─思わぬ再会─ side梓



「ねぇ、なぎなぎ消えちゃったんだけど!!」

「ふむ。まぁ落ち着きたまえ。私が主様とのパスを探ってみよう。」


  ネーヴェは静かに目を閉じ、凪とのパスを探す。


「なん、だと…主様とのパスが完全に切れてる。」

「どうゆう事なの…」

「……本来私たちは、精神世界にて主様とパスを通して繋がってるはずなんだ、だから主様が呼んだ時にすぐ顕現する事ができる。だがそのパスが切れていると言うことは主様が私らの名前を呼ぼうと顕現する事は叶わない…そして、逆も然りだ。」

「どこにいるのかもわからないって事?」

「簡単言ってしまえばそうだ。」


  不測の事態に皆が慌てだす。 梓達はもちろんだがネーヴェが取り乱すのは珍しい。決して油断をしていた訳でもない。警戒もしていた。 しかし、少女の何も聞くなと言わんばかりの雰囲気に皆その後をついて行くしか無かった。


  先程の水晶は光が治まったと同時に割れてしまっていて、恐らく触れた所で反応はないだろう。


  ネーヴェは顎に手をやり何十通りもの可能性を考える。


 どこに飛ばされた?パスが切れるなんてよっぽどだ。この世界にはいない…? だが、この程度の祠で転移させられるだけの力を持つ者なんて限られている。そもそもあの風貌と、あの雰囲気…どこかで感じた事がある。イリス…ただの偶然か?あれがわざわざ出張ってくる道理はないはずだ。しかし……


「おい!どうすんだよ!あいつら消えちまったじゃねぇか!」


  坂柳は頭をガシガシと掻きながら苛立ちをあらわにし、近くに散乱していた瓦礫などを蹴り上げた。


「ごめんなさい。私があの少女を助けたから…」

「胡桃のせいじゃないわよ。誰が見つけても助けてたでしょうし。和馬も辞めてちょうだい。」

「そうだね。まずはこれからどうするかを話し合うべきだと私は思うよ。」

「とりあえず戻ってくるかも知れないし、少し待ってみ──」


 ッ…!?


  梓の言葉を遮るように、急に空間が歪み出し、かと思えば、ブロンドヘアーの女性が突如現れたのだ。


「ッ…!?」

「イリス!?なぜこんな所に!」

「あら、勇者様。お久しぶりです。魔王討伐ありがとうございました。」

「どうして君がここに居るんだ?何かあったのか?」

「あったと言えばありましたが、今回は勇者様のお力は必要ありません。私は少しご挨拶に来たに過ぎません。すぐに帰りますゆえ。」


  イリスが少し煩わしそうに坂柳の相手をしていると、ネーヴェが近づき、声を掛けた。


「……イリス!やはり君か。」

「あら、ネーヴェ。居たのですか。」

「……相変わらずだね、君は。性格が悪い所も変わっていないようだ。」

「ふふ。そんな事言うのは貴方だけよ。」


  二人は見つめ合ったままお互いに目を逸らす事はなかった。イリスのニコニコとした笑顔に対して、ネーヴェは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「それで?主様をどこへやった。」

「そんな怖い顔しないで下さい。私の世界を救って頂こうと少しお借りしただけです。」

「今すぐに返して貰いたいのだけどね。」

「それは少し難しいですね。邪神を倒し次第すぐに戻って来ますので、それまでは貴方たちだけでこの世界を守って下さい。」

「それなら私も連れていくべきだったのではないかね?」

「いいえ、あの方のお手伝いは私がしますので、必要ありません。そもそも貴方のような存在がなぜこんな所に顕現しているのですか?」

「それはお互い様ではないかね?」


  普通に話してはいるが、二人の間の空間は先程までとは比較にならない程張り詰めていた。


  もし、凪がこの場に居れば、俺の為にとか言いつつ、場を和ませることが可能だっただろうが、現在その役割を果たせる人物がここにはおらず、皆は固唾を呑むだけだった。


「はぁ。私はあの方に言われ、仕方なく。報告しに来ただけですので、戻りますね。あまり待たせても申し訳ないので。」

「待つんだ!まだ話は──」


  イリスはそれだけ告げると、先程、現れた時同様に空間が歪み出し、ネーヴェの言葉を最後まで聞くことなく、消え去った。


「やはりあちらの世界に飛ばされて居たのか…全く煩わしい。まさか女神に目を付けられていたとは。」

「ねぇ、ネーヴェちゃん。なぎなぎ戻ってこないの?」

「あぁ。しばらく無理だろうね。邪神を倒すとか言ってたからそれまでは恐らく。」


  ネーヴェが告げると梓は目を伏せ独り言のように


「また離れ離れ…か。」


  と呟くのであった。



~~~~~~



  梓たちは、現在、森を彷徨っていた。


  すると突然、坂柳が「本当にこんな所にあるのか?そもそもなんで僕がこんな事しないといけないんだ。」と言い出した。そして、村瀬が「じゃあ、和馬だけ一人で戻る?」と言うと、坂柳は、不機嫌そうに舌打ちをし、表情を曇らせた。


「んーおかしいなぁ。多分この辺りのはずなんだけどなぁ。」

「梓よ。そのスマホとやらで調べたらいいのではないかい?」

「私意外と機械音痴なんだよねぇ。」

「ふむ。確か神楽が詳しかったはずだ。呼ぶか。」


゛神楽よ。出てきていいよ ゛

  ネーヴェの身体から光の粒子が溢れ出すと目の前に神楽が現れる。


「神楽と会うのなんか久しぶりな気がするね」

「そうですね。梓様、スマホをお借りしても?」

「ほいっ。」


  梓がスマホを渡すとポチポチと手馴れた手付きでいじり始めた。


「目的の場所ってこれですよね?だとすればもう少し進めば見えてきますよ。」

「おぉ、さっすが神楽!」

「あれじゃないですかね?」


  見えてきたよ!とツインテールを揺らしながら先頭を歩く橘はどこか楽しそうである。


「ほぉ、これは中々すごいじゃないか。」


  イリスが消えた後、なぜ森を彷徨って居たのか…その理由がここである。


  入口には赤い鳥居があり、その奥には先ほど見た祠とは違い、細かい彫刻や飾りが付いている立派な祠があった。


「ここにも水晶あるかなぁ??」

「随分と立派なようだし、あるかも知れんな。」


  祠にある水晶を使えば私たちも転移できるかな?と梓が言い出したのがきっかけであった。


  先程の祠で感じた異様な雰囲気は感じないがまた別の禍々しさが残る祠であった。そして、 梓たちは祠の周辺をうろうろとしながら水晶を探すがそれらしき物はなかった。


「もぉなにもないなら帰ら──」


  坂柳がそう言いかけた時


「あら?あなた達ここになんのようかしら?子供が来ていい場所じゃないわよ。」


  急に空から声が聞こえ、皆が上を向くとそこには、翼をはためかせて、頭には角が2本。そして、長く綺麗な白菫色をした髪の毛を風と共になびかせた女がいた。


  ネーヴェが驚きをあらわにし、名前を呼んだ。


「ッ………!?ベルベット。」

「ネーヴェちゃん知り合いなの?」

「知り合いとかそうゆう話ではない。あれは魔王軍幹部。一柱でもあるサキュバスのベルベットだ…」



「「「「ッ…!?」」」」


「ベルベットと言うのか。なんと美しい…」


  坂柳の記憶のなかにも、サキュバスは整った容姿をしているとあったのを覚えている。 でもこれは……。恐れ慄いてしまうくらいに、現実離れした容貌に目を逸らせなくなっていた。


「男達は見るな!魅了されるぞ!」


  ネーヴェが叫んだ時には既に遅く、坂柳と国嶋は完全に堕ちていた。


「あら詳しいのね。それで貴方たちはここで何。をしているのかしら?」


  その瞬間、空気がズンッと重くなった。


  ベルベットが殺気を放ったのだ。


  主様がいない状態で勝てるのか? 梓はまぁまぁ強いが他の者達が弱すぎる。勝てるわけがない。 そしてここに来た理由がわからない。なぜこんな所に…


「ねえ貴方達。この辺にさっきまで、でかい奴いなかったかしら?誰かに倒されたみたいだけど。」


  まずい。恐らく私達が倒した事はバレてる。下手に言い訳をするだけ無駄か…


「その通りだ。私たちが倒したよ。」

「ふーん……まぁ別にいいけどね。」


  なんだ?私達を殺しに来た訳では無い??本当に目的はこの祠だと言うことか…?


「私達はただここに祠があるって話を聞いて見に来ただけだよ。」

「あらそう。じゃあ早くここから立ち去りなさい。」


  そうさせてもらおう。今戦うには分が悪すぎる。


「さぁ行こうか。」


 ネーヴェが梓たちを促し立ち去ろうとする──


「あ、少し待ってくれる?そこの。何処かで見た顔ね。」


 ッ…!?


「ふふ。思い出したわ。勇者…ね?直接は会ったこと無かったけど顔は見た事あるわ。」

「ええ、そうよ。そこの魅了されてるバカが元勇者よ。」

「あら?隠さないのね。」

「隠した所でバレるでしょうから。」

「賢明ね。でも元勇者でも居ると後々邪魔になりそうなのよね─── 殺そうかしら。」


 ッ…!? 張り詰めていた空気が更に重くなった。男共は使い物にならない…このままだと確実に死ぬ…


  ベルベットはネーヴェたちに手を向け巨大な魔法陣を足元に作り出した。


  まずいッ…!!


「では、さような──」


  魔法を放とうとした瞬間。 ゴオーっと地響きが聞こえ地面が揺れ出し、立派だった祠が揺れにより徐々に崩れていく。


「あら、早いわね。もう少し掛かるかと思ったけども…丁度いいわ。少し様子を見ることにしましょうか。」


  そう言いベルベットは空へと飛び立って行き、 祠は完全に崩れ落ち瓦礫の山となっていた。


  皆が、唖然とする中、ネーヴェはベルベットがこの場に居ないにも関わらず殺気が消えていない事に気付く。


「どうゆう事だ…」

「とりあえず助かったのかな?」

「いや、私はベルベットの事を言っているのではない。…まだなにか他に──」


  その時、先程の瓦礫の山が爆発したかの様に散乱し。もうもうと砂煙が巻き上がった。

 

  少し経つと徐々に砂煙が晴れていき、そこには一人の男。いや、鬼が居た。


 ッ………!?


  そして、黙っていた神楽がゆっくりと口を動かした。






「なぜこんな所に…………



グリザード様……。」



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