─坂柳 和馬─




「帰ってきたぞーーーーーーーー!!!」



  凪は日本に帰ってくるや、天にも届きそうなほどの絶叫を上げた。




「なぎなぎうるさい……。」

「ごめんなさい。ついね。」



  顔の前で手を合わせ、平謝りをしつつ話を続けた。



「それで……ここどこ。とゆうか…なにあれ?」



  空に浮かんだ街に向かって指を差し、梓へと問いかけた。



「あぁ、あれ?多分あそこに魔王が居るっぽいよ。」

「そうなんだ。でもどーやって行くの……?」

「私の転移で行けますよ。」

「さっすが、イリス。」


  凪がそう言うと、梓は半目を凪に向けつつ、溜息を吐いた。



「勇者……どこ行っちゃったのかな?」

「あ゛?一緒に居たのか?」

「そう。アタシたちが扉に入るまではここで魔王軍と戦ってたんだよね。」

「帰っちゃったのかなぁ?」


  凛鳴が小首を傾げるが、正直いなくてよかったと凪は思っていた。


  居ても邪魔にしかならないし、そもそもうるさい。


「邪魔なやつも居ないみたいだし、行くとしますか。」

「なぎなぎ…。言い方…」

「ねぇ、凪くん。行くのはいいけど、その角、出したまんまでいいの?」

「あぁ。なんかこれ出てると、いつもより、力が湧いてくる気がするんだよな。そもそも戻し方がわからん。」

「おい、お前……鬼人になったんじゃねぇの?」

「え……。」


  グリザードにそう言われ、凪はステータスを確認する。


────────────────────

山本 凪 17歳 レベル521 鬼人

HP 9300/9300 MP 10200/10200

攻撃  7610+1141

防御  8190+1228

素早さ 6730+1009

運   100

侵食度 100%

スキル 精霊召喚、精霊武装

    -神楽-蒼波-星雷-ネーヴェ

    闇の一閃

    冥闇

    幻影

    鑑定眼

    光刃閃舞

    神威解放

    鬼人化

称号  異界の勇者

    女神の使徒

────────────────────


  凪は唖然とした。 種族が変わっているだけではない。ステータスが異常だった。


 そして、なにより目を見張るのが、称号から゛世界を壊す者 ゛が消えていた。


「鬼人になってた……でもって称号が一つ消えてる。」

「なぎなぎ、本当に人辞めちゃったのか……。」

「ねぇ、もしかして消えたのって世界を壊す者?」


  凛鳴は、何か、を知ってるかのように凪へと問いかけた。凪は「あぁ」とだけ返事をすると凛鳴は話を続けた。


「多分だけど、凪くんの身体が乗っ取られてる時に、私が放ったスキルで一緒に消えちゃったのかもしれない。」

「どうゆう事だ?」

「えっとね、私の詠唱魔法は、全てのバッドステータスを解除してくれるの。だからヴァンスと一緒に、凪くんのスキルも一緒に消えちゃったんだと思う。」

「あの時の凛鳴ちゃん、すごかったよねぇ!」


  すると突然、思い出したかのように、イリスが凛鳴に恭しく頭を垂れはじめた。


「凛鳴様。ご挨拶が遅れました。わたくし、イリスと申します。」

「え?あ、うん。宜しくね!イリスちゃん。」


 ッ…!?

「様??今、凛鳴様って言った!?」

「ダーリン、少し静かにしていて下さい。」

「…………はい。」


  めちゃくちゃ俺の扱い雑になってません!?


「それで、凛鳴様。あのお力はどこで…?」

「凪くんたちと、別れた時に急に覚えたよ?」

「覚えた…?ちなみに称号はございますか?」

「称号は、゛世界を救う者 ゛だよ。」

「やはり……。」


  凪はこっそりと鑑定を発動させ、ステータスを覗いた。

 

  確かにあるな。俺のはバッドステータスだったけど、凛鳴のは逆だ。全ての状態異常に対しての耐性がつくみたいだ。そして、ついでに梓のステータスも、覗いたのだが…またヤバそうな名前のスキルが増えてる…。


  アポカリプス。てなんやねん。絶対ヤバいやつじゃんか……



~~~~~~



  イリスの転移によって浮かびあがった街へと、移動すると、周辺の景色に言葉を失った。


  枯れた草木が風に揺れ、地面は焦土と化し、まるで核爆弾でも落とされたかのような光景が広がっていた。そして、もはや魔族領と化した周辺一帯は魔物で溢れかえっていた。


「……。なんだよこれ…本当に日本なのか?」

「た、多分?」

「魔族領と言われても納得できるぞ…」

「魔王の影響でしょうね…ここはあまりにも魔素が濃い…。」


  そもそも街が浮いている時点で、もはや日本と呼んでいいのか、怪しい所である。


「主様。囲まれたよ。」

「上位種しか居ねぇじゃねぇか。」

「がはは、息子と共闘できるなんて、嬉しいじゃねぇか!」


  凪はネーヴェを武装化させ、マスケット銃の引き金を引いた。


  パシュン、パシュン。と音を響かせながら周辺に居た魔物を一掃していく。


「ち……キリがねぇな。」

「なぎなぎー、アタシも手伝おうか?」

「ん、そうだな。適当に魔法放っといてくれ」

「りょうかーい!」


  凪にそう言われ、梓はプロミネンスを魔物たちに放ち、同様に一掃していくが……レーザーの一本が前線で戦闘中のグリザードの頬を掠めた。


「嬢ちゃん……俺は魔族だが魔物じゃねぇぞ…」


  と、額から汗をダラダラと垂らした。


「わー!!!パパさんホントごめんなさい!!適当に放ちすぎました……」

「お、おう…わかってくれりゃいいんだ。」


  グリザードは再び、息子の嫁たちはヤバイ。と実感するのであった。



  そして、魔物を殲滅しながら先へと進んでいくと、聞き慣れた声が聞こえた。


「やっと来たのか。山本 凪……。」


  声の主に視線を向けると、そこには帰ったのかと思われていた、坂柳が立っていた。


坂柳は少し微笑みながら、凪に近づき、静かな声でこう言った。



「待っていたよ……。」

「待っていた?なにを言って──」


  凪の言葉を遮るかのように坂柳は言った。


「だから待っていたんだよ……君を殺せる、この時を。」

「はっ!とうとう頭までイカれたか?……お前仲間はどーした?」

「仲間………?あぁ。彼等の事か。みんな死んでもらったよ。」


「「「「ッ…!?」」」」


「あぁ、間違えた。生きてるよ一応。」


  坂柳はそう言って、指をパチンと弾いた。空気が緊張し、場に静寂が広がった。


  すると一瞬で坂柳の背後へと、三人の影が現れ、坂柳に頭を垂れた。そして、坂柳は微笑みながら付け足すようにこう言った。


「まぁ、人ではないけどね。」 と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る