─邪神の目覚め─



  先程までの景色が嘘みたいに、一瞬で、別の世界にでも来てしまったかと思わせる様な風景が目に飛び込んできた。


「魔族領についたのか………?」


  空気は淀み。土地、草木は枯れ周辺一体には魔物が渦巻いていた。そして少し離れた所に禍々しさを放つ城があり、帝都程ではないがそれなりの大きさをしているのが遠目でもわかる。


「あれが魔王の城ってわけか。」

「はい。私が転移出来るのはここまでです。残念ですがここから歩きになります。」

「あぁ、急ごう!」


  凪とイリスは魔王城へと足を進めた。




~~~~~~




 グァアアアア!!


「チッ。ゴブリンジェネラルか…邪魔だ!!」


  凪は地面を蹴り一瞬でジェネラルの背後に回り込みお腹の辺りを凪の拳が貫く。


「ジェネラル程度だったら素手でも行けそうだな。そういやイリスはネーヴェたちみたいに武装化できるんだよな?」

「可能ですよ。魔王軍幹部と戦う前に慣らしておくとしましょうか。」


  イリスがそう言うと、光の粒子に変わりながら凪の両手へと集まって行く。


「これは双剣…か!」


゛そうです。正確には 双刃 イリス・アルマ と呼ばれています ゛


  刀身はどちらも60cm程だろうか。全体的に黒を貴重としていて、金色の縁取りがされており、花の様な波紋が施されており、凪の両腰には刀を仕舞う鞘が掛けられていた。


  凪は思った。 女神なのに黒い……そして花柄。


 案外性格や好みが武装化した時に反映されるのでないかと。


 要するに…イリスは腹黒い?けど花を愛でる女神らしさはあると…


゛だーりん。なにか? ゛


  心が読まれたかのようにイリスのドスを聞かせた声が響いて来たので、心を無にする…



  魔王城に近づくに連れ上位種の魔物が現れ始める。


  ゴブリンキング、オークキング、ブラッドウルフなどがウジャウジャ。としていた。


「ひぇー。じゃあ試し斬りにでも行きますかッ。」


  散歩にでも行くかのように凪は地面を蹴り上げ飛躍。一気に距離を詰め二つの刀を振り下ろしていく。

 

ゴブリンキングの首を跳ね、そのまま勢いを殺さずにオークキングの脳天へと踵と刃を同時に落とし、少し離れていたブラッドウルフに刀を振り払い漆黒の刃を飛ばし真っ二つにする。



「ふぅ。なんか結構使えるもんだな。」

゛えぇ、とてもカッコよかったですよ ゛


 凪は褒められ満更でもなさそうな顔をしていた。


  魔王城が近づいてくると、門らしき所の前に三首の獣が居るのが見える。


「あれ、ケロベロスとか言われてる奴じゃね?」

゛はい。間違いありません。ケロベロスです ゛


 だよなぁ。なんかゲームとかラノベだとありがちな展開だよな。門番がケロベロス…


  そんな事を考えているとケロベロスと視線が交わる。その瞬間大きな遠吠えをあげこちらに向かい走ってきた。


゛来ます!! ゛

「あぁ。行くぜイリス!!」


  凪はケロベロスの間合いへ突進し、猛攻撃を仕掛けた。


「゛光刃閃舞 ゛!!」


  凪の放ったスキルによって周辺が光で満たされ空に浮かんだ無数の刃がケロベロスを襲う。


  これには堪らずケロベロスも悲痛の声をあげた。


「はは、勇者スキル凄まじいな…。」


  ケロベロスは体制を立て直し怒っているのか、再度大きな遠吠えをあげた。

その瞬間、凪たちの足元がガタガタ、と揺れ始め、炎が舞い上がった。


「ッ…!?」


  咄嗟に飛び退いたが左肩の辺りの服が溶け、皮膚が焼けていた。


「くっ…」

゛凪!!大丈夫なの? ゛

「いってぇ…でもこれぐらいなら我慢できる。」

゛あまり心配かけないで下さい。 ゛


  表情はみえないが、ホントに心配してくれてるんだなと声のトーンでわかった。


「チッ。おい、クソわんこ。あんまりうちの女神様を心配させんじゃねぇ!゛冥闇 ゛」


  凪がそう言うと、ケロベロスの周辺に黒い霧がかかり出す。


「シッ」


  凪は地面を蹴り上げ再度、ケロベロスの間合いにはいる。


  ガウァァァ!


  ケロベロスの視界は塞がれているはずなのに凪へと右脚を振り下ろしてくるが、凪はギリギリの所で回避する。


「チッ。さすが犬だな。鼻が効くのか。だがこれならどうだ!?」


  凪はケロベロスとの間に一定の間合いを取り、ケロベロスの周りをグルグル、と走り出し漆黒の刃を飛ばし続けた。


  全方位から襲ってくる斬撃の嵐に避ける術もなく、しばらくすると、ズドンッ。と音がし、ケロベロス地面に倒れた。


  凪はその様子を確認すると、刃を飛ばすのを辞め刀を鞘へと仕舞う。


「ふぅ。なんとか倒せたな。」


  凪の腰にさがっている刀が光の粒子となり、イリスが目の前に現れる。


「凪ッ!肩を見せなさい。」

「大丈夫だ。レベルアップのおかげでHPは戻ってる。」


  イリスはグイッ。と凪の身体をひっぱり、肩の辺りに手をかざし始めた。小さな魔法陣のようなものが浮かびあがり、凪の肩をほんのり温めるかのようし治療を始めた。


「全く。心配かけないで下さい!!」


  頬を少し膨らませているあたり、少し怒っているのだろう。


「ふっ。心配しすぎだ。」


 凪は少し口元を緩め小さく笑った──




「「ッ……!?」」

  その刹那、2人は強烈な威圧感を覚え空を見上げた。


「なんだ……あれ」

「くっ…間に、合わなかった……。」


  凪達が見上げた空には、魔王城から天空へと伸びる1本の禍々しい柱があった。


「イリス!!なんなんだあれは、それにこの感覚は!」


  イリスはなにも答えない。いや、答えられなかった。普段のイリスからは考えられない程に顔は歪み。悲壮感を露わにし、身体全体が震えていた。


「まさか…間に合わなかったって…」


  その先は口にしなかった。


  イリスがこれ程取り乱しその言葉を吐いたのだ。答えは決まっていた。



  アリシアを器にし、邪神が復活した事を意味するのだろう。

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