に向かうと同時にグリザードは叫んだ
「嬢ちゃんたち、気合い入れろ。来るぞ!」
もはや、彼等から精気は感じられない。
「凛鳴ちゃんのスキルでなんとかならないの?」
「……残念ですが、いくら天使の力と言えど難しいですね。」
「そん、な……。」
そして、操り人形と化した国嶋の拳によって、凛鳴の結界が粉々に砕け散った。
「きゃっ」
「ち……っ、俺が男の方をやる!嬢ちゃんたちは残りを頼む!」
グリザードはそう言い人形と化した国嶋へ強烈な蹴りを叩きこんだ。
国嶋はその攻撃を受け、身体が吹き飛ばされると同時に身体に亀裂が入り、蹴られた勢いのまま地面に叩きつけられると、粉々に砕け散った。
かと思えば、粉々になった欠片が集まり元の姿へと形を取り戻した。
「ッ……!?どうなってやがる!?」
「恐らくですが、この人形を作っている本体を叩かないと、無限に再生するかと…」
「て事はあれか?勇者が作り出してる本体て所か。」
「確証はありませんが……。」
「とりあえず、凪が勇者をぶっ飛ばすまで耐えろって事だな!聞いたか?嬢ちゃんたち。あれはただの見た目だけ似せた人形だ。思いっきりやれ!」
「……見た目だけなら──゛アトモス・レイン ゛」
魔力を抑えた梓の魔法が虚空から現れ、二体の人形へと降り注ぎ、粉々に粉砕した。
「ッ…!?やっぱり元に戻っちゃうのね……。」
「梓先輩!私が結界を張っておくので、先輩は攻撃し続けてください。」
「おっけー!゛プロミネンス ゛」
~~~~~~
「か……は──っ──」
地面へと叩き潰された坂柳の口から血が弾けた。
「……っ!はぁ……っ、はぁ……っ── もう諦めろ。坂柳!」
凪は剣の柄を杖のようにして、地面へと突っ伏した坂柳の前に立った。
正直な所、凪の身体も限界を迎えていた。
血を失いすぎたのだ。坂柳に斬られた傷は塞いでおらず、変わらず血を垂れ流していた。
「ぐっ……っ!お前のそうゆう…所がァァァ!!」
坂柳は全身から血を滴らせながらも立ち上がり、剣を横に薙ぎ払った。
「ち……っ。しつけぇな。」
「なんでなんでなんでなんでなんで!!!」
坂柳はこれでもかと剣を、そして拳を凪へと振るい続けた。
「なんで……お前ばっかり!!!」
初めて見た時から気に食わなかった。
いい女を侍らせ、スライムエンペラーを瞬殺し、そして、梓までも…。
力を持った上に、ハーレムだと?ふざけるな!!それは勇者である僕の特権だ。と。
奈津美たちだってそうだ。みんなして凪、凪。って。きっとこいつは人を魅了する力を持っている。僕が助け出してみせる。だから、共に行動して、暴いてやろうって。そう思っていた。
だけど、現実は違った。どこかで気づいていたんだ。こいつらが凪を見る目は決して魅了とかの力でないと……気づいていたけど、認められなかった。
そして、魔が差した。その隙間をヴォルガノスに突かれた。
凪たちが居なくなったあと、あいつは現れて、こう言った。
「手に入らないなら殺してしまえと。そして、凪を殺せるだけの力をやろう。」と。
最初は反対した。だが、あいつは生き返らせる力もやると言ったんだ。
そこで、魔が差した。殺して生き返らせて、僕の物にすればいいんだ。と。 だが、現状はこれだ。あんなの人じゃない。ただの人形だ。会話もできない、意識もない。人形以外のなんだって言うのだ。後悔した。そりゃ後悔したさ。でももう後戻りはできない。せめて凪だけは殺そうと。 結局それも達成出来ない。むしろ逆だ。
「僕は…僕は、どうすればよかったんだぁ!!」
坂柳は叫ぶと同時にその真っ黒な眼球から涙を流した。しかし、その涙は真っ赤だった。
すでに坂柳は人ではないと、実感させるものだった。
「なぁ坂柳。知ってたか?村瀬と早乙女はお前の事好きだったぞ。」
坂柳の手が止まり、話を続けた。
「ことある事に、和馬はホントはいいやつでね、仲間思いのやつだって、お前が買ってやったプレゼントを大事そうに持ってた。なんで俺がこいつらの惚気話を聞かなきゃならんのだ!って思ったよ。」
「……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。」
「嘘じゃねぇ。お前は気付かなかっただけだ。自分の手の中にあるものを大切にしないで、余所見ばかりしてるからだ。」
「………そんな…僕は…っ」
「坂柳……もう辞めろ。あいつらを解放してやれ。」
「……っ…………わかった。」
坂柳がそう言うと、三体の人形は崩れさり、瓦礫の山と化した。
それと同時にイリスと、橘が凪へと走り出し回復魔法をかけ始めた。
「坂柳。死んだ者は生き返らないんだ。分かるだろ?」
「……凪。……僕を…殺してくれ。」
その言葉に凪は動揺し、坂柳が膝を折り、地面へと座り込み、頭を差し出すのをみた。
坂柳の顔は絶望に満ち、青ざめていた。
「…………あぁ。」
凪はそれだけ言うと剣を振り上げた──
「そう、ポンポンと殺されると、適わんのだがな。」
突然、頭上から声が聞こえ、皆は顔を空に向けた。
その瞬間だ。真っ暗な空にそ・れ・が姿を現したのは。
「……なんだ…。」
そ・れ・は角だった。禍々しい角が二本虚空から顔を出していた。
正確に言うならば、その角の周囲にひび割れのような亀裂が走っていた。
そして、徐々に亀裂が大きくなっていき──それは姿を現した。
額に二本の角を生やし、背中には一対の羽。
双眸を赤く輝かせ、顔の半分には紋様を浮かび上がらせている。
「……ヴォルガノス。」
凪たちの前に現れたのは、世界改変が起こった時と同じ姿をした魔王だった。
~~~~~~
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