─憩いのひととき─


  凛鳴たちと別れ学校を後にする凪たちは、ふとしたきっかけで、お互いの呼び方について話し合うことになった。


「ねぇねぇ後輩くん?」


  特に目的地がないまま、ただ崩壊した街の中を4人は静かに歩いていた。すると、突然、先輩が凪に話しかけた。「ねぇねぇ」と。凪は足を止めずに、顔だけを振り向かせ、「なんですか?」と問い返した。


「いい加減先輩って呼び方辞めない??」

「いやー。割と語呂が良いから呼びやすいんですよね。」


  そう言うと先輩は「むむぅ。」とジト目を凪に向けた。


「ねぇ、アタシの名前ちゃんと覚えてる…?」

「…………。当たり前じゃないですかー。」


  そう言われ凪は「まぁまぁ。いいじゃないですか」となし崩しに話を進めようとしたが── それは許されなかった。


「ねぇ!!それ絶対覚えてないよね?その顔!!あ、ず、さ!神崎 梓!覚えた?」

「神崎先輩すね!覚えました。」


  そうそう!そんな名前だった!ほんとすみません。


「それも禁止!!梓って呼んで。アタシも凪って呼ぶから。」

「いいじゃないですか、別に。神崎先輩で……」

「ダメ。名前以外で呼んだら無視するからね!敬語も禁止!」


  先輩はそう言うと、頬を少しだけ膨らませ、不満げな顔をした。そんな様子を見て観念したのか、凪は「はぁ。わかったよ。…梓!」と名前で呼ぶと


「にひひ。分かればいいんだよ。凪!」


  と、目が嬉しくて堪らない。とでも言うかのようにキラキラと輝いていた。



「それはそうとどこに向かうの?」

「さあ?棒でも倒して決めるか?」

「えぇ!?そんなんでいいわけ…?」

「凪様。さすがにもう少しきちんと決めて下さい。」

「そうだよ。ご主人様!北とか南とかあるじゃん。」


  そんなこと言われても…正直どこに行けばいいのかわからんし、そもそもなんで俺に聞くんだよ……。


「とりあえずお腹空いたからスーパー行こ!」

「おっ!いいね。とりあえず目指せスーパーで。」

「凪様…」「ご主人様…」


  あまりにも適当に返事をしている凪を見て神楽と蒼波は肩を竦め、やれやれといったふうに、ため息をついていた。


  そんな事いったって人間はお腹空くんだよ!?君たちと違ってさー


  そんなくだらない話をしながら目的地はスーパーへと決まったのである?




「ねぇ、なぎなぎ。ここ何処?」

「…さあ?あと、なぎが一回多い。」

「ねぇ、見て。銀座って書いてあるよ。」


  梓は道路の看板を指差しながらそう言った。


 …………。なにを隠そう絶賛迷子中である。今時の高校生が二人もいながらこの有様であった。梓が「スマホでマップ見ればいいじゃん」と提案し、すぐに検索を始めた。しかし、調べながら来たのにも関わらず迷子になっているのだ。


「銀座ってスーパーある?」

「さあ?あるんじゃね?」

「ご主人様。適当すぎる…」

「凪様。梓様が可哀想ですよ。」


  というか、なんで俺に聞くんですか?銀座なんて来た事ないし、わかるかい!ぼっちなめんな!!


「あ、ゴブリン発見!!」


  神楽が無言で手をかざす。


 ボッ!  「ギャギュ!」


「ご主人様。はい、魔石」


 はぁぁぁぁぁ。

 これである。梓が見つけ、神楽が焼く、蒼波が拾う。なんなのこのパーティ…


  すると、突然梓が

「ねぇ、そろそろ私もスキル試したいんだけど!」

 と言うと両手を胸の辺りまで上げ、がんばる仕草を見せた。


  なにがとは言わん。強調されるから辞めなさい。



「あぁ、そういや試してなかったな。神楽、次ゴブリンを見つけても殺すなよ」

「かしこまりました。」


  そんな話をしながら、迷子を継続してると、少し開けた場所へと出た。


「あ、いたいた!なんかあのゴブリン剣持ってるね。」

「梓様。あれはゴブリンエリートです。強さで言えばオークより少し強いくらいでしょうか。」

  と神楽は梓に警告した。


  広場の真ん中には剣を手にしたゴブリンが立ち、囲むように6体ほどのゴブリンが集まっていた。


「一応なにかあってもいいように準備はしといてくれ。」

「りょうかぁい!」「かしこまりました。」

「よっし!じゃあ行くよー。゛アトモス・レイン ゛」


  梓がスキルを唱えた瞬間…………


「何も起きない??」

「いえ、凪様。空を見てください。」


  なんだよあれ………。この世の物ではないのはわかる。そもそも物でもないな。なにもないのだが、なにかあるのだ。


  正直自分でもなにを言ってるのかわからない。でもたしかにそこにあるのだ。 球体みたいな形をしており、そこだけノイズがかかっているような感じ。そんな得体の知れないものが無数にある。


「凪様。私が説明致します。まずアトモスとはギリシャ語だそうです。本来の呼び名はアトムです。 アトムとは、物理学では物質の最小単位「原子」。the atomは原子力、核エネルギーを意味する。要するに見えない核兵器みたいなものです。多分。」


 ……………。


「神楽…なんでそんな事知って…」

「wi○iです。」

「え?」

「ですから、wi○iです。正直に言うと、調べましたがよくわかりませんでした。」


  コイツーーーー!!!!いつの間にそんな事覚えたんだよ!?道中、俺のスマホいじってんなぁとは思ったけどさぁ!


  神楽が豆知識を披露してる最中、それはゴブリンエリート達の真上に落ちていき凄まじい轟音と共に一瞬で消し去ったのだ。

 

 ゴブリンエリートたちが居たであろう場所には大きなクレーターが何個も出来ていた…


「わお!!」


 いや、わお!じゃねぇよ!どーすんだよこれ…


「梓…」

「はいはーい!」

「もぉ二度と使うなよそれ…」

「あ、はーい…。」


 梓は少ししょんぼりとし始めたがこればっかりはやばい。もはやコイツ一人で世界滅ぼせるわ。いやマジで。そもそも何故俺の周りの女子はこう、なんてゆうかパワー系なの?どっかの撲殺乙女さんとか……。


  少し落ち込み気味の梓へと神楽が声を掛けた。


「梓様。魔力の調整をすれば小さくしたり、数を減らして打つ事も可能ですよ!」

「まじで!?やったぁ。練習しとくね♪」


  凪はそんな二人を見ながら変な事教えるなよ。と頭を悩ませるのであった。


 凪たちが銀座を出た後、銀座の街並みがクレーターだらけになったのは言うまでもないだろう。


  銀座のみなさんごめんなさい。




「やっと魔力の操作マスターしたよぉ!これでアタシもなぎなぎの役にたてるね!」


  凪の顔の前でピースサインをし、いえい。と言わんばかりに梓は顔を綻ばせた。


「ちゃんと銀座のみなさんに謝っておけよ。あとなぎが一回多い。」

「もぉなぎなぎうるさい!なんか先生みたいでおじさん臭いよ!」

「なッ…!?」

「梓様。凪様はおじさん臭くても世界一カッコいいです。」

「そぉだよ!ご主人様はおじさん臭くても世界一!」


  褒められてるのか、貶されてるのかわからん。あと、おじさんを連呼するの辞めてほしい…



~~~~~~



「お、あれEONじゃないか?」

「やっとご飯食べれるぅ。歩きすぎて足も痛いし休みたい。」


  EONとはいわゆる大型ショッピングモールである。 一階には食品売り場が並び、二階には娯楽施設などが入っていて、三階は確か銭湯とか色々入ってた気がする。


  確かにかなり歩いたな…俺もさすがに疲れたぞ。


 EONの建物の前まで到着し、入口を探していたが、シャッターが閉まっていて、入口らしい場所が見当たらず、凪はシャッターの前で立ち止まり、壊してしまおうか。などと考えていた。


  すると、突然、少し離れた所から声が聞こえた。


「なぎなぎー!こっから入れそうだよ!」


  おーい。と梓が手招きをしていた。凪は梓の元に走り、近づくと、大人一人が通れるほどの穴があいている事に気づいた。


「お、本当だ。シャッター壊そうか悩んでた所だったんだよ。」

「凪様。なんでも壊そうとするのお辞めください。」


  ひどい言い掛かりだ!なんでもは壊さないよ。壊せる物だけ。とか言っておこう。口には出さないけど。


  凪は名誉毀損だ!などと一人ぶつくさ言いながら穴をくぐり建物の中に入っていった。


 建物の中は明るく、どこか暖かみのある雰囲気が漂っていた。一階から入った凪は、そのままドリンクコーナーに向かい、梓たちと別れて食べ物などを探す事にした。



「あっ!おにぎりコーナーあったよ!私ツナマヨね♪」

「私はこんぶで。」「蒼波は明太子ー!」

「なぎなぎは何がいいかなー?とりあえず全種類持ってっちゃおうか!」


  梓はそう言いながら適当におにぎりをカゴへと詰めていった。


「ほれ!」

「ん、ありがとーなぎなぎ。」

「凪様。言ってくれれば私が取ってきましたのに」

「ご主人様は気がきく。」


  凪は飲み物コーナーでお茶を取ってきて、梓たちへと渡した。その後イートインコーナーを探しみんなで腰をおろし、おにぎりを頬張る。


「ぷはぁ。生き返るー!!」


  梓はペットボトルのお茶を飲み干し、少し年寄り臭い感じを出しつつも満足そうに顔を綻ばせており、この人はホント表情がコロコロ変わるな。と凪もつられて顔を綻ばせた。


「スーパーのおにぎりがこんなに美味いとは思わなかったな!」

「だよねだよねー!」

「この世界のご飯はどれもおいしいですね!」

「ご主人。蒼波も梅食べいいー?」

「おぉ、好きなだけ食っていいぞ。」

 

  蒼波は嬉しそうに表情を緩め、頬っぺを膨らませながらおにぎりを口に詰め込んでいる中、梓が神楽へと話かけた。


「ねぇ、神楽ちゃん。ずっと思ってたんだけどさ、いつも手かざすとボッ!って火出てくるじゃん?なんか技名?みたいのないの?」

「普通にありますよ。」

「エッ!!」

「なに驚いてるんですか?威力が小さめなのが゛炎火えんか゛威力が大きいのが゛業火ごうか゛私が使えるのは今の所この二つですね。うぉーとか言って戦うのは凪様だけです。そう言えばお父様もそんな感じでしたね。」


  そうゆうのはもっと早く言って欲しい。適当に火つけてんのかと思ってた…

てゆうか技名ないの親父譲りかよ!!


「えぇーカッコいいじゃん!なんで技名言わないの?」

「口に出さないとダメだったのでしょうか?以後気をつけますね。」

「いやいや、別に言わなくてもいいからね。」


  なんか俺だけ技名ないし、ずるいじゃん。


「凪様は自分で付けたら良いのではないですか?」


  いや、俺もう高校生なんで、自分で付けるのは抵抗が…


「って事は、蒼波ちゃんもあるの?」

「ん。もちろん。ご主人様にこの前使ったベールが゛水鏡すいきょう゛水を自在変化できるのが゛波乱水流はらんすいりゅう゛神楽がやるなら蒼波も口に出すようにする」


  四人はスーパーのおにぎりの味を楽しみ、技名の話で盛り上がりながら束の間の休息をとるのであった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一方その頃―闇の奥


  広々とした空間の中、玉座に腕を掛ける無表情な魔王がいた。


  部屋の中はほとんど真っ暗で、天井にほのかな明かりが灯っているだけだった、


  扉がコンコンと叩かれ、ぎ……と音を立て扉が開くと一人の男が入って来た。


「ヴォルガノス様、報告です。オークジェネラルが討伐されました。」


  男は玉座の前まで行き膝を折り頭を垂れた。


「ほぉ。異世界の勇者か…?」

「いえ、全く別の者かと思われます。」

「…ほぉ。そいつはすごい。名は?」


  魔王はオークジェネラルがあまりにも簡単に倒された事に驚きつつも、興味深そうに名を尋ねた。


「ハッ。調べた所によれば山本 凪。というらしいです。」

「山本 凪か。覚えておこう。」

 

  男がそう言うと魔王はまるで新しいおもちゃを見つけたかのように、ニヤリとした。


「それと、もう一つ。鬼人の魔力を検知致しました。」

「見つかったか。場所は?」

「それが…オークジェネラルが討伐されたのと同じ所からでして…」


  男は魔力を検知したことに少し疑問を持ちながらも、口篭りながら話す。


「クハハハハ。山本 凪。貴様があやつの息子か!生かして捕えろ。ワシの前まで連れてこい。」


  男は「ハッ。失礼致します。」と腰を曲げ部屋から出て行くと、魔王は一人になった部屋でポツンと独り言を呟くのだった。


「貴様の息子がどの程度なのか見てやろうぞ。なぁグリザード。」




  東京都市の一部が魔王の魔素により、刻一刻と魔王の領地へと変化してきている事を凪達はまだ知らない。



~~~~~~

ここまで読んでいただきありがとうございます!

処女作になりますので、暖かい目で読んでいただけると嬉しいです!

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