─オーク─




「来い。神楽」


 ゴブリン達に気付かれない程度の声量で名前を呼ぶと光の粒子を発しながら神楽が現れた。


「一旦ステータスの確認しとくか。 」


────────────────────

山本 凪 17歳 レベル2 人族

HP 30/30 MP 10/20

攻撃  14 +50

防御  13 +50

素早さ 18 +50

運   30

侵食度 3

スキル 精霊召喚

    -神楽


称号  世界を壊す者

────────────────────

 

 昨日寝てる間にMPは回復してるはずだし、召喚時のMPの消費は10って事か。……ん?なんか+補正があるな。


「凪様?」

「あ、悪い。色々聞きたい事があるんだがいいか?」

「可能です」


  神楽は表情を崩さずそう答えた。


「まずは、そうだな…神楽は俺のスキルで召喚された精霊って事でいいのか?」


  神楽は頷く。


「呼び出した時の時間制限なんかはあるか?」

「特にありません。ただ倒されると強制的に戻されます。そして一度倒されると1時間は戻って来れません。」


 なるほど。 一時間か……その間に死ぬ可能性もあるし気をつけないとな。


「俺のステータスに+補正があるんだが、なんでかわかるか?」

「私を呼び出していますので少なからず恩恵があるのかと思われます。同様に私も凪様のレベルに合わせて強くなります。」



 やはりそうか、神楽を呼び出してからどうにも身体が軽い。ゴブリンぐらいなら俺でも勝てそうだ。



「神楽の他にも精霊っているのか?」

「申し訳ありません。私の口からはなんとも。ただ…」

「ただ?」

「…私を常にお傍に置いてほしいのです。私はずっと凪様に逢えるの楽しみにしておりました。」


 ッ…!?


「わ、わかった。極力呼ぶようにする。ひとまずこれから学校に向かうから着いてきてくれ。」

「感謝致します。」



~~~~~~



  学校に向かう途中、何度かゴブリンと遭遇したが、「ギャッ!」っと声が聞こえた時には既に灰になっていた……正直俺はなにもしてない。


 どうやらゴブリンを倒すと石ころを落とすみたいで、それを拾うのが俺の仕事だ。


  そして何故かゴブリンを灰にした後は必ず「褒めて、褒めて」と頭なでなでを神楽が要求してくるのだった。



  学校の校門前で一度止まり、校庭に目を向け確認をするが、校庭にはゴブリンはいなかった。


「ふぅ。一旦ステータス確認しとくか」


────────────────────

山本 凪 17歳 レベル5 人族

HP 60/60 MP 45/45

攻撃  26+50

防御  20+50

素早さ 31+50

運   35

侵食度 5%

スキル 精霊召喚、精霊武装

    -神楽


称号  世界を壊す者

────────────────────


「おっ!レベル5になってるじゃん。」


 学校に来るまでの道中で気付いた事がちらほらある。まずレベルが上がればHPが全回復する。そしてMPは自然回復だけ。


  そして、ステータスの数値はそのまま肉体に反映されるみたいだ、おかげで、凪の身体は少し筋肉質な身体になっていた。


 後はスキルだが…゛精霊武装 ゛これに関しては正直なんもわからん……。

こうゆうのはわかる人に聞いた方が早そうだ。


「なぁ。神楽」

「はい?」

「精霊武装てなに?」

「私は普段人の姿をしていますが、武器や防具などにも姿を変えられます。私の場合は刀ですね。」


 そんな事もできるのか…すげぇな精霊。


  スキルを獲得した時に使い方は自然と頭に入ってきてはいるんだけど、試してみないとわからないな。


  ステータス画面を閉じて校門を潜る。


「なにが居るかわからない。注意して進もう。」

「わかりました。凪様は必ず私が守ってみせましょう。」


 不安である。なぜだか知らんが神楽の機嫌がすごく良さそう…

なんか1人だけルンルンなんだが。ホントにわかってんのか…?



「うっ…」

  学校の中に足を踏み入れると、血生臭さとまた別のよくわからない匂いでモワッとしており、思わず吐きそうになった。


  視線を廊下に向けると床一面に血溜まりが出来ており、人だったと思われるものが無数に転がっている。


「これは……ひどいな。」


  凪と神楽は死体を避けながら廊下を進んだ。


「誰もいないのか?」

「凪様。なにか居ます。」


  神楽がそう言った瞬間──




「いやぁぁぁぁ。来ないで!!」

「ブモォオオオオオ!!」


 女性の叫び声と共に、人ではないの声が廊下に響き渡った。


「ち……っ。行くぞ神楽!」

「お待ちを。」


  地面を蹴り上げ、走りだそうとした時、神楽が凪の腕を掴み待ったをかけた。


「なんだ?早く行かないと」

「恐らくオークがいます。」

「オーク?」

「はい。男は殺され、女は苗床。本質はゴブリンと変わりません。」

「じゃあさっきの声は…」

「想像してる通りですね。」


  話を聞いた凪の額には焦りからか滴がポツポツと浮かび上がってきていた。


  神楽は話を続け、

「オークはゴブリンとは違います。今のレベルだと私でも勝てるかわかりません。」

「それでもだ!あの叫び声を聞いて放置できるわけねぇだろ。」


  凪は少し声を荒らげ、神楽はなにかを考えているかのように目を伏せ静かに頷いた。


「かしこまりました。」



  ッ…!?

  目の前から神楽がスっと消えたと思えば、瞬間移動でもしたかのように、先程声がした辺りまで移動していた。


「凪様。こちらです。」


  凪も地面を蹴り上げ神楽を追いかける。


  少し遅れて神楽の元に到着し、教室の中を確認すると、ブタのような化物と黒髪をツインテールにした小柄な少女が向かい合っていた。


 ホウキを持っているみたいだが、そんなものでは無意味であろう。 周辺に目を向けると数名の女子生徒が服を着ていない状態で倒れているのが目に入った。


  オークはまだ凪たちに気づいていないのか、ホウキを構えた彼女ににじり寄って行く所だった。凪はチャンスだと思いすかさず神楽の名前を呼んだ。


 それと同時に神楽は頷くとオークに向かい手をかざす。するとオークの身体から炎が舞い上がり、


「ブモッ!ブモォォォ!!」


  と、オークは突然己の身体から火の手が上がった事に驚きのたうち回った。


「やったか?」

「凪様離れてください。表面が燃えてるだけで余り効いてないようです。」


  ダメか……


「そのまま焼き続けろ!」


  オークは先程まで、火を消そうと必死に暴れ回っていたが、火を消すのを諦めたのかターゲットを凪に切り替え突進し始めた。


「凪様ッ!!」

「ちっ!」


  横に飛び退いてなんとか避けるが、オークは方向を変えて何度も突っ込んでくる。神楽は心配そうな顔をしつつオークに手をかざし続けていた。


  直撃は避けているが、擦り傷などで服から血が滲み始める。


  くそ、しつけぇな……そろそろ体力がもたねぇぞ。


「凪様。私を使って下さい!」

「あれはまだ検証してないからなにが起こるのかわからない!」

「凪様!!」


  確かにこのままでは俺の体力が尽きるのが先だ。もし捕まれば廊下に居た奴らと同じ結末だろう。


「チッ。どぉなっても知らねぇからな!!」


  凪がそう言うと、少し離れている所に居たはずの神楽が目の前にスっと現れた。


 神楽が右手を差し出した。

 凪は差し出された手をそっと取り手の甲へとキスをする。


  その瞬間、神楽は人の姿から徐々に光の粒子となり、その粒子が凪の右手へと集まっていく。


  光がおさまると右手には日本刀を思わせるような形をしており、全体的に赤を基調にし、黒い縁取りがされ熱を帯びていた。


「神楽……なのか?」


゛はい。凪様の神楽です。゛


  脳内へと直接声が聞こえてくる。とゆうか凪様のってなんやねん…


「グッ、、」

 なん、だ?突然身体に異変を感じすぐにステータスを確認する


────────────────────

山本 凪 17歳 レベル5 人族

HP 45/60 MP 33/45

攻撃  26+50

防御  20+50

素早さ 31+50

運   35

侵食度 5%

スキル 精霊召喚、精霊武装

    -神楽


称号  世界を壊す者


────────────────────

  満タンだったはずのMPが激しい速度で減っていくのがわかる。


「クソっ、燃費が悪すぎるぞ!!」


  先程までオークの身体にまとわりついていた火は神楽が消えた事により既に鎮火され、鼻息を荒くして凪へと一直線に突進してくる。


  ふぅーー。

 凪は長い息を吐き自身を落ち着かせた。


 平和な時代で刀なんて持ったこともない凪は、以前剣道の授業で習った事を思い出し、上段の構えを取りオークを見据えた。


  そして左足を前に出し、刀を上に構えをとる。


  オークが近づいてくる…

 ギリギリまで引き付けろ…


「ここだァぁぁぁあー!!!」


  凪は刀を振り下ろした。




 スパンッ。


 オークを斬ったと同時に手元から刀が消え、神楽が姿を現した。


「ッ……!?刀は!?それにオーク…」

「凪様、御安心を。MPが切れました。そしてオークですが、そこで真っ二つになっています。」

 

  神楽が指をさす方に目を向けると頭から竹を割ったかのように綺麗に二つに切り裂かれており、切った部分は焼け焦げ血が出てくる気配もなかった。



【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】


「倒した、のか?」


  凪はその場に腰をおろし安堵する。


  少し経つとオークの体は消え、灰と光る石だけがその場に残った。


「大丈夫ですか?」

「ふっ。」


  凪は神楽の顔を見て少し頬を緩めた。

  その表情はいつものすました顔ではなく、余程心配なのか眉間に眉を寄せてこちらを見ていた。


「あぁ、大丈夫だ!ありがとな。」

「い、いえ。私はなにもできませんでした。」


  顔を曇らせ申し訳なさそうにしている。


「そんな事ないぞ。神楽が居なけりゃ今頃お陀仏だ。」


  頭を撫でてやり、嬉しそうな顔をしている神楽を見てほっと一息をつく。



  少し休憩をし、落ち着いたので立ち上がろうとするが、MPが少ないせいなのかうまく立ち上がることができない。


「凪様?魔石は使わないのですか?」


  そんな凪の状態を見て神楽が疑問を口にした。


「魔石?」

 

  これ!と言わんばかりに光る石に向けて指を指していた。


「使えば魔力が回復します」

「これって魔石だったのかよ…」


  と言うか神楽さん…もっと早くに教えといてよ。


「どーやって使うんだ?」

「食べます。」


  …………。


「食べます。」

「いや、俺なにも言ってな──」

「出さなくてもわかります。」


  あ、そうですか…。まぁサイズ的には飴玉を少し大きくしたぐらいだから、食べられなくはないだろうけど。


  そういやゴブリンを倒した時にポケットに入れておいたやつがあったよな。と凪はポケット中からゴソゴソ。とゴブリンの石を取り出した。


  とりあえず食べてみるか……?


  勇気を振り絞り一個だけ口に放り込んで、舌の上で転がしてみるが、味はしないな…でもって舐めていても溶ける気配がない。なんか、ビー玉を舐めている感じだ。


「凪様。舐めていても魔石は溶けませんよ。」

「……。」


  凪は神楽に指摘され少し恥ずかしくなったのかガリっ。ボリっ。と音をたてながら噛み砕いた。


「ステータス」

────────────────────

山本 凪 17歳 レベル7 人族

HP 70/70 MP 5/60

攻撃  33+50

防御  28+50

素早さ 39+50

運   50

侵食度 8%

スキル 精霊召喚、精霊武装

    -神楽


称号  世界を壊す者


────────────────────

「確かに少しだけど回復してるな。ゴブリンの魔石一個で5程度だが、ないよりマシだな」


 ここに来るまでに数体倒していた為、魔石はまだ残っていた。全てを口に放り込んで噛み砕いた。


「よし、とりあえず大丈夫だろ。」


  ステータス画面を閉じ、先程襲われそうになっていた女へと視線を向ける。


 知らない顔だな…一年か?


 彼女の周りには水溜まりができており、どうしたものかと頭を悩ませる。


「おい、大丈夫か?」

「ひっ…あ、だ、大丈夫です。」


  ひどく怯えてるな。まぁ無理もねぇか。目の前で火出したり刀振り回してるやつが居たら誰だってこうもなるか……


「とりあえず前を隠せ色々と見えてる」

「ッ……!?」


  彼女から視線を切り周囲を見回す。


 すすり泣く声が微かに聞こえるから生きてはいるみたいだけど……こいつらどうすっかなぁ。


「あの…」


  ん?あぁーさっきの子か…


「どうした?」

「私、一年の橘 小春たちばな こはると言います。先輩ですよね?先程はありがとうございました。」

「気にしなくていい。それよりもあのブタの化物は一体だけか?」

「い、いえ、先程までもっと居たのですが一体だけ残してどこかに行きました。」


  やっぱりまだ仲間がいるのか…一階に居なかったって事は上に居るのか?


「俺は用があるから移動する。お前はここの連中を頼む」

「え…どこか行っちゃうんですか?」


  橘の顔は徐々に絶望した顔に染まっていく。


 そりゃ怖いだろうが俺も目的があってここに来たから、悪いが構ってる余裕はない。


「知り合いが上に居るかもしれなくてな、行かなくちゃならないんだ。一階にはさっきの化物もいないみたいだし、逃げるなりなんなりしてくれ」

「わ、わたしも…」


 なにかを言いかけてる途中で、凪は彼女から視線を切った。


  正直連れてってほしいと言われても困る。

オーク一体であの強さだ。何体もいるなら尚の事、連れては行けない。


  凪は返事もせずにそのまま部屋を出ていった。



 そして


「私もあんなふうに強く……。」


  とつぶやく少女の言葉はドアが閉まる音とともにかき消されるのであった。



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