─魔王軍の影─
「ふぅ。お腹いっぱい」
「そぉだな…。まぁ贅沢を言えばおかずも探して来るべきだった」
「ふふ、そおだね!このあと、どうしよっか?」
凪はチラッと視線を四方へ動かした。
先程からこちらの様子を伺う人影がちらほらあるな。魔物…ではなさそうだけど、戦うにしてもここは障害物が多すぎる。とりあえず様子を見るか…
「んー二階の探索でもするかぁ。ゴブリンとか居るかも知れないしな。」
「あ、確かにー。アタシの魔法は?」
「魔力を最大限まで落としたやつならいいぞ!」
「はーい!じゃあ行こッ!」
梓は元気よく言って、凪の手を引っ張ってエスカレーターを駆け上がる。 段々と二階に近づくにつれ、チャンララチャンララ。と軽快な音楽が響き始める。
「ねぇねぇ、なぎなぎ!ゲーセン行く?プリクラとか撮っちゃう?」
「危ないから走るなよー!一応警戒しろー。」
そんな梓の可愛らしい誘いに、凪は少し困ったような笑顔を浮かべた。
まったく…。梓ってたまに子供っぽいんだよなぁ。
「凪様。プリクラとはなんでしょう?」
「ん?あぁ、写真撮ったりするだけの機械だよ」
「ご主人様と写真撮りたい!」
「…あとでなぁ」
プリクラ…いわゆる陽キャ専用証明写真と言うべきだろう。高校生活をぼっちで過ごしてきた凪にとっては縁のない物であった。
そんな話をしていると、不意に殺気を感じ、足を止めた── その瞬間。
「動くな!止まれ。」
凪の周辺には10人ほどの大人の男が集まり、皆が手には拳銃のようなものを持ち、凪たちに向けていた。
「魔物じゃないぞ。」
凪はそう言いながら手を挙げる。
「え?なになに?」
「梓。こっちに来い。みんなも手を挙げろ。」
「何者だ!ここに何しに来た!」
拳銃を構えたまま、リーダーらしき男が問いかけてきた。
「いや、腹が減ったから立ち寄っただけだが。」
「敵意はないんだな…?」
「あぁ。この通り手を挙げているだろう。だからそれを向けるのを辞めてくれ。」
凪がそう言うと、敵意がない事が悟ったのか、リーダーらしき男は他の仲間に銃を下ろすよう合図を送った。その瞬間、緊張感が解け、空気が和らいでいった。
「悪かった。敵かと思ってな…」
「別に構わないさ、勝手に入って来たのはこっちだしな。」
「一応ここでリーダーをしている!鈴木だ。」
「別に俺はリーダーじゃないが山本だ。」
二人は手を差し出し、お互いによろしくと握手をした。
「みんなに紹介するから!着いてきてくれ。」
鈴木はそう言うと、ゲームセンターを通り過ぎ、奥へと進んで行った。特になにを話す訳でもなく、凪たちは鈴木の後を着いて行く事にした。
~~~~~~
「さぁ着いたぞ。ここが俺らが拠点としている場所だ」
着いたぞ。と言われ見渡せば、そこは倉庫のような場所だった。中に入ると、そこには20人ほどの女性や子供、老人などが集まっていた。彼らは避難所のようにこの場所に身を寄せていた。中には凪と同じ制服を着用している人たちもいて、学校から避難して来たのかと思わせる。
「俺達は元自衛隊でな、逃げて来た人々をここで匿ってるんだ。幸い、ここには電気も食料もある。ゴブリン程度だったら俺たちでも倒せるからね!」
あぁ。そーゆう事かと凪は思った。統率が取れてるとは思ったが、元自衛隊とは考えもしなかったであろう。
「長居するつもりはありませんが、魔物が来た時は手伝いますよ。」
「助かるよ!男手が足りなくて、困ってたんだよ。」
凪がそう言うと鈴木は凪の背中をバンバン、と叩きながらガハハと笑っていた。凪は話を続けて言った。
「いや、こっちの三人も戦えますよ。なんなら俺より強いですよ。」
「え!?こんな可愛い子達がかい!?」
と、鈴木は驚きの表情を浮かべ、まるで脳天に一撃を受けたかのような顔をしていた。
なんなら一人核兵器持ってますよ。世界壊せちゃいます!口には出さないけどね……
「ゴブリンエリート程度なら瞬殺できまーす!」
梓は鈴木に向かってブイッ。と手を差し出し二ヒヒ。と笑っていたので、凪が梓の手を抑え「ドヤ顔でピースするのやめなさい。」とそっと耳打ちするのであった。
「私は凪様のご命令があればお手伝いさせていただきます。」
「蒼波もご主人様次第かなぁ。」
君たちも辞めなさい。と神楽たちに視線を送るがどこ吹く風であった。
ふと視線を感じそちらに目を向けた。すると鈴木がジト目をしながらこちらを見ているではないか…。
やめろッ!男のジト目とか誰得だよ!と凪は内心失礼な事を考えながらも冷静に言葉を発した。
「…なにか?」
「君。女の子達に様とかご主人様とか呼ばせてるのかい…?」
あ……。そこかぁ!!そりゃあおっさんもジト目したくなる訳だ。しかし、誤解である。
「いえ、これはコイツらが勝手に呼んでるだけです。それに二人に関しては人ではありませんよ? 俺のスキルで呼び出した精霊です。髪が赤い方が神楽で、青い方が蒼波です。んで、神崎 梓ですね。」
「これはご丁寧にどうも。精霊…ね。はは。まさにファンタジーですな!俺のスキルは拳銃を作り出せるみたいでな、それでみんなの分を作ったんだ。」
なるほどね、だからみんな拳銃持ってたのか…蒼波のベールで弾丸て防げるんかな?もし、敵対した場合の事を考えると少し危険か…?
「そおなんですね。ちなみにゴブリン以外の魔物って居ました?」
「いや、ゴブリンしか見てないな。剣持ってたり棍棒持ってたりするぐらいかな。」
出てもエリートぐらいって事か。そのぐらいならそっちは警戒しなくても良さそうだ。
「あ、あの。先輩?ですよね…?」
鈴木と話していると、急に背中をチョンチョン。と叩かれ、振り向くと、ツインテールのちみっ子が立っていた。
凪はこのツインテールに見覚えがあると感じ、頭をフル回転させる。
「やっぱり覚えていませんよね……学校で助けて貰って…」
彼女は少し目を赤くし、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
あぁ!あの時の漏らしてた子だ!と凪はポンと手のひらへと拳を落とし、閃いた!と言わんばかりに名前を呼んだ。
「いや、確か…橘さんだよね?」
「そうです!橘 小春です!また会えて嬉しいです!!」
凪が名前を呼ぶと覚えて貰ってた事が嬉しいのか、ツインテールをぴょんぴょんとうさぎのように揺らし飛び跳ねていた。
「なんだ、君たちは知り合いなのかね?」
「そうなんです!学校でオークに襲われそうな所を、こうズバッと!助けて貰いまして。」
「たまたま居合わせただけだよ。無事でよかったよ!」
「はい、先輩が助けてくれた後、みんなと外に出てゴブリンに襲われそうな所をコチラの鈴木さん達に助けて貰いました。」
そんな事を話していると後ろからジト目2号さんがやってきた。
「へぇ。なぎなぎ意外とやる事やってるんだねー。アタシ達を助ける前にもフラグ立ててるとはねぇ。」
フラグとか言うな。どっかの鈍感主人公みたいになっちゃうだろうが!
「変な誤解をするな。オークが居たからぶっ殺しただけだ。ついでだついで。」
「いえ、凪様はあの時大変慌てた様子で゛か、神楽助けないと!゛って感じでしたよ。」
おい、お前も変な事言うのやめろやー!
「「「「へぇーー。」」」」
凪はこれ以上話した所でネタにされるだけなのでフンとそっぽを向き口をつぐんだ。
おっさんまでニヤニヤすんな気持ち悪いぞ。
パンッ!と 鈴木が手を叩く。
「まぁまぁ、とりあえず今日はゆっくりしていくといいよ。この後は特にやる事はないからね!あっ。ちなみにお風呂入りたかったから三階にあるから自由に入っていいからね!テレビもあるし行ってみるといいよ。なにかあればその辺にいるから声を掛けてくれ」
お風呂と聞いた梓は目を光らせ興奮気味に凪の腕を引っ張るとそのまま走りだした。
「お風呂ーー!?なぎなぎ行こう!もぉ身体ベトベトだから助かったぁ!」
「あーダメですよ!ちょっと!お風呂は別ですからねー!!」
と、橘は声をあげ凪たちを追いかけるのだった。
凪は腕を引っ張られながら、当たり前だ!一緒になんて入ったら俺の息子が…おっと。精神がもたないだろうが!と心の中で一人叫んでいた。
「凪様。ご一緒致します。」「わーい。ご主人様とお風呂ー!!」
……君たちも別だからね?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ショッピングモール前─
そこには片目を金色に輝かせる男が魔物たちと共にと集まり出していた。
「ヴォルガノス様が言ってた方はここにいるんですか?」
「ギャギャ!!」
「そうですか。仲間たちを呼び戻しなさい。キングとジェネラルもだ。」
「グギャ!」
「さて、少しは骨のある方だと良いんですけどね……」
凪達はショッピングモールの前に魔王軍が集まり、自分たちを狙っている事などつゆ知らず、呑気にお風呂に向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます