─過去─



  神楽、蒼波、神崎の3人は三組の教室に移動し、凪が目を覚ますのを待った。 凛鳴は一度四組のクラスへ行き、襲われていた子たちを連れて来ていた。


「ふぁ。イッ…!?」


 なんだ?身体がいてぇ。いつの間にか眠ってたのか?


「凪様!!」「ご主人様!!」

「うぉ!?なんだどーした?」

「目が覚めたのですね!よかった。」

「心配した。すごく。」


  そーいえば俺は荒木と戦ってたはずじゃ…


「凛鳴と先輩は!?」

「ここにいるよ。後輩くん!凛鳴ちゃんはあっち!」


  先輩が指を刺した方向に目を向けると、泣いている女子生徒たちを励ます凛鳴の姿があった。


「……荒木は?」

「死にました。凪様の手で首を跳ねました。」

「そうか。」


  凪は自分の手を見つめ、感触を確かめる。不思議な事に心はスッキリしており、殺した事に対する罪悪感など微塵もなかった。


「心配かけたようで悪かったな。」

「いえ、とんでもございません。凪様がご無事なら…」

「そうだよ。ほんとに心配だった。」


  神楽と蒼波は涙を流しながら凪に抱きついた。凪は二人を振り払う事などできず、代わりに二人の頭を撫でる事にした。神楽は凪の手に顔を寄せ、嬉しそうに微笑み、蒼波もまた凪に寄り添い、安心感に包まれるのだった。


「ごめん。約束守れなかった。絶対呼んでくるって言ったのに…」

「気にしないで下さい。オークジェネラルも無事倒せましたし、先輩もその…間に合ってよかった。」


  凪がそう言うと、先輩は感極まったように両手で顔を覆い、泣き崩れた。そんな先輩を見て凪はどおしたものかと、頭を悩ませつつ、先輩の頭に手を置きポンポンと子供あやすように優しく撫でた。


「凪くん…。」


  凪が先輩の髪を撫でていると、自分の名前が呼ばれた。振り返ると、先程まで女子生徒たちを励ましていた凛鳴だった。彼女の目が少し赤いのがわかる。さっきまで泣いていたのが伝わってきた。


「色々迷惑かけたみたいだな。悪かった。」

「ううん。むしろごめんね。私たちのせいで…その…」

 

  なるほど…自分達のせいで俺に荒木たちを殺させたと思ってるのか。


「あれは俺の意思だ。凛鳴たちは関係ない。」

「そっか…ありがとう。それとあの角は大丈夫なの?」


  凛鳴は凪の額に指をそっと置いて、優しく撫でていた。


「角?何のことだ。」

「それは私から説明します。」


  すると、さっきまで抱きついていた神楽が姿勢を直し正座をしていた。


「凪様のステータスには侵食度の項目がありますよね?あの数値が急激に50%を超えると鬼化します。少しずつ上がる分にはなんの問題もありません。制御も可能です。普段はモンスターを倒す毎に少しずつ上がるのですが、凪様の中の憎悪が急激に増した為あのようになってしまったのかと思われます。」


  神楽が丁寧に説明してくれているが、途中から記憶がないから憎悪と言われてもよくわからない。


「凪様。称号に世界を壊す者がありますよね?」


  ッ…!?それみんなの前で言っちゃっていいの??


「…あぁ。たしかにある。」

「あれは本来なら負の感情や憎悪を増やして、世界を壊す意思を強くする為だけの物なのですが、凪様には鬼化のリスクがありますので、相性が最悪です。現在あれを抑え込むスキルがありません。」

「そもそもなんで鬼なんだ?」


  神楽は顔を伏せ、言葉を詰まらせた。



「………凪様。貴方はこの世界の人間ではありません。」


  ッ…!!

「そんな…」「なっ…!?」


「まずご家族の話からしますと、凪様のお父様はグリザード様。魔王軍の幹部で種族は鬼人です。お母様は山本 三月やまもと みつき様。異世界人ですが、人です。お名前はご存知ですよね。そして元々私たち精霊はお母様に仕えていました。」


  親父…顔は覚えてないが、人じゃなかったのかよ。


「人と鬼神が恋をして、産まれたのが凪様。貴方です。私達の世界では人と悪魔の恋愛は禁忌指定されています。見つかれば即刻死刑です。

魔族の王 ヴォルガノス。そして、人族の王に恋仲がバレて、二人は追われる身になります。 その頃、私たちの世界は人族の勇者と魔王軍での戦争中でしたので、私たちを探している場合ではなかったみたいです。おかげで逃げ隠れ出来ていました。勇者がヴォルガノスを倒し帰還が始まる時を狙って一緒に逃げる三段を整えておりました。  いざその時になり、帰還の光に向かう最中、残っていた魔族たちに二人は手傷を負わされ…なんとか帰還はできました。ですがお二人は立っているのすらやっとの状態でしたので、私たちが優しい心を待つ人間を探し、凪様を預けたのです。その後凪様の両親は…………。ですので、決して貴方を捨てたわけではありません。 三月様たちは、本当に貴方を愛していました。そこだけは信じてあげてほしいです。長くなりましたが、私が話せるのは以上です。」


  …色々と話が重い。そして、俺のおじいちゃん。他人だった。


 ふと左右から暖かさを感じると「凪くんこうはいくん…」と二人はギュッと凪の身体を抱きしめた。


「そんな悲しい顔するな。別に俺はなんとも思ってない。確かに両親から捨てられた訳じゃないってわかったのは嬉しいが、だからと言ってこれからやる事に変わりはない。」


 その時、急に先輩から手が伸びてきて、凪の頭をグシャグシャっとやり、凪が先輩に視線を向けると、先輩は真剣な表情をしていた。


「アタシは、後輩くんにこれからも着いて行くよ。」

「俺は人を殺し──」


  その言葉を遮るように、先輩が凪の口を指で塞いだ。その優しい行動に、凪は戸惑いながらも先輩の言葉を待った。


「そんなの関係ないよ。アタシを助けてくれた。それだけの理由があれば充分。じゃないかな?」


  先輩はそう言うと、屈託のない笑みを向けてきた。


「…ふんッ。勝手にしろ。」

「フフッ。勝手にしまーす。」


  凪は、そんな顔向けられたら、断れるわけねぇだろうが。と心の中で呟いた。


「私は…」

「凛鳴。……無理はするな。」

「ちがう!本当は私も凪くんと一緒に居たい!だけど…」


  凛鳴はちらりと隅っこの方で話を聞いていた女子たちに目を向けた。そして、


「私は…私は!みんなを置いて行けない…」



 そんな事はわかっている。凛鳴の性格上他の奴らを置いて自分だけなんてのは許せないはずだ。


「わかってる。みんなを頼む。俺は連れては行けない。」

「うん。みんなを安全な場所に移動させたら絶対追いかけるからね!!」


  わざわざ追いかけて来なくてもいいんだが…凛鳴がそうしたいなら別に止めはしない。


「凪様。一つ忠告ですが、魔族の王 ヴォルガノスは凪様がこちらの世界にいる事を恐らくですが、把握しています。見つかれば必ず殺しに来ます。異世界の元勇者ともなるべく鉢合わせは辞めたほうがいいかと思います。」

「ん?魔族の王はわかるが、なぜ元勇者達もなんだ?」

「凪様が鬼神の息子だとバレたら必ず殺されます。角さえ出さなければバレないとは思いますが一応お気をつけて下さい。」


  まじか…厄介だな。魔族の王はいい。元々殺すつもりだったし、しかし、元勇者か…確か坂柳だっけ?テレビに出てた奴だよな…注意だけはしておくか。


  その後は少しみんなと談笑し、今後の事やこれからの事を話した。




「さて、と。それじゃあ俺達はそろそろ行くよ。凛鳴。次どこで会えるか分からないが…生きてまた会おう」

「うん。凄く寂しいけど、一旦お別れ。だね。」


  凪は「あぁ。またな。」と、軽く手を上げ教室から出ていく。


「うん。またね。絶対また会おうね!!」


  凛鳴は凪たちが教室を出ていく姿を目に焼き付けていた。きっとまた会えると。


 そして


  凪くんの事は絶対に誰にも殺させない。

  この世界も壊させてたまるか。

  私が救ってみせる。絶対にだ。


  そう決意するのであった。


【世界を守る者の意思を確認。瀬戸 凛鳴へ称号を付与致します。】

【一定数のレベルを確認。スキルをアンロックします。】


  このスキルこそが凪の憎悪を抑え。救う事ができる唯一の方法だということをまだ誰も知らない。

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