─聖女 アリシア─
凪たちは、剣聖との模擬試合を終え、王の間へと場所を移していた。
「勇者よ。いや凪と呼ぼうか。お前かなり強いな!」
「そちらの剣聖さんが手を抜いていただけじゃないですかね。」
チラっと剣聖の方に視線を送ると眉をしかめてひどく憂鬱そうな顔をしていた。
大方、姫さんにいい所見せようとして、余裕ぶっかましてたうえに一瞬で終わったから怒られたりでもしたのだろう。
ふっ。ざまぁみろ。
「なにかいい事でもありましたか?顔がにやけていますよ。」
ッ…!?危ねぇ、顔に出てたか。
「いや、なんでもない。」
「ふふ。私とこれからデートをする事がそんなに楽しみなのですか?」
「ちょ!?陛下の前だからね!?それとそんな約束はしてない。」
ほら、めっちゃ見てるじゃん…怒られたらイリスのせいにしよう。うん。俺は悪くないぞ。
陛下は顎に手を置き、話を続けてもいいか?と言わんばかりにこちらをジィーっと見ていた。
「まぁいい。凪の強さはわかった。これなら邪神も倒せるかも知れねぇな。それで、これからどこを目指すんだ?」
「正直な所。邪神が動き出さない事には、こちらも身動きが取れないと言いますか。特に決めてはいません。」
俺、獣人の国行きたいんだけど、今、口挟んだら怒られるかな…?
「そうか。それではしばらく帝都観光でもしたら良いだろう。異世界人には物珍しいみたいだからな。」
「そうする事に致します。では失礼致し──」
「あー待て待て!観光するならついでだ、聖女に会いに行け。なんなら一緒に邪神退治に行かせろ。それにまだ魔王軍の残党も残っていたはずだ。そっちも頼む。」
「聖女ですか…必要があれば立ち寄る事にしますが…残党ですか、それぐらいは帝国側で何とかして頂きたいですね。」
「まぁそう言うな。こちらでなんとかしたいのは山々なんだけどな、どーも残ってるのが四天王の一柱みたいでな。さすがに手に余る。そこで丁度よく勇者召喚だ、ついでに倒して貰いたい。」
「はぁ。ついでついでって四天王を片手間みたいに言わないで頂けますか?勇者様は便利屋じゃないのですよ。」
イリスはため息を付いたかと思えば、では。とだけ言い残し、お辞儀をし、そそくさと王の間を出て行こうとした為、凪も軽く頭を下げ急いで後を追った。
「イリスあんな所に置いていかないでよ。」
「申し訳ありません。あまり長居すると厄介事を押し付けられそうな気がしたもので。」
「もう既に押し付けられたじゃん……聖女?の人の所に行くの?」
「え?行きませんよ。そもそも必要がありませんので。元勇者は力が足りなかったので、聖女に同行して頂きましたが、今の私たちには必要ありません。」
行かないのかよ…聖女といえばシスター服を来た可愛い子のイメージあるから、一目だけでも見たかったってのが本音だけど、必要ないなら別にいいか。
「ふーん。それより帝都には獣人とかエルフとかはいないのか?」
イリスと二人で帝都のメイン通りに当たるだろう場所にいるのだが、普通の人しかいない。よくラノベとかだと亜人だとか獣人だとかが居るイメージなんだけどなぁ。これじゃあただの混んでるテーマパークだ。
「そうですね。帝都の人間は少なからず亜人種に対しての偏見がありますからね。他の国に行けば居ますよ。」
「そうなの!?じゃあ帝都観光やめて、違う国行こうぜ。亜人種見たいし。」
「遊びに来た訳ではないのですよ?」
「まぁいいじゃん。する事もないんだし。」
「まったく、仕方がないですね……では獣人の国ではいかがですか?」
「おっ!さっすがぁ。わかってるじゃん!」
イリスは子供の様にはしゃぐ凪をみて、頬を少し緩ませるのであった。
~~~~~~
帝都を観光せずに、現在凪とイリスはアンナロテ獣王国の前まで転移にて移動していた。
「さぁ着きましたよ。」
「いやーしかし転移ってホント便利だよなぁ。それって何処でも行けるの?」
「そうですね、一度立ち寄った場所なら大体何処でも行けますよ。」
帝都程ではないにしろ、やはり王国と言うだけあって、入口からでも見える城は大きく目立っていた。
「やっぱりどこの城もあんなにでかいの?」
「帝都に比べると小さいですが、こんなものですね。」
帝都とは違い周辺を歩く人達は。耳が犬や猫だったり、尻尾がありと様々だった。
「お、おおぉ!!これだよこれ!俺が異世界に来た意味はここにあったのか!」
「はぁ。邪神討伐に来てる事を忘れないで下さいね。」
イリスはやれやれ、といわんばかりの露骨な表情を浮かべた。
「まぁ堅い事言うなよイリスちゃん。」
「ッ…!?ちゃん??今イリスちゃんって言いました??」
イリスは鼻息を荒くして、凪の両頬に手を当てグイッと自分の方に顔を向かせた。
「ちょ!?首が変な方向に曲がってるって!」
「私イリスちゃんなんて初めて言われましたよ!!歳下扱いしないで下さいー。お姉さんムーブかましていたいんですから!!」
えー…なにそれ、そもそもお姉さんムーブってなに…そういや、コイツっていくつなんだ?女神だから歳とらないとか…?
凪がジィーとイリスの顔を見ていた為、なにかを察したのか頬を膨らませ始めた。
なにその顔。かわいい!!花丸あげちゃう!
「なにか失礼な事考えていますね…そんなに帝都に戻りたいんですか?」
「あー待って待って。ごめんて。イリスがそうゆう表情するの珍しいなって思ってさ。」
顔の前で手を合わせつつ、謝っていると膨らんでいた頬は徐々に元に戻っていった。
どうやら、多めに見てくれるらしい。
「ほら、中入りますよ。」
「へーい。」
女神と言っても普通の女の子なんだなと、少しほっこりする凪であった──
憲兵たちの検問を顔パスして王国の中に入る。さすがイリスちゃん。どこでも顔パスですか、そーですか。…………君一体どーゆー扱いなわけ…!?
皇帝陛下の態度からして、女神って事はバレていないのか…?さすがに女神相手に呼び捨てはいくら皇帝とてできないであろう。
街の中は帝都に似たような造りになっていた。広さに関しては劣るがそれ以上に待ち行く人達が違うのだ。八割程が亜人で溢れかえっていた。
イリスと共に街を歩いていると、他の馬車とは少し違い豪華な飾りなどがついた馬車が向かってくる。
凪たちは、道の端へと身体をよけるが、その馬車は凪たちを通り過ぎる事なく目の前で止まった。
凪は知り合いか?と視線をおくるがイリスは首を横に振った。
すると、馬車の窓がゆっくりと開き、中から女の子が顔を出した。
フードを被っていてよく見えないが、柳の若葉のように淡い黄緑色の髪をした女の子だった。
「イリス様!!」
フードの女の子が名前を呼ぶと、イリスは少し苦い顔をしてそっぽを向いた。
「ほら、イリス。呼んでるけど…知り合いじゃないの…?」
イリスが返事をしないので、ヒジで小突く。ねぇ、女の子泣きそうな顔してますけど!?イリスさーん??
「はぁーー。」
イリスは盛大な溜息をつき
「お久しぶりですね。アリシア。」
そう言った。
「やっとお返事してくれましたぁ…もう忘れてしまったのかと思いましたよ…」
どうやらこのフードの子はアリシアと言うみたいだ。イリスのせいでほんのり目が赤くなっていた。
「それでどうしてここに貴方が?帝都に居たんじゃないの?」
「少しコチラに用があったので、立ち寄っていたんでが、これから帰る所なんです。イリス様はなぜ獣王国に?それにお隣の方は?」
「じゃあさっさと帰りなさい。隣の方はゆう…私のダーリンです!彼がこの国を見たいと言うものですから。」
イリスは凪の腕を抱き抱えながら満面の笑みでアリシアへと返事をした。
当たってるからねッ!?健全な男子高校生を弄ぶのやめて貰えます??
「だ、ダーリン!?イリス様の旦那様という事は神様ですか!?す、すいません。今すぐ馬車を降りますので、お待ちください。」
イリスがアリシアと呼ぶ女の子はあわあわ、としながら急いで馬車を降りて、頭を垂れた。
「いや、イリスなりの冗談だから気にしなくて大丈夫ですよ。」
腰が引くくなっているアリシアをなんとか立たせて、経緯を説明する。
「ゆ、勇者様だったのですね!初めてお目に掛かります。アリシアと申します。」
「こちらこそ、山本 凪だ!イリスが悪いね。」
「いえ、とんでもございません。まさかイリス様がご冗談を言うとは思ってもみなかったですが…」
二人はイリスに視線を送るが本人はどこ吹く風という表情をしていた。
「では、私は先に帝都に戻っていますので、お戻りになられましたら教会まで足をお運び頂ければと思います。」
「了解!戻ったらイリスを連れて教会に行くよ!」
「では、凪様、そしてイリス様。失礼致します。」
軽くお辞儀をし、馬車の中に戻りそのまま走り去って行った。
「ダーリンは女の子と仲良くなるのが早いですね…イリスは悲しいです。ヨヨヨ」
イリスは手を目元へ持っていき、よもや泣いているかの様に泣き真似をはじめた。
そんな様子を見て凪はこいつはホントに女神なのか?と肩をすくめるのだった。
「冗談はさておき、あれが聖女ですよ。魔族に対しての特攻魔法を持った子です。少々めんどくさい子なので、あまり会いたくなかったのですが…」
「さっきの子が聖女だとッ!?確かにどこか品がある感じがしたけど…イリスの事は女神だって知ってるの?」
「そうですね、あの子だけは私が女神だと知っています。勇者と共に魔王退治に行かせたのも私ですから。」
イリスは、さも私が聖女を行かせたから魔王を倒せたとでも言わんばかりの顔をし、胸を張っていた。
そして、胸を張った為、その豊満な乳房が強調され、周辺の視線を独占していた。
まぁそもそも魔王倒せてないけどね…逃げられてるし…ぷぷ。とは口には出さず心にしまっておく凪であった。
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一方その頃 魔族領──魔王城
魔王の玉座には一人の男が座っていた。
片腕に龍をやどす四天王の一柱だ。
静寂に包まれる中、一人の魔族が慌ただしくドアを開け声を挙げた。
「勇者が召喚されたようです。」
「なんだとッ!?この前の奴らか?」
「いえ、どうも別の勇者みたいです。」
「チッ。邪神復活を悟られたか?」
「優秀な者が居るのかも知れません。」
「邪魔になるようなら殺せ。そして、早く聖女を連れてこい。器にするには丁度いいだろう。」
「ハッ。」
くそ。忌々しい勇者め。またしても我々の邪魔をしようと言うのか!
まぁいい。聖女さえ手に入れば人間界など、すぐに滅ぼしてくれようゾ
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