─異世界転移─





「目が覚めましたか?」


  目を開けると、窓の外からは小鳥たちがさえずり、朝日が輝き始めていた。カーテンの隙間から、やわらかな光が部屋に満ちていた。


  ッ…!?外が明るいだと!?


  凪は咄嗟に身体を起き上がらせた。


「山本 凪様。ここは、貴方様のお部屋を再現させて頂きました。真っ白いお部屋はお嫌かと思いまして。」

「……誰だお前は?」

「私の名前はイリスです。家名もなにもない。ただのイリス。」

「ッ……!?お前あのちびっこか!」


  言われてみれば髪や目の色が同じだ。長い髪がお尻辺りまで伸び、血管が浮きでそうな腕と足はスラリと長く、全身がキュッと小さい。その気品ある雰囲気は、女神と言われても遜色はないだろう。


「少女の姿の方が話を聞いてくれるかと思い。騙してしまい、申し訳ありませんでした。」

「それで。俺になんのようだ?」

「現在、そちらの世界が大変な事は重々承知しております。ですが、私たちの世界もお救い頂けないでしょうか?」


  はぁぁぁ。 また厄介そうな話を持ってきやがった。


「そもそも俺は自分の世界を救う気なんてねぇよ。そんなのは元勇者様がやってくれるだろうし。なんならアンタの世界もアイツに救ってもらえよ。」

「ご無理をお願いをしているのはわかっております。ですが彼では無理なのです。以前は私からスキルを与える事ができたのですが、現状スキルを与える力が残っておりません。」

「ネーヴェ達は呼べるのか?」

「申し訳ありません。精霊とのパスは残念ながらこちらの世界に居る間は繋がりません。なので呼ぶ事も不可能です。」

「スキルもなし、精霊もなしで世界を救えって?なおさら無理な話だな。」

「いえ、その点に関しては私をお使いください。精霊達と同じ役割は可能です。もちろん元の世界に戻った後は私も協力させて頂きます。」


  スキル、精霊はなし。だけど精霊の代わりはできる。戻ったら手を貸すと。正直俺にメリットがなさすぎる。ただひたすらにめんどくさいだけである。


「断る。メリットがない。」

「メリットですか…わかりました。もし私達の世界を救っていただけたなら、先程の条件になんでも願いを一つ叶える。をくわえるのは如何でしょうか?」

「なんでも。ね…。いいだろう。但し、後出しはなしだ。必ずどんな願いだろうが一つ叶えて貰う。」

「かしこまりました。女神に二言はありません。」


  女神?今女神って言った?確かに女神みたいに綺麗だとは思ったけど…新しい精霊なのかな?とか思ってたんだけど…


「そろそろ飛ばしてもよろしいでしょうか?」

「いやダメでしょ!なにすればいいのかとかなにも聞かされてないんだけど!?」

「これは失礼致しました。話は簡単です。もうすぐ復活する邪神を滅ぼしてくれればいい。ただそれだけです。」

「いや、邪神て…仮にも神だろ?俺ごときが勝てるわけなくね?」

「貴方様と私がいれば勝てます。」

「なぜ言い切れる。」

「…貴方様はご自身の精神世界になにか飼っていますね?なら邪神の闇に呑まれる事もないでしょう。後は貴方様は単純に強いですね。ステータスが異常です。」


  なんの話だ?精神世界になにか飼ってる?ヴァンスの事か?いや、あいつは消えたはずだ。こいつには何が見えている…?


「言ってる事がよくわからねぇが、何も飼ってるつもりはない。」

「そうですか。今はそれで構いません。倒してさえ頂ければこちらとしても問題ありませんので。」

「はぁ。わかったよ。なに言っても無駄そうだ。」

「ご理解頂けて助かります。では転移致しますね。」


 イリスがそう告げると、一瞬で風景が変わり周辺一帯が見渡しの良い草原へとなる。


 空は青く太陽が2つある、ところどころ背の高い草が群生している。草原の向こうには木々に包まれた小高い丘、小さな山が幾つか連なっており、更に遠くには標高の高そうな山の峰々が見え、反対側を見れば街のようなものも見える。


【魔を滅ぼす意思を持つ者を確認。山本 凪に称号を付与します。】

【一定数のレベルを確認。スキルをアンロックします。】


「なぁ…なんか今称号が付与されたんだが…」

「私が付与いたしました。」

「いや、付与いたしましたって…」


  とりあえず確認するか。

  ステータス

────────────────────

山本 凪 17歳 レベル348 人族?

HP 2950/2950 MP 2800/2800

攻撃  2034+305

防御  1985+297

素早さ 2170+325

運   80

侵食度 87%

スキル 精霊召喚、精霊武装

    -神楽-蒼波-星雷-ネーヴェ

    闇の一閃

    冥闇

    幻影

    鑑定眼

    光刃閃舞


称号  世界を壊す者

    異界の勇者

────────────────────


 …変な称号あるじゃん。レベルに関しては、ギガス倒したしまぁこんなもんだろ。それよりも、異界の勇者ってなんだよ!まじでいらねぇわ!新しいスキルまであるし………ん?詳細見れるようになってるじゃん。鑑定のお陰か?知らなかったわ。


 どれどれ。


゛光刃閃舞 ゛

『空間が光で満たされ、数多くの刃が敵に向かって舞い、敵を切り裂く。』


  うわ、えっぐ。さすが勇者スキルって感じか。ヴァンスのスキルも一応見とくか。


゛闇の一閃 ゛

『漆黒の斬撃を飛ばし、敵を切り裂く。』

゛冥闇 ゛

『漆黒の霧を一定範囲に振り撒く。』

゛幻影 ゛

『幻影を作り出す事ができる。数に制限はない』

゛鑑定眼 ゛

『ありとあらゆる物の詳細を見る事ができる。レベル差に制限あり』


゛世界を壊す者 ゛

『悪意・恐怖・憤怒・憎悪・絶望・闘争・殺意・破滅。これらの感情のコントロールがしにくくなる』

゛異界の勇者 ゛

『攻撃、防御、素早さ+15%UP』


  こーやってみるとアイツのスキルって結構優秀なのばかりだよなぁ。 しかし…勇者の称号はまだいいとして、世界を壊す者。これはまずいな…感情の抑制については気を付けないといけなくなる。


「なんで勇者なんだよ…?」

「邪神を滅ぼす者は勇者と相場が決まっておりますので。」

 

 あぁ、そうかい。もう何も言うまい…


「それで、ここはもう異世界なのか?」

「はい。貴方様からすれば異世界になります。」

「イリス、お前女神なのに普通にここに居ていいの?それに梓とかネーヴェが心配するからなにか伝えたいんだけど。」

「私がここに居ていいのかはともかく。梓様とネーヴェには心配するなと伝えておきます。」


  そう言うとイリスの姿が一瞬でその場から消え、五分ほど経つと、またその場にイリスが現れた。


「少しの間、異世界で邪神退治をする事を伝えて参りました。」

「その転移とかで俺を移動させて戻ってくればよかったじゃん。」

「貴方様を連れていくとなると力が少し足りないので…邪神がいる限り私の力が戻る事はなさそうです。」

「はぁ。まぁいいよ。これからどうするんだ。」

「ひとまず、近くの街にでも行きましょうか。」


  おっそれは名案だ。


 正直、異世界って聞いてワクワクしてたんだよね!ご飯とか美味しいんかな?いや、大体このパターンはまずいって相場が決まってた気がする…

あとは、やっぱりケモ耳だよな。居るなら連れて帰りたいぐらいだけど、怒られるかな?



 現在はしゃいでる凪だが、帰ったら梓たちに1時間ほど正座をさせられる事になるとは夢にも思わないだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る