─避難所─
ビルの中に入るとそこは人で溢れかえっていた。怪我人をしている人たちが頭に包帯を巻いていたり、松葉杖をついている者もいた。
そんな中、小柄な少女が慌ただしく走り回っていた。
「お、居た居た。おーい橘!」
さすがヒーラーとでも言うべきか、額に汗を流し忙しそうである。
「あっ!!凪先輩!無事だったんですね!!心配したんですよ!急に梓先輩に逃げろとか言われて。怪我とかしてませんか?大丈夫ですか?少し見せてください。」
声を掛けられ、凪だと気付いたのかトタトタ。と怪我人そっちのけで走ってきては、凪の身体をペタペタ。とまさぐり始めた。
「ち、ちょい。大丈夫だから、怪我もなんもしてないよ。」
「……はるはるー?ベタベタ触りすぎじゃないかなー?」
「っ…げ、梓先輩。嫌だなぁ。怪我してないかの確認に決まってるじゃないですかー。」
「今。げ、って言った?ねぇ!」
凪はそんな戯れてる二人を横目に、鈴木を探しに行く事にした。
「3階も人で溢れてんなぁ。避難場所にでもなってんのか?てゆかここ何階まであんだろ?……エレベーターは…生きてるな。おっ、25階まであるんかよ!行ってみるか。」
エレベーターに乗り25階のボタンを押し、少し待つと──────ポン・ピン! と音を鳴らした。
どうやら25階に着いたらしい。
「凪様。先程のエレベーター?あれはなんですか?一瞬でワープ致しましたよ!!」
「わぁ。広ーい、ここ蒼波達の拠点?にしよー!」
「あらあら、蒼波あまり走ったらダメですよ。」
「まったく。こんなものではしゃぎおって。主様よ、あれはなんだい?」
子供の遠足かよ。と頭を悩ませつつ、フロア内へと足を踏み入れると、元々はオフィスだったのか机や椅子などが置いてあり。荒らされた様子などは特になかった。
「へぇ、眺めも………こりゃひでぇ…」
25階からの景色は決して眺めのいいものではなかった。地畑は荒れ、家やビルは倒壊し、周辺一帯は魔物で溢れかえっていた。
「ん?なんかでけぇのいるな…」
「ふむ。どれどれ。──ギガス…!?」
遠目で見てもわかる大きさをしており、ビルや家を薙ぎ倒しながら歩いている、なにか。がいた。
「主様よ、あれに私の腐食は効かぬぞ。」
「何…?」
「あれは魔王軍の四天王と言われてる一柱だ。主様の父がNo.2だとしたらあれはNo.4だね。ちなみにヴァンスは幹部だが四天王ではない。」
俺の親父がNo.2とか初耳なんですけど!?いや、そんな事はどうでもいい!ヴァンスよりやばいだと…?
「…倒せそうか?」
「どうだろうね。勝てるかどうか聞かれれば、勝てなくはない。だろうね。」
凪は「わかった」とだけ返事をし、急いでエレベーターに向かい一階に降りた。
「あー凪先輩居ました!もぉどこ行ってたんですかぁ!」
「そうだよ!アタシを置いていくなんてひどい!!」
凪の事を見つけるや否や、梓が凪の肩をガクガクと揺らしあーじゃね、こーじゃね、と捲し立ててきた。
凪は両手を上げ、参った、のポーズをしながら「悪かったよ」と言い話を続けた。
「それよりも、まだ先だが、魔王軍の幹部がいる。」
「え…ここに向かってきてるんですか?」
「いや、そこまではわからないが、ここに来られるとまずい。」
「なぎなぎ、さすがにここの人数だと避難なんてできないよ!」
梓の言う通りである。ショッピングモールに居たのは、たかだか2.30人だ。まだそれならとなるが、ここには数百人はいる。それに、怪我人もとなると、到底無理な話だ。
「…ここに来る前に倒すしかないか。」
梓はすかさず口を挟んだ。
「なぎなぎ。アタシも行くからね!」
「もちろん、私も行きますよ。」
梓に続き、橘が平らな胸の辺りに手を持っていき、トン。とやり、治療はまかせろ。とでも言いたそうな顔をした。
これには凪と梓も目を合わせ、笑いあった。
「ふふ。頼りにしてるよ橘さん。」
「あはは。ハルハル…今トンって音なった…ぷぷ。」
「ちょ、ちょっとなに笑ってるんですか2人とも!!私に胸がないって言いたいんですか!?まだ成長期ですよ!あと二年もすれば梓先輩みたいになります!」
「ふ、ふふ。そうだね。ハルハル成長期だもんね…ふ。」
「むきーーー!!」
魔王軍の幹部が攻めてきているなんて、微塵も感じさせない雰囲気に、周辺に居た人たちもクスクスと、微笑ましい光景に頬を緩めた。
「さてと、ちょっくら仕事しに行きますかね!」
「よーし!アタシの魔法でぺちゃんこだよー!!」
「私はお二人がいつ怪我しても大丈夫なように準備しときますね!」
しゅっぱーつ!とでも言い出しそうな雰囲気の中、凪たちはビルを出て
「おい!どこに行くんだ?」
行けなかった…
坂柳である。仲間にでも治してもらったのか、顔の傷は消えていた。
「魔物退治?」
凪は坂柳にそれだけ伝え外に出て行った。
「お、おい、話はまだ終わってないぞ。」
「なんだよ?急いでるんだが?」
「どこに魔物がいるんだよ?そもそもなんで二人を連れて行く必要がある!」
「あっち?に、魔王軍の幹部がいるんだよ。さっき上から見た。二人は……置いて行くと怒られるから?」
凪がそう言う、梓と橘はうんうん。とその場で頷いていた。
君たち二人は頷いてないで、なんか言ってくれる?
「それなら僕達もついて行ってあげよう。」
「いや、邪魔だから来んな。」
「ッ…!?な、なんだと?僕は勇者だぞ!?」
まさか邪魔だと言われるとは思っていなかったのだろう。目を見開き、鼻息を荒くした。
「エルダースライム程度倒せない様じゃ死ぬだけだぞ?」
「ッ……。」
坂柳を追いかけてきたのか、村瀬は言った、
「ねぇ山本くん。今から戦う敵はそんなに強いの?」
「あぁ。梓達を逃した時に戦ったのが魔王軍の幹部だが、これから戦うのは四天王の一柱らしい。だから、エルダースライムなんて非じゃないぞ。それにお前らが着いてきたら誰がここを守るんだ?」
「そう…」
それだけ伝えると村瀬は何かを考え込むように下を向いた。
「じゃあ俺らは行くから。」
「お、おい!」
ビルを出ようとした所で村瀬が「待って!」と凪の足を止めた。そして、
「やっぱり私達も行くわ。ここには私達意外にも戦える人もいるから大丈夫。魔王軍の四天王なら一度戦った事もあるわ。だから足手纏いにはならないはずよ。貴方が戦ってる間、橘さんを守る事もできる。」
断った所でこいつらはどうせついてくるだろう。ならばいっそここで同行を許可した方が勝手な事をされないだろうと凪は考えた。
「勝手にしろ。俺はお前らを守ってやる余裕はないからな。あと勝手な事はするなよ。」
「わかったわ。ありがとう!国嶋と胡桃を連れてくるから少し待っててちょうだい。」
そう言うと村瀬はどこかへ走って行った。
「私ってやっぱり足手纏いですかね?」
「そんな事ないよ!ボス戦にヒーラーは必須でしょ!アタシも守ってあげるし。なぎなぎも守ってくれるよ。あー見えてあの人身内には甘いから。」
少し待っているとどうやら、準備が出来たみたいだ。気合いの入った勇者パーティがいた…
「さぁ!行こうか!魔王軍を倒しに!」
「はぁ。うぜぇ…」
凪たちは、元勇者御一行と共に、四天王ギガスへと歩みを進めるのであった。
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