─決意─
……やっと世界改変が起こったのね。
……一応魔王には感謝しておくべきね、癪だけど。
……でもまだ足りない。
……早く強くなって私を呼んで。愛しの主様。
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ジリっじィジジリィジリィっぃぃぃジッジリィ
「うっるせぇ!!」
独特なテンポで音を鳴らす目覚まし時計は健在であった。
「お前生きてたのかぁぁ!!」
子供をあやすかのように目覚まし時計を止め、視線を窓の外に向けるが、空は相変わらず真っ暗であった。目が覚めたら全部夢でした。みたいなテンプレ機能はなかったらしい。
ベッドから身体を起こし、ゴブリンさんの被害者第一号であろうボロボロになったタンスを開け、着替えを探す。
ぐぅー。と腹が減ったぞ!食べ物をよこせ!と言わんばかりにお腹の虫が騒ぎ出した。
全くやれやれだぜ。と独り言を言いつつ、なにか食べられる物を探しに台所まで足を運び周辺を物色する。
「んー……食パンはあるんだが、これ焼いたら匂いでゴブリン寄ってきそうだよな…」
少し嫌な予感がするので、そのまま焼かずに近くにあったジャムを塗りパンを頬張った。
パンを頬張りつつ視線を移動すると、キラリ。と光るなにかが落ちている事に気が付く。
「ん?なにこれ?光る石…?」
河原にでも転がっている石に見えなくもないが、石にしては綺麗すぎるし、少し光っていた。
特に気にもせずポケットに無造作に仕舞い込み、パンを完食する。
「ふぅ。食った食った。さて、少し外の様子でも見てみるか。」
懐中電灯を片手に玄関のドアを少し開け、外の様子を確認する。
「うわー……マジでめちゃくちゃ居るじゃん。」
凪から見える範囲だけでも相当な数のゴブリンがうろうろとしていた。
バラバラバラバラバラ
空を見上げるとヘリコプターが飛んでいた。テレビ局辺りが飛ばして撮影でもしているのだろう。
「あ、テレビ!!なんかやってんじゃね?」
ドアをそっと閉めリビングへと走った。
リモコンを取り出し、電源ボタンを押す。
ピッ、ピッ、っとチャンネルを回すがどこも同じような内容であった。
「ん?」
適当に回していたチャンネルを元に戻す。
「そうです。あの緑の生物はゴブリンと言って正直あまり強くはありません。包丁でもなんでもいいです。まずは何人かでグループを作りそのゴブリンを倒す事をおすすめします。」
「そのゴブリンとやらを倒してレベル?をあげる事によって身を守れると言う事でしょうか?」
「はい、ステータスと唱える事によって目の前にゲームのようなウインドウが現れます。そこには自身の強さ、スキルなどが表示されます。例えばですね僕のスキルは ゛一閃 ゛。って名前のスキルなんですけど、刀を降れば斬撃が飛びます。」
「そおなんですね!聞くだけですごそうですね。」
「昨日空に翼の生えた生物が出てきましたよね?あれが放った光によってこの世界にマナ。と言えばいいのでしょうか。魔法やスキルを使う事によって減ったMPを自然回復してくれる空気みたいな物が存在しています。」
マナ?そんなものがあるのか。
そもそもなんでこいつそんなに詳しいんだ?
「なんかゲームの世界みたいな話ですね。今もここにそのマナ?というものがあるんですよね?それにあの翼の生えた生物についてもご存知なのですか?」
「そおなります。今は午前中ですが、外は夜みたいに少し暗いですよね?それもマナが影響しています。そしてあの翼の奴なのですが、あれは魔族の王です。所謂魔王と呼ばれる存在です。突拍子もない話で信じて貰えるかはわかりませんが、僕はまず異世界からの帰還者です。ある日突然異世界に飛ばされて魔王軍との戦いを余儀なくされていました。その時倒したはずの親玉が翼の奴になります。」
「そおなんですね、にわかに信じ難いですが実際に見ている以上信じるしかありません。その魔王はこの世界をどうするつもりなんでしょうか?」
「恐らくですが、乗っ取ろうとしてるんだとは思います。倒したと思ったのですが、上手く逃げたのでしょうね。それであちらの世界には戻れないのでこの世界を自分の物にしようとしているのかと思います。既に昨日の件で世界改変が行われています。僕の所にも各支部から魔王と魔物。その両方を確認済みとの連絡が入っています。」
「私達はこれからどのようにすればいいのでしょうか?」
「できるだけレベルを上げてください。魔物を倒せばレベルは上がります。倒せない人は地下フィルターなどへの避難をお願いします。」
「わかりました。詳しい事が分かり次第放送を開始致します。」
番組が終わり真っ暗になったテレビを消す。
「へぇ。異世界帰還者ねぇ…」
通りで詳しいわけだ。俺が拾った石についてはなんも話してなかったな。
ほんとなんなんだこれ……
凪は消えたテレビの前でなにをする事もなく、ただ呆然としていたが、ふと思った。
学校に残ってたやつらはどーなったんだ?と。
正直な所荒木なんかは死んでればいいと思うが、委員長はなぁ……一応世話になってた身である訳で…。
「はぁ。……少し様子だけ見に行くか。」
凪は小さくため息をつきながら、学校へと向かう決心をするのだった。
「玄関……は辞めといた方がいいか。」
台所の方へ向かい裏の勝手口からチラッと外に視線を向けるがゴブリンらしき存在はいなかった。
「よし、こっちには居ないな。じゃあ行くか。」
後にこの判断が凪と瀬戸と魔王との三つ巴の争いになる事は誰も知らない。
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