─アランヒル帝国─




  これぞまさに異世界!!


  一言で言えば連れて来てくれてありがとう!だ。

見るからに豪華そうで一際目立った城がありそれを囲むように建物が並んでいる。


 まだ入り口なので、お城まではかなり距離があるはずなのにここまで目立つって事はかなり大きい。


  これこそファンタジー世界と言えるだろう。


「なぁ。入り口に憲兵みたいの居るけど普通に入っていいのか?」

「問題ありません。私と居れば街の住民だと思うように細工してありますので。」

「おぉ、それなら早く入ろうぜ!」


  彼女は、子供の様にはしゃぐ、凪を見て少し微笑みながら「そうですね」とあとを追った。


  さすがは女神と言った所か、攻撃力が高すぎる。少し微笑んだだけで、ここまで可愛く見えるのか…


  大きな門のある入り口を何食わぬ顔で通り抜け、帝都に入ると、人混みで溢れていた。


  20人は横に並んでも余裕がありそうな道路になっており、馬車なども通っていた。道路の端には屋台や、お土産屋なのかお店がずらーっと並んでいる。


「中もすげぇな!」

「ふふ。楽しそうですね。連れてきた甲斐がありました。」


  屋台を覗くとドラゴンの肉!オークの肉!などと書いてあり、食欲をそそられる。


「食べますか?」

「いいのかッ!?」


  彼女は「構いませんよ」と何処から出したのかお金みたいなものを店主に払い、ドラゴン肉の串焼きを凪へと渡した。


「じ、じゃあいただきますッ」


  ジュワっと肉汁が溢れてきて、日本で食べていたサーロインステーキに似たような味をしており、想像以上においしかった。


「貴方様。この世界について少し説明しておきますね」

「あぁ。それはお願いするが…その貴方様ってのやめてくれ。他人行儀だ。」

「失礼致しました。ではなんとお呼び致したら?」

「別に山本でも凪でもなんでもいい。」

「そうですね…では、親しみを込めてダーリンとでもお呼びしましょうか。」


 ブハッ

「ふふ。冗談ですよ。普通に凪と呼ばせていただきますね。」


  女神でも冗談とか言うのかよ、まじでビビった。頼むから梓の前では辞めてほしい。


「あぁ、そうしてくれると助かる。」

「それでこの世界ですが、まず私達がいるここアランヒル帝国を真ん中に見て頂き、それを囲むようにイドラジェニス王国、アンナロテ獣王国、ハティス王国がございます。戦争などは今はございませんが。いつ起こるかなどは分かりかねます。そしてアンナロテ獣王国から更に南に進むと魔族領がございます。海を渡れば他にも国がございますが、立ち寄る事はないと思われますので省かせていただきます。」


  アンナロテ獣王国…絶対に行こう。てゆか魔族領なんてあんの?魔王居ないのに?


「なんでまだ魔族領があるんだ?魔王は日本に居るんだろ?」

「確かに魔王は日本に逃げておりますが、魔族の生き残りはまだ大勢おりますので。」

「なるほどね…それで邪神とやらはどこの国に居るんだ?」

「……わかりません。」


  わからないのかよ!! そんなんでよく倒して下さいとか言えたな!


「そもそも既に目覚めているのかどうなのかすら定かではありません。」

「…どうやって探すんだよ。」

「恐らくですが、目覚めるなりすれば私の女神としての直感が働くはずなのですが…」


  直感て…大丈夫かコイツ。これ引き受けたらダメなやつだったんじゃね…?


「はぁ。やめやめ。とりあえず異世界を満喫する事にするわ。」

「申し訳ありません。それと、これから皇帝陛下にお会いになって頂きたいのですが…」

「え?普通に嫌なんだけど…」

「ありがとうございます。ではさっそく向かいましょう。」


え?俺今断ったよね?そんな可愛く微笑まれてもついて行かないからね! ……お願いだから引っ張らないで。


「ッ…!?俺のステータスをもってしても振り解けないだと…。さてはお前のうき──」

「ダーリン?今なにか言おうとしましたか??」


  ……。すみません。もうなにも言いません。 どこへでも連れて行ってください…。


「はい。では参りましょう!ダーリン。」



~~~~~~




「さぁ着きましたよ。」

「ここが…さすがに目の前まで来ると圧倒されるな」


  城壁は10メートル程あるだろうか、歴史の重みを感じさせる石造りの壁がそびえ立ち、その石一つ一つが何百年もの間、風雨に耐え続けてきた証を示していた。


  大門の前には、憲兵らしき人たちが整列している。 彼らの姿は凛としており、磨き上げられた銀色の鎧は、太陽の光を受けて輝きを放っていた。


「何者だ。止まれ。」


  大門の前まで行くと憲兵の人に止められる。


「ねぇ、これ大丈夫なの?」

「問題ありません。イリスが来たとお伝え下さい。」


  そう言うと憲兵の人は城の中へ走っていった。許可を取りに行ったのだろう。


「確認が取れました。どうぞお通り下さい。」

「では行きましょうか。」

「待ってくれ。俺は礼儀作法なんて知らないぞ!」

「大丈夫です。頭を下げる必要などはありません。」

「首とか跳ねられない…?」

「ふふ。ダーリンのステータスなら大丈夫でしょう。」

「ねぇ、それ陛下の前ではやめてね…」


~~~~~~


  凪たちは王の間へと足を踏み入れた。


  広大な空間の中には、豪華な玉座が高台に置かれ、赤い絨毯がその足元から入り口まで続いていた。


  玉座の背後には、王国の歴史を描いた巨大なタペストリーが垂れ下がり、王の権威を象徴していた。


  玉座には白い髭を生やし貫禄のある中年の男がおり、赤いマントを羽織り頭には王冠をつけている。


  そのすぐ隣には純白のドレス身に纏い。背中辺りまである青みを含んだグレーの髪をした女性。頭にはティアラを付けている。


  部屋の端には憲兵達が控えており、あらゆる視線を集め、皆その荘厳さに圧倒されながらも、王の一声に耳を傾ける。


「イリスか。何用だ」


  ねぇホントに大丈夫?少し怒ってません??


「今代の勇者様をお連れ致しました。」


  イリスが勇者と言った瞬間、辺りがざわつき始める。


「ほぉ、勇者か…魔王がいない今、なぜ勇者を呼んだ?」

「邪神が復活致します。」

「なんだと!それはまことか!」

「ええ、嘘を付く必要がありますか?」

「そうか…勇者よ、名はなんと言う。」

「山本 凪です。」

「余は皇帝パトリック・アランヒルだ。隣におるのが娘の―」

「凪様、お初にお目に掛かりますフローリア・アランヒルと申します。どうぞフローリアとお呼び下さい。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」


彼女は、スカートの端をちょこんと持ち、優雅にお辞儀をして微笑みかけていた。


異世界のお姫様キター!って声に出したい気分だ。女神ほどではないが、やっぱ異世界だけあって美人な人が多いな。


「自己紹介は済んだようなので話を戻しますね。まだ先にはなりますが、邪神が復活したら魔族領へと視察に行きます。」

「おぉ、そうか!魔族達も大人しくはなったがまだ生き残りがいるからな。どれ、勇者がどれ程のものか試してみようぞ。」


おいおい!いきなりなに言い出してんだこのおっさん。そうゆうの求めてねぇからな!!


「構いませんよ。なんなら帝国一、強い兵士でも連れて来たら如何かしら?」


お前までなに言っちゃってるの?帝国一、弱い奴連れてこいや! イリスにキッと視線をやるが、何食わぬ顔で微笑み返された。


「どうやら自信があるようだな。いいだろう。剣聖を連れてこい。」

「ハッ!」


剣聖だと?こっちは剣術に毛が生えた程度だぞ!そんな危なそうな奴連れて来るんじゃねぇよ…


「ダーリン頑張って下さいね。」

「バカっ。聞こえるだろうが!」


2人でコソコソと話していると


「剣聖を連れてまいりました。」

「陛下。お呼びでしょうか?」


見た目は普通のお兄さん?だな。多分。ん? 皇女様めっちゃニコニコしてんじゃん!

え?なに?そうゆう関係なのかな?


「イリス、あの二人ってそうゆう関係なのかな?負けてあげた方がいいかな?」

「ふふ。負けたら大声でダーリンと呼びますわ。」


  ひぃー。怖い怖いやめて、その目…ガチじゃん…


「ふむ。よくぞ参った。リベリオよ、お主の隣におるのが今代の勇者よ。手合わせしてみよ。」

「ハッ。……君が勇者くんかな?お手柔らかに頼むよ。」

「ええ、こちらこそ。」

「では、広場に移動するぞ。」



~~~~~~



「なぁイリス、俺剣持ってないんだけど。」

「そうですね…私はここでは顕現出来ませんので何か、お借りしましょうかね。」

「でもさ、あれ見てよ。すごいカッコイイ剣もってるよアイツ。絶対いい剣だよ。ずるくね?」

「宝の持ち腐れと言うやつですね。」


  それはそれでひどいのでは…?


「あのぉ!刀とかってありますか?俺何も持っていないので」

「ふむ。確か武器庫にあったであろう。あれを持ってきてやれ。」


  刀とか使わなそうだもんな。異世界人は剣ってイメージしかない。手入れとかされてないナマクラ持ってきそう…


「これでよろしいでしょうか?」

「あ、はい。ありがとうございます。」


  鞘から刀を抜き確認するが、意外と手入れがきちんとされており、光り輝いていた。


「勝敗は、武器が壊れる、又は相手が降参するか。では、始め!」


  剣聖は、剣先を此方に向け、構えをとった。


「先攻は譲ってあげるよ。」


  おっと。俺なめられてる?一瞬で終わらせてやろうか。


 チラッとイリスに視線をやると、指で丸を作っていた。


  もしかして心の中読めるタイプの女神様でした…?


「その言葉、後悔しないでくださいね。」


  刀を鞘に納め左掌で鞘を握り、親指で柄の方に押し出し、右手で柄を握り、構えを取る。


  広大な広場を静寂が支配する中、凪は動いた。


「シッ!」


  大地を蹴り上げ一瞬にして間合いを詰め

  勢いを殺す事なくそのまま刀を抜き、疾風のごとき速さで振り抜いた────




 キンッ


  と相手の持っていた剣の、剣先が折れ地面に突き刺さる。


  その光景に誰もが圧倒される。瞬きをした瞬間に終わっていたのだ。


 いくら剣聖と言えど見えないものには対処は出来なかったようだ。


  静寂を打ち破ったのは皇帝陛下だった。


「一本!武器破壊の為、勇者の勝利とする。」


  勇者様と呼ばれ振り向くとイリスがおり。



「さすがですね……だーりん。」



  と耳元でこっそりと呟いでくるのであった。




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