第53話 想定外

「え、嘘だよね。流石に完全に壊れてはないよね……」



 僕は死角に配置していた『シャドウ』さんの分体で、アマテラスと『改造人間』第七号『ボス』のやり取りを観戦していた。

 けれど思わず、困惑の感情とともに独り言が洩れてしまう。



 この世界の真相について、ある程度アマテラスは知っていそうだったので、命の恩人である『ボス』との運命的な再会を演出しつつ。その『ボス』自身の口から語ってもらうという粋なサプライズを用意していたのだが――。



 ――そのサプライズが思ったよりも、アマテラスに効いてしまったらしい。



 想定よりも、アマテラスの中では『ボス』は大きい存在だったようだ。魔物から助けてくれた恩人という認識だけではなく、魔法少女を目指す切っ掛けを与えてくれた人でもあったということが判明した。



 僕の記憶にある『ボス』だけでは何とも違和感があるが、魔法少女時代も含めるとギリギリ納得できなくはない。

 それに『アクニンダン』の首領になっても、魔物のいない平和な世界を心から望んでいたことは、『ボス』の記憶を読み取ったことで把握している。



(……そう考えたら、『ボス』って信念がブレずに生きてきて、尊敬するに値すべき人物だったのでは?)



 まあ、アマテラスを犠牲にすると言い出した件を切っ掛けに、不意打ちをして『ボス』を『改造人間』にしてしまったが。



 それはともかく。アマテラスと『ボス』との会合は、軽いジャブ的な精神攻撃のつもりだったのだが、会話途中の物理的な攻撃も合わさり、今のアマテラスは瀕死寸前であった。



 予定が崩れてしまった。少々残念だが、追撃をしようとしている『改造人間』第七号『ボス』に攻撃の中断、及びアマテラスの回収を命じる。



 魔法少女らしい輝きが最後に見れなかったのは、惜しかったが玩具の遊び方心の壊し方はいくらでもある。

 それを一つずつ、順番に試していくことで心を慰めていくとしよう。



 アマテラスの回収が終わるまで、意識を別の戦場に移す。そこでは、『改造人間』第四号をリーダーとして全ての『試作品』や『完成品』に、調教済みの魔物達が、『魔法庁』の魔法少女の軍勢を相手に戦闘を繰り広げていた。



 戦況は互角――と『アクニンダン』の新首領としての立場からはそう言いたかったが、徐々にこちら側が押されつつある。



 戦闘不能になった魔法少女に回復魔法を施して、強制的に戦線復帰させるゾンビ戦法で、開始時点では同じくらいだった戦力は差が開く一方だ。



(……このままじゃ、アマテラスとお楽しみをする前にお縄になりそうかな? いや、大丈夫か。

 まだ、こっちには最大戦力である僕自身と『改造人間』第七号『ボス』がいる。

 消耗した『魔法庁』の戦力なんて、けちょんけちょんだよ。多分)



 しかし、手駒や『お気に入り』をほぼ全て手放さないといけないのには心が痛む。

 『アクニンダン』のアジトも、自分から場所をバラしたとはいえ破棄せざるを得ない。



 いくらとっておきの戦力があったとしても、絶えず魔法少女を送り込まれるのはノーサンキューだ。



 駄目元で戦況を打開する一手を求めて、『魔法庁』側の通信を傍受してみたのだが、その際に一つの事実が明らかになった。



(『改造人間』第四号の素材にした子って、『魔法庁』のお偉いさんの子供だったのか。『調整中』とかの反応が色々と良かったから、第四号も連れて行きたいけど、無理そうかな……)



 内心、ため息を吐く。

 この際、彼女達の役割は僕が逃げるまでの時間稼ぎさせできれば十分と割り切るとしよう。



 そうやって気持ちの整理をしていると、僕の強化された感覚器官が膨大な魔力反応を感知すると同時に。『改造人間』第七号『ボス』との間のパスが消滅してしまった。



 慌てて、『改造人間』第七号『ボス』の傍に配置していた『シャドウ』さんの分体に意識を戻す。

 そこで、僕が見たものは――。



 ――闇落ち形態と言っても過言ではない、黒色を基調とした和服とゴスロリを合わせた衣装に身を包み、異質な魔力を纏いながら、『改造人間』第七号『ボス』を一刀両断するアマテラスの姿があった。



 『改造人間』第七号『ボス』が撃破された瞬間に、その内部にいた『シャドウ』さんの本体が消滅したことにより、視界を同調していた分体も消えてしまい、それ以降の情報を得る手段は無くなってしまった。

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