─思わぬ再会2─ side梓



「グリザード様……なぜここ、に…」


  神楽は頭の中が痺れて目の前の現実が受け入れられずにいた。


 確かにあの時お二人は……


  見た目は確かにグリザードだった。頭の右側から角を一本伸ばし袴に似た物を履いていて、背中には身の丈程ある大きな剣を背負っており、どこはかとなく凪に似ていた。


  なぜこんな所に。幻術かなにかの類なのか、神楽は必死に考えるが頭が回らずにいた。


 そんな神楽へと梓から声がかかる。


「神楽ちゃん知り合いなの?」

「梓様。あの方は……あの方こそ、凪様の父親です。」


  ッ……!?


  そこに居た誰もが驚きを露わにしている中、真っ先に声を出したのは坂柳だった。


「今なんて言った……?アレがアイツの父親だとッ!?」

 

  坂柳は驚きと怒りを同時に感じ、元勇者パーティもまた、その名前を聞き複雑そうな顔をしていた。


「グリザード……魔王軍の一柱が父親だと言うのか!答えろ!!」


  神楽はしまった。と言わんばかりに、口をつぐみバツの悪そうな顔をした。


  口をつぐんだ神楽へと聞いているのか?と坂柳が神楽へと詰め寄り、肩を掴もうとした──



「神楽よ、久しいな。」

「ッ……!?」


  坂柳の手が止まる。 そして、身体が小刻みに揺れ始めた。


 何があった?グリザードが声を発した。ただそれだけだ。


  たったそれだけで、坂柳は死を感じた。この手を伸ばしたら僕は死ぬだろう。そう感じた。


「グリザード様。お久しぶりでございます。」


  神楽は平然を装いつつ頭を下げた。しかし身体は正直なもので、坂柳同様に身体を小刻みに揺らしていた。


  頭を下げたまま神楽は思った。あれはなんだ?と。見た目、声。どれを取ってもグリザードに間違いは無い。しかしどこか違和感がある。


「知らん顔が幾つかあるな。」

「…………。」


  神楽は頭を下げたまま、口を噤んだ。


 それもそのはずだ。元勇者だとバレれば一瞬にして殺されるであろう。グリザードはそれほどまでに、殺気に満ち溢れていた。



  そんな中、お気楽な女が一人………そう。梓だ。




「なぎなぎのパパさん?初めまして。近いうちになぎなぎのお嫁さんになる予定の、神崎 梓です。よろしくお願いします。」

「ちょ!ずるいですよ。梓先輩!一人だけポイント稼ごうなんて!!」


  梓はスカートを履いていなかった為、服の端をちょこん。と掴み優雅に挨拶をしてみせた。そして、橘はと言うと、口には出すが恐怖からか、身体を動かせずにいた。


  周辺一帯が静寂に支配され、そんな梓を見て皆が唖然とする中、グリザードが大声をあげ笑いだした。


「ガハハハハハハハ!ハッハハ。おい神楽。なんだこの嬢ちゃんは!?俺がこんだけ殺気放ってるにも関わらず結婚の挨拶してきやがったぞ!!」


  グリザードはさっきまでとは打って代わり、あれだけ殺気に満ち溢れていたとは到底思えない程だった。


  神楽はきょとん。という言葉が似合いそうな程に目を白黒させていた。


「おい、嬢ちゃん。梓とか言ったか?息子はどんな感じだ?俺に似ていい男だろ?」

「はい、お父様。なぎなぎはもうすっごくカッコイイですよ!ぶっきらぼうだけど、凄く優しいし、面倒見もいいです。女の子を見掛ければすぐ天然ジゴロを始めちゃうのが難点ですけどね!」

「そうかそうか!あいつは母親に似たところがあるからな、女の事はそうだな…俺に似たな。すまん!」


  梓とグリザードはホントに結婚の挨拶でもするかのように、本人不在のまま凪の事を話しあっていた。


「え?……え??あの…グリザード様??」

「ん?何オドオドしてんだ?そもそもなんでお前こんな所にいるんだよ?」


  グリザードがそう言うと神楽は身体を別の意味でぷるぷるとし始めた。


「おい、聞いてんのか?なぁ嬢ちゃんよ。コイツお堅いだろ?昔からそうなんだよ!ガミガミとうるさくっ!?危なッ!!」


  グリザードが梓に神楽の悪口吹き込んでいると足もとから急に火柱が上がった。


「貴方といい人は…………。せ…ざ……い。」

「あ?何だって?聞こえねーぞ??」


  グリザードが耳に手を当て、もっと大きな声で話せと言わんばかりの態度を取ると── 神楽がキレた。


「そこに、正座しろって言ってるでしょうがぁ!!!」


  神楽がこれでもかと大声で悲鳴かと思わせる叫び声をあげると同時にグリザードは瞬時にその場で正座をした。


  神楽はゆらゆらとグリザードへと近づいていきお説教らしき事を始め、あのネーヴェでさえも神楽のその姿を見て唖然としていた。


「だいたい貴方はですねいつもいつも── 」

「ま、まぁ神楽ちゃん一旦落ち着いて……」

「ですが……」

「神楽よ、ひとまず話を聞こうか。」


  ネーヴェが声を掛けると神楽も落ち着きを取り戻しグリザードへと、視線をむけた。


「こっちの嬢ちゃんは……原初。だな?それで?なにを聞きたい?」


  グリザードは正座のままネーヴェへと視線を向けた。


「あぁ。その通りだよ。グリザードよ、私は神楽たちを通して君を見ていた。そして、ちゃんと死んだ事も確認してある。それなのにどうして君はここに居るんだい?」

「正直、俺にもわからん。だが、やる事も状況もはっきりとしている。順に説明すると、まず俺は確かに死んだ。美月と一緒に。しかし魔石は残った。この世界にな。それを利用された訳だ。魔石が残ってれば復活は可能だ。極めつけはここの魔素量だな。その二つさえ揃っちまえば後は簡単てなわけだ。」


「ふむ。なるほどね。しかし君は神楽の姿を見てもなお私たちを殺す気だったね?」


「あぁ。目が覚めた時はそうだった。頭の中でこの世界を壊せ。と目の前にいるやつは全員殺せ。そう響いてた。しかしな……息子の嫁さんがあまりにも…な。それに呆気を取られてたら頭が冴えてな。おそらくベルベット辺りが生き返ると同時に魅力でも掛けたんだろうな。それが解けちまったってわけ!」


  ネーヴェはグリザードの話を聞き、思わず笑ってしまった。仮にも魔王軍の幹部の魅力だ、かなり強力な事に違いは無い。それをただ結婚の挨拶をしただけで解いたのだ。そんな事があるもんかと。


「ふふ。確かにあれは私たちから見ても想定外だったよ。お手柄だったね、梓。」

「ふふーん。だってなぎなぎのパパだよ?挨拶しときたかったんだもん。」


  想定外の出来事だったにせよ、ここに居る全員にとって梓は命の恩人という訳である。


「さすが息子を選んだだけあるな!それで話を続けるが、何故お前らがここにいる?そして俺の息子はどこにいるんだ?」

「そうだね、まず私たち精霊は皆が主様と契約している。だからこの世界に顕現できているんだよ。そして、主様は今恐らくあちらの世界にいる。女神イリスの事は知っているかい?」

「やっぱりお前らは凪を選んだのか。そして原初を顕現させるだけの力が凪にはあったと。あちらの世界ってのはあれか?俺らの世界か?女神イリスに関しては双刃の事か…。」

「そう言う事になるね。そう、私たちの世界だ。双刃……その通りだ。彼女が主様を連れて行ってしまったんだよ。邪神が復活したからと言い残してね。」


  グリザードはクソっ。と忌々しそうに拳を地面へと叩きつけると、地面が大きく揺れた。


「おい、原初。お前ゲートを開けるか?」

「主様が居ない今私にそこまでの力はないよ……ただ膨大な魔力を秘めた物があれば開くことは可能だ。例えば四天王クラスの魔石。とかね。」

 

  グリザードはネーヴェの言葉を聞いてニヒルな笑みを浮かべた。


「そりゃいい事聞いたぜ。あるじゃねぇか、特大のが…………ベルベットっていう魔石がよぉ!」

「ふふ。君も大概だね。」


  そう言うと二人は笑いあった。


 二人が笑いあう中それをよしとしない者がいた。


「おい、和んでるんじゃねぇ!そいつは魔王軍の幹部だぞ!!今ここで殺す!」


  先程までずっと蚊帳の外だった坂柳。そして元勇者メンバーたちであった。



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