─精霊召喚─
「なんだよ、これ…」
外に出てみれば空には紋章みたいなものが浮かび上がっている。 それにまだ昼間のはずなのに夜かと思わせるぐらい空は暗かった。
突然紋章が急に光を発し始め思わず目を瞑る。ほんの数秒だ。数秒目を瞑っていただけなのに、目を開いた時には得体の知れない何か。がそこにいた。
ッ…!?
頭からは2本の角が生え、背中には翼が2枚付いている。まさに御伽話に出てくるような姿であった。
その場に立っているだけでピリピリとした感覚が肌から伝わってくる。不気味なくらい周辺は静寂に支配されており、恐らく世界中で見えているだろう化物に固唾を呑む。
その化物はゆっくりと口を開いた。
「この世界は選ばれた。我々の楽園へと招待しよう」
化物はそう言い放つと先程同様に光を発した。
再度目を瞑るが、目を開ければそこには何もいなかった。
唖然として立ち尽くす。
言葉が出ないとはまさにこの事だろう─
「はっ!は、はは、ははは」
凪は突然壊れた人形のように笑い出す。
「ははは、は、はぁ。最高の気分だ」
人が変わってしまったかのような
薄気味悪い笑みを浮かべながら
校舎を後にするのだった。
街の中はあまりにも悲惨な状況であった。数時間前に歩いた道とは到底思えない程だ。
道路だったであろう場所は崩れ落ち、車などは倒れた木や電柱の下敷きになっていた。
悲鳴やらなんやらでよくわからない音が街中に響き渡り家はほとんど倒壊。残ってるのは僅かだろう。
凪は少しでも歩けそうな場所を探し家までの帰路につく。
普段の登校時間の倍は掛かりはしたが、なんとか自宅まで帰ることができた。
倒壊していたらどうしようかと思ったが、家として機能しそうなぐらいは残っていた。
瓦礫をよけギィ…と壊れそうな音を出す扉を開け、靴は脱がずにそのまま家の中に足を踏み入れる。
「電気…は使えるな」
廊下の照明を付ける為のスイッチをカチカチ。と動かし、電気系統が生きてる事に安堵しつつ廊下を歩く。
「うわ、危な。鉄筋とか飛び出してるじゃん。」
家の中は物が散乱しており食器などが棚から落ちたのだろう。割れてガラスなどが散らばっていた。靴を脱がずに入って来たのは正解だった。
もし、玄関で靴を脱いでいたら今頃凪の足元は血で染まっていただろう。
少し歩く度にガチャ、ガチャ、っとガラスを踏む音を響かせながら家中を散策する。
「ちっ。これじゃあ住めたもんじゃねぇな。とりあえず俺の部屋に行くか」
2階に上がり部屋の近くまで来るとガラスを踏む音とは別に壁を叩くような音が聞こえてきた。
なんだ…?と、凪は恐る恐るドアを開けた。
「グギャギャ?」
バタン。
急いでドアを閉めた。
「は!?なんだよあれ!」
緑色の体をした小柄な何かがいた。
平べったい顔に、尖った耳。そして口からは小さな牙が覗いていた、
混乱している凪をよそに
ドアの向こうからバキッ。バリバリ。っとドアを破壊しようとしている音が響き出す。
凪はヤバイヤバイと冷や汗を掻きながら台所に走り包丁を探した。
バキバキッバタン!と扉が破られたであろう音と共に先程目にした緑色の生物が走ってきた。
片方の手には棍棒…なのか?太い棒切れを持って振り回していた。
「あれってゲームとかラノベで言うゴブリンだよな…」
初めて見る架空の生物を前に少し足がすくむが、包丁を前に出し牽制しつつ会話を試みる。
「お前さっきの空に現れた奴と関係あんのか?」
口には出すが一歩が踏み出せない凪を横目に
ゴブリンは徐々に躙り寄ってくる。
「グギャグギャ」
チッ。会話ができるわけねぇか…
「ギャーグギャ?ギャッギャ!」
ゴブリンは凪の周辺をウロウロ。としながら、バカにするかのように声を出していた。
「……お前、俺をバカにしてんのか?」
ゴブリンは気付いていた。凪がビビって腰が引けている事に。
動け!ビビるな!相手はゴブリン。対して強くないはずだ…
凪は自分の足を叩き奮い立たせる─
……君はこの世界が憎いかい?
……壊してしまいたいと思うかい?
……ふふっそれでは私が力を貸してやろう。
ふと。いつの日だったか見た夢が頭に浮かんでくる。
「ハハッ!そおだよ、そおだったな。俺がこの世界を………俺が世界を── ぶっ壊してやるよ!!」
先程までとは打って変わり凪は身体全体から殺気をゴブリンへと放った。
「力を………寄越せ。」
「この世の全てを……」
【世界を壊す意思を持つ者を確認。山本 凪に称号を付与します。】
【一定数のレベル到達を未確認。スキルをロックします。】
「壊す力を俺によこせぇぇ!!!」
【外部からの操作により、強制解除を確認】
【レベルが上がりました】
【一定数のレベルを確認。スキルをアンロックします。】
「来い。弌ノ精霊 神楽かぐら」
凪の声に反応し、炎のように赤い髪を肩ぐらいまで伸ばし、鮮やかな緑色の目をした女の子が現れる。
「ッ…!? これが俺の力。なのか?」
手を開いたり握ったりしながら感触を確かめるが、なぜか普段よりも力が湧いてくるのがわかる。
「凪様。ご命令を。」
赤い髪の女に声を掛けられハッとする。
「そこにいるゴブリンを倒せ」
「かしこまりました。殲滅します。」
その女は無表情のまま、ゴブリンに向けて手をかざした。すると突然ゴブリンの身体に火が付き、一瞬で灰となってしまった。
「凪様。終わりました。」
「あ、あぁ。すごいな」
ゴブリンであったであろう灰を見ながら素直に賞賛する。
「すべて凪様のお力です。他にご命令はありますか?」
「いや、とりあえず大丈夫だ」
「では。」
一言だけ言い残すとその女はその場からすぅ。と姿を消した。
凪はあまりにも突然の出来事に唖然としつつ、近くにあった冷蔵庫から買い溜めしてあるペットボトルの水に手を伸ばし、一気に飲み干した。
「ぷはぁ。」
落ち着け凪。とりあえず色々整理しよう。
まず最初に聞こえた機械みたいな声はなんだ?それにさっきの赤い髪の女……。
「くそっわけわかんねぇ」
色んな事が重なりすぎて頭がパンクしそうだと頭を掻きむしる。
すると突然目の前にウインドウらしき物が表示され始めた。
山本 凪 17歳 レベル2 人族
HP 30/30 MP10/20
攻撃 14
防御 13
素早さ 18
運 30
侵食度 3%
スキル 精霊召喚
-神楽
称号 世界を壊す者
ん?なんだこれ。ゲームみてぇだな。
えーと、HPにMP、攻撃…ってまんまゲームのステータス画面じゃねぇかよ。
HP30…これ全体少ないヤツ…。
MPは20だけど10まで減ってるな。さっきの女を呼んだから減ったって事か?
攻撃に防御……侵食度?なんだこれ?聞いた事ねェ項目だな…
スキル―精霊召喚。これがさっきの女のやつだな。
現状ヤバそうなのはこれだな……
゛称号 ゛
『世界を壊す者』
多分だが……絶対やばい。断言するわ。いや、確かに壊すとは言ったけどさ、こんなあからさまにしなくてもいいじゃん…。
この画面って他人からも見えたりするんかな?大丈夫だよな?
見つかったらやばい奴扱いされるぞ、なんなら逮捕されるまでありえる。
「ふぁーあ。」
ステータス画面を眺めていると眠気が襲ってくる。
そーいえば今何時だ?外が暗いから今が昼間なのか夜なのかすら見当もつかないんだよな…
凪は台所を離れ自分の部屋へと向かう。
やはり壁などには棍棒で叩いたような後がありボロボロだった。
布団だけは無事だったようで、そこだけ綺麗にして横になる。
「さすがに疲れたな…」
色々あったからなのか、布団に入った途端にゲームの電源を切ったかの様に凪の意識は途切れるのであった。
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