─聖女 アリシア2─



「はぁ。イリス様相変わらず素敵だったわ。あのご尊顔、おしり、そして胸部!あー、触らせてくれないかしら……ふ、ふふ。ふひ。ふ。ふぅ。

それはそうとあの勇者…私のイリス様にあんなにベタベタと……許せません…。そう思わなくて?グライド。」


  見た目からは想像もつかないド変態ぷりを披露しているのは、先程までとは打って変わった聖女であった。

 

  イリスが嫌そうな顔をしていたのは、これが原因である。


  幸いな事にアリシアの本性に気付いているのはイリス本人と、目の前に座っている護衛のグライドだけであった。


「アリシア様自重なさって下さい。イリス様はともかく。勇者様の前では絶対に今の姿見せないで下さいね。」

「わかっていますわ。」


  魔王討伐の功績があるアリシアは街の皆からも慕われ、慎ましく可憐な少女だと言われているが、本性がバレた場合、聖女剥奪の可能性まであるだろう…。



  ヒヒーン

  そんな不埒な事を考えていると急に馬車が止まった。


「何事だ!?」

「た、大変です…ま、魔物です…魔物があらわ──」


  御者が最後までいい切る前に首が飛んだ。


「なっ!?アリシア様は馬車から出ないで下さい。」

「魔物なら私が!!グライドは下がってて!」

「アリシア様ッ!?」


  そう言い馬車から飛び出して行くアリシア。


「な、によ。これ……」

 

  馬車を降りると魔物たちが馬車を囲んでいた。


  一体どこにこれだけ隠れて居たんだと思わせる量だった。パッと見るだけで100はくだらないだろう。


「さすがに厳しいかしら…゛最後の審判 ゛」


  アリシアがスキルを唱えると馬車を中心に魔法陣が広がって行き、空から無数の粒子らしきものが降り注いだ。


「ッ……久々だと流石にキツいわね。」


  さすがは聖女と言った所だろう。空から降り注いだ粒子は魔物に触れた瞬間に跡形もなく消滅させていき、馬車を囲っていた魔物の数は半分程になっていた。


  半分になったとはいえど倒したのは下級の魔物だ。 後方にはオークキングなどが控えていた。


「グライド!!イリス様を呼んできてちょうだい。私だけではもたないわ!」

「ッ…!?それではアリシア様が!」

「いいから行きなさい!」


  アリシアは額にポツポツと汗をかきながら声を荒らげた。強力な魔法の為、魔力の消耗が激しいのだろう。


「くっ。すぐに戻って参りますのでそれまで耐えてください!!」


  グライドは馬車を引いていた馬に飛び乗り、凪たちの元へ急いだ。


「ケケ、俺たちの目的はお前なのに護衛を逃がしちゃ意味ねーぜ。」


 アリシアは突然話しかけられ声の元へと視線を移す。


「言葉を話すガーゴイル!?」

「ゾムーグァ様からお前を連れてくるように言われてな。悪く思わないでくれ。おい!早くやれ。」

「ふぅ。まだ行けるわね…゛裁きの天雷 ゛」


  その刹那。凄まじい轟音と共に落雷が落ちてきて、魔物達を塵へと変えた。


「おうおう、おっかない女だぜ。確かにこれは器に相応しい。ケケ」

「ッ…はぁはぁ。器?なにを、言ってるの、かしら。」


  アリシアは息を荒らげながらも疑問を口にした。


「お前を邪神様の器にするのさ。」

「な、んですって…」

「ほら、まだまだ来るぞ。何処までやれるのか見物だな。」


  そう言うと魔物の足元に魔法陣が現れそこから更に魔物が湧き出てきた。


「くっ…。また、増えたの……??」


  聖女の顔が段々と絶望に染まっていくのが見て取れる。


  あのガーゴイルさえやれれば…あと一回しか使えないけど、やるしか…


「゛最後の審判 ゛」


 アリシアはガーゴイルの真下に魔法陣を展開し、スキルを放った。


「こ、れなら、避けられ、ない、でしょ…」


  アリシアのMPは既に残っておらず、立っているのですらやっとの状態であった。


  段々と粒子が消えて行き、魔法陣内の魔物が一層され


「ケ、ケケ。すまねぇな、お前のスキルは対策済みなんだよ!」


  ていなかった。正確にはガーゴイルだけ残ったが正しいのだろう。


「もう終わりか?…まぁいい。おらぁ早く連れて行け!」


 グァアアアア


  ッ…!?オークキングが腕を大きく振りかぶっていた。


  あぁ、これは避けられないわ…イリス様。最後に会いたかった──


  オークキングの拳がアリシア目掛けて振り下ろされた。




「ケケケ。思ったよりも簡単な任務だったぜ。早くもどるぞ、ゾムーグァ様がお待ちだ。」


  そう言うと魔法陣が展開されアリシアを連れ消えていくのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



  一方凪たちは聖女が襲われているともつゆ知らず、露店巡りをしていた。


「おい!イリス!このスライムのかき氷めちゃくちゃ美味いぞ!!」

「そおなんですか?では、あーん。」


  口をちょこんとあけ、食べさせてと言わんばかりだ。 なんともあざといこの女神。


「……。今回だけだからな。」

「あむ。んー、ホントですね!意外です!」

「だろぉ!!ドラゴンの串焼きも美味かったがこれも中々。」


  うんうん。と大満足の凪であった。


「ねぇ、ダーリン。なにか記念になる物が欲しいです。もちろんお金は私持ちです。」


  俺はヒモかなにかなのかい?あともう少し小声で話してね、視線が刺さる…


「……ス様────!!!!

「ん?なにか言ったかしら?」

「嫌。俺じゃな──」

「イリス様ーー!!!」

「ん?なんかイリス呼ばれてない?」


  凪たち向かってくる者は、物凄い剣幕をしており、街の者は皆何事だと振り返っていた。


「イリス様!ここにいらっしゃいましたか…お願いします。アリシア様をお助け下さい。」

「なにがあった?」

「急に魔物の大群に襲われて、今アリシア様が戦っておられます。」


 ッ…!?

「イリス!!」

「わかっています。場所は?」

「ここから西に5キロ程です!!」

「わかりました。転移。」


  一瞬にして景色が変わり、森の中に移動した。 周囲を見渡すと、魔物を倒したのか魔石だらけであった。


「アリシア様はどこに…!」

「死体がないと言う事は連れ去られたか…」


  イリスはアリシアが流したであろう血の痕に視線をやり、悔しそうに唇を噛み締めていた。


「そんな…なぜアリシア様が!」


  イリスは顎に手をやりなにかを考えていた。


「……。まさ、か…やられましたね…。」

「どうゆう事だ!?」

「恐らくですが…アリシアを器にして邪神を復活させる気かもしれません。邪神の復活する傾向があったにも関わらず今まで何事もなく。ここにきてアリシアが攫われたとなれば、ほぼ間違いないでしょう。」

「なん、だと…。すぐ助けに行かないと。」

「そうですね、私が油断したばかりに…」

「今はそんな──」


  凪は途中で言葉を切った。 責任を感じて落ち込んでいるのかと思えばイリスのこめかみから額に、ミミズのような青筋を走らせ、 唇からは自分で噛みちぎったのか血が垂れていた。


  どうやら魔族達は虎の尾を踏んだみたいだ。と凪は額から汗を垂らした。


「魔族領まで転移します。」

「おい、俺は──」


  グライドの言葉は最後まで届かず凪とイリスは目の前から消え去ったのだった。


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