第51話 予期せぬ再会

「……そろそろだろうね」



 僕は独り言た。

 完全な自由意思を持った存在が自分だけの『アクニンダン』のアジト。異空間に建てられたものであるが、座標位置の情報は『魔法庁』に渡してある。



 恐らく今はその情報の真偽についての精査や、洗脳や認識改竄の魔法が切れた世界の混乱を収めるのに奔走して忙しいだろう。



「だけど、思ったよりも荒れなかったなー」



 ここ数日間の世間の様子は、テレビやネットに、現実世界に派遣した隠密特化の『試作品』で情報を得ていたのだが、何というか若干の期待外れであった。



 正義の味方を騙られて、知らない内に搾取を受けていたというのに。



 確かに怒りで暴走した人間はいたが、所詮は一部。それ自体も、真摯に魔物討伐に励む魔法少女達の姿に感化されて沈静化していった。



 僕としては、大きな力を持つ魔法少女達の努力を以てしても、どうにもならないような混沌を望んでいたのに。そんな世界を見て、表情を曇らせるアマテラスの顔を見たかったのに。



 まあ、この不完全燃焼なストレスは、これから発散させてもらうとしよう。



 そう意気込みでいると、自らに施した肉体改造で研ぎ澄まされた五感が、空間の揺らぎを感知する。転移魔法特有のものだ。



 ざっと把握できるだけでも、魔法少女の数は百を越えている。それにも関わらず、魔法少女の魔力反応は増えていく。



 どうやら、あちらも今回の戦いで『アクニンダン』こちらを完全に潰すつもりで総力戦を仕掛けてくるようだ。



「うんうん。ここまでは読み通りだね」



 負け惜しみではなく、これは事実だ。本拠地の座標位置を渡せば、『魔法庁』は目の上のたん瘤である『アクニンダン』を必ず排除したいと考えると踏んでいた。



 それに『アクニンダン』の解体を成功させることで、未だに存在する反対勢力を黙らせる材料を作る狙いもあるのだろう。



 それはそれで好都合である。相手が本気であればある程に、それを挫かれた際に抱く絶望はとても甘美であろうから。



 そこで思考を中断し唇を舌で湿らせると、『試作品』や『完成品』、調教済みの魔物にそれぞれ指示を下して、お迎えの準備を始めた。





「……ここが『アクニンダン』のアジト」




 そう小声で呟いた私の視界には、巨大な建造物が映っていた。どこか近未来的な印象を受けるが、全体的に遊び心が感じられず、まさに雰囲気は悪の組織のアジトと言うべきだろうか。



 その雰囲気に呑まれないように、深呼吸を行う。



 緊急の招集がかかってから、約一日が経過。

 『魔法庁』は一部を除いて、全ての魔法少女を『アクニンダン』攻略作戦に動員することを決定。



 数少ない転移魔法持ちの魔法少女を酷使して、順次『アクニンダン』のアジトがある異空間に魔法少女が移動させられていた。



 もちろん、私もこの作戦には参加している。



 転移が完了後、五分が経たない内に本部から指令が届く。突入を開始せよ、と。



 それが合図となり、私を含めた魔法少女達が移動を始めようとした時。転移魔法特有の波長を認識したと思ったら、私達の目の前には数えるのが馬鹿らしくなる程の魔物の大群や、数人の少女達の姿があった。



 その少女達の何人かには見覚えがあった。ここ最近は全く姿を見かけなかった『アクニンダン』の幹部達だ。

 けれど、その中には私の探しているフランはいない。



 想定以上の相手側の戦力に私達が様子見をしていると、一人の少女が前に出てくる。その顔は初見であり、恐らくは新しい幹部だろうと推測していた。



 その少女が口を開く。



「ようこそ。魔法少女の皆さん。私は『改造人間』第四号。呼び方は適当で結構です。

 私は与えられた役割に従って戦闘は始めたいと思いますが……その前に。

 アマテラスさんは来ていますか?」

「え? 私?」



 油断なく少女――『改造人間』第四号を警戒していると、いきなり私の名前が呼ばれる。



 若干の混乱が収まる前に、私の姿を確認した『改造人間』第四号は、言葉を続ける。



「来ているようですね。首領からの命令で、「アマテラスさんだけは通すように」と伺っています」



 周りの魔法少女達から、疑惑の視線が注がれる。裏切り者ではないかという意図が込められた。



 その誤解を否定するように、『改造人間』第四号は話を再開する。



「もちろん、アマテラスさんは皆さんを裏切っていませんよ。ただ、首領が彼女に個人的な興味を持っているだけです。

 アマテラスさんが了承してくれるのであれば、貴女を攻撃は加えずに素通りさせてあげますけど、もしも頷かないのであればふん縛ってでも首領の前に連れて行きます。

 他の魔法少女達は排除した上でね。どうしますか?」



 その質問に対して、私はゆっくりと首を縦に振った。



「貴女、何を勝手なことをっ!?」

「すいません。戻ったら、どんな処分でも受けますので!」



 当然それを認める訳にはいかない指揮権を持つ魔法少女が非難の声を上げるが、申し訳ないと思いつつも私は全速力で地面を駆けた。



 咄嗟の私の行動に対応ができる者はおらず、『アクニンダン』側は先ほどの宣言通りに私には一切の危害を加えることはなかった。



 しかし、それからすぐに背後では激しい戦闘音が発生し始めた。



(少しでも早く片付けて戻りますから……!)



 心の中で謝罪しながらも、私は『アクニンダン』のアジトの中を進んで行く。ちなみに、行き先は強力な魔力反応がある場所である。



 全くの妨害はなく、必要性を感じない無駄に長い通路を進んでいる途中に、一つの人影があった。



「ほお……ようやく来たか。待ちわびたぞ。どうせなら、もっと早くにお前と出会いたかった。

 不意打ちとはいえあいつに敗北した今の儂には、何の自由もないからな」



 そんな見た目に似合わない尊大な口調の小柄の少女の姿に、私の思考が止まる。



 だって、その少女は昔に私を魔物から救ってくれた魔法少女と瓜二つであったからだ。

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