第52話 壊さなくちゃ

「な、何で……貴女がこんな所に?」



 世界から音が消えたような錯覚に陥る。

 あまりの衝撃に、私は言葉を失っていた。思考が上手くまとまらない。刀を握る手の震えが止まらない。



 どうして、どうして。私を助けてくれた貴女が、魔法少女である貴女が、こんな場所にいるの?

 まるで、悪の組織の一員みたいに――。



 いや、他人の空似だろう。そのはずだ。そうでなければ困る。

 そういえば、世界にはそっくりさんが三人はいるとも聞いたこともある。

 だから、私の命の恩人である魔法少女と、目の前の少女には何の関係はない。



 脳がエラーを出して立ち尽くしている私の様子に、軍服姿の少女は怪訝そうな表情を浮かべる。



「ん? ここに一人で来たということは、お前がアマテラスなのだろう? 映像で見た容姿とも相違はないはず……。

 一応尋ねるぞ。魔法少女アマテラスは、お前か?」



 少女の質問に何かを答えないといけないと思い、口を開く。しかし、そこから出てくるのは乾いた空気だけで、まともな言葉を紡ぐことができない。



 そんな自分から見ても情けない私の姿に、少女は失望の色を瞳に宿す。



 お願いします。私の恩人と、私が憧れた人と同じ顔で、汚らわしいものを見るような目を向けないでください。



「あいつがあれ程に執着しているから、どれだけ立派な魔法少女かと思えば、とんだ期待外れではないか。

 あいつの見る目がないのか、それともここに来るまでに散々ちょっかいでも出されたのか?

 ……いや、その反応を見る限り、儂に会ったことがあるようだな。おおかた魔法少女として――『アクニンダン』を立ち上げる前の儂に助けられたと言った所か」



 そこで一度言葉を打ち切った少女は、片手を頭に当てて何かを思い出そうとする素振りをする。

 一見油断をしているようにも見えるが、少しの隙も感じられなかった。

 そもそも、今の私は不意打ちができる精神状態ではないのだが。



「ああ、思い出した。少し前に、あいつが儂に感謝してきたのかはそういうことだったのか。なる程、なる程」



 一人で勝手に納得した少女は、改めて私に意識を向けてくる。その冷たい視線に、反射的に体がピクリと動いてしまう。



「では全く気は乗らないが、あいつから与えられた命令でも果たすとしよう。お前により詳しい世界の真実を教えると同時に、絶望をプレゼントをしろとな。

 遅くなったが自己紹介をさせてもらおうか。儂は元『アクニンダン』の首領――『ボス』でもあり、現在は『改造人間』第七号。

 ――そして、世界平和などという絵空事を本気で叶えようとした『原初の魔法少女』と呼ばれた者だ」



 その発言に、私の心のどこかでぽきりと何か大事なものが音を立てて折れる音がした。





 では、一体どこから語るべきか。

 何? 儂が魔法少女であることを未だに信じられないのか? それもよりによって、自分の命の恩人である上に、『原初の魔法少女』であるのが。



 多少はあの連中――儂の元同僚達から話は聞いていると伺っているが。



 まあ、そこはどうでもいい。お前が信じなくとも、それが事実であることに変わりはない。



 『原初の魔法少女』――儂が最初に倒した魔物のことは知っているだろう? 『魔王』なんて、大層な二つ名までもらって忌々しい限りだ。

 当時は本当に一人で、十三体もいた『魔王』と戦うのは苦労したよ。命の危険は何度も感じた。

 それでも、何とか『魔王』と呼ばれた個体は全て始末した。



 だが、お前も知っている通り、それで終わりではなかった。『魔王』どもがこちらの世界に来たことで、大きな『穴』が空いてしまった。

 そのせいで、こことも地球とも違う異世界から魔物が現れるようになったのだ。



 これが魔物が現れるようになった経緯だ。そして、突如として現れた魔物という脅威に呼応するかのように、儂を始めとした魔法少女が誕生し始めた。



 儂は仲間達と世界に平和を、魔物がいない世界を実現する為に足掻いたが、『穴』の存在がある限り、どれだけの数の魔物を倒しても無意味だった。



 儂に着いてきてくれた仲間達は、やがて諦めてしまい、『魔法庁』という傀儡組織を作って仮初の平穏を作ることに終始した。

 まあ、どこかで狂ったのか、「自分達が世界を支配者である!」と豪語するようになってしまい、お前が知るような感じになったのだ。



 昔は志を共にした同志が落ちぶれるのは、本当に悲しいことだ。



 それで儂の方は諦め切れずに一人で魔物を倒し続けたが、やはり『穴』自体をどうにかしなければ対処療法にしかならない。



 そこで、儂は思いついた。なら、その『穴』を閉じれば良いと。その為に必要なものを探す為に、儂は『アクニンダン』を創った。

 『ソレ』が出現する為の条件として、極限状態に追い込まれた人間が発する感情が必要だった。

 野良の魔物による脅威だけでは足りない。もっと多くの人々の絶望や悲鳴が必要だった。数をこなす為に、『アクニンダン』を創ったのだ。



 もちろん、その過程で無辜の人々を虐殺をするのには心を痛めた。何度も自ら命を絶ちたいと思った。

 それでも、多を救う為の最小の犠牲。必要な犠牲。



 そう思い込むことで、何とか耐えることができた。



 それで、ようやく見つけたのだ。

 『穴』を塞ぐ為に必要なものを。そうだ、お前のことだよ。アマテラス。



 正確に言えば、お前が覚醒させた魔法の力だ。お前が扱う魔法は、他の魔法少女のものと違って魔物と同じで、こことは違う世界に由来する力。



 ……その反応、何か心当たりがあるようだな。まあ、それはどうでもいい。方法を説明してやるとしよう。

 お前の力と『穴』を共鳴させることにより、『穴』を消滅させることができる。



 代償としてお前は死ぬことになるが、魔法少女としては本望だろう?

 早速その為の儀式に入りたい所ではあるが、さっきも言った通り今の儂にはそんなことをする権限はない。創造主様の言いなりだ。



 自分が撒いた種とはいえ、全く腹ただしいことだ。

 だから、言っただろう。今の儂は首領であると。



 現在の『アクニンダン』のトップは――。





 軍服姿の少女――『ボス』が何かを口しようとしていたが、今の私にはそれに耳を傾ける余裕はなかった。



 『ボス』はあの魔法少女達が話した以上の真実を告げようとしてきたが、ただ突っ立てという訳にはいかなかった。



 攻撃を仕掛けながらだ。精神的に弱っていたが、無抵抗で攻撃を喰らう訳いかないので、当然反撃はした。

 けれど、あの『魔王』異常個体の魔物を一人で倒した経験があり、一癖や二癖のある『アクニンダン』の幹部達を――一部を除いて――御していた人物だ。



 いくら『ボス』曰く世界を救う程の可能性を秘めた魔法であっても、一矢報いることすらできずに徐々にボロボロにされてしまった。



 もはや簡単な魔法の一つを使用するのも叶わない。



「――ん? これ・・は伝えてはいけないらしいな。まあ、あいつのことだ。どうせ、碌なことは考えていないだろうよ」



 『ボス』がまだ何かを喋っているが、もう私にはどうでもいい。

 というか、そもそも始めから気にする必要がなかったのだ。




 彼女や、ここに来る前に会った『アクニンダン』の幹部らしき少女は、自分のことを『改造人間』と呼んでいた。

 つまり造られた存在で、普通の人間ではない。どんな行動も創造主の意志が介入していると考えても不自然ではない。



 故に、今『ボス』が語った話しには何の信憑性もない。



 『ボス』の容姿が私の恩人と似かよっているのも、彼女の創造主の――『アクニンダン』を真に牛耳る何者かの心理攻撃に違いない。

 うん、きっとそうだ。



 だから、これ以上私の大切な思い出が汚される前に。今すぐに、この偽物を壊さなくちゃ。壊さなくちゃ。壊さなくちゃ。壊さなくちゃ。壊さなくちゃ――。 

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