第50話 狼煙は上がる

 ――『アクニンダン』による『魔法庁』の本部への襲撃。元トップ層の魔法少女ダイヤモンド・ダストの裏切り。上層部がひた隠しにしていた事実の数々。



 それらが世の中に知れ渡ったのは僅か一日であり、世界は私が対峙したダイヤモンド・ダストを操っていた誰かの言う通りになった。



 正義の組織と信じられていた『魔法庁』が、実は世界を裏から支配していた。

 人々に施されていた洗脳や認識改竄の魔法の効果が切れ、世界には瞬く間に混乱が広がった。



 魔法少女であるだけで、『魔法庁』の職員であるだけで、世間からはバッシングに晒されそうになったり。一部の先走った者達による私刑が行われそうになったり。

 果には、『アクニンダン』の幹部を助けるべきという意見にとどまらず、そのトップである『ボス』すら擁護する声まで一部では出始めていた。



 しかし治安は悪化して、犯罪に走る者が徐々に増えそうになっても、それは人間にとっての都合でしかない。

 野良の魔物はそんなものを考慮しない。いつも通り、神出鬼没に現れては人に建物に被害を齎し、様々な理由で数を減らしつつある魔法少女によって討伐される。



 一方で『アクニンダン』は不気味な程に姿を見せなかった。使い捨ての魔物や幹部も含めて。



 そんな混沌としているのが、今の世界であった。



 それでも、私を始めとして命を賭けて戦う魔法少女の姿に――自分で言うのは何か違う気がするが――世間の大半は心を痛めて、混乱は少しずつ収まりつつあった。



 そして、現在の『魔法庁』の上層部は再編されて、新しい面々の中には、私の直属の上司であった若林さんの顔があった。

 どういう政治的なやり取りや思惑があったとしても、どこまで行っても一魔法少女に過ぎない私には無縁の話。

 困っている人がいれば西へ、暴れている魔物がいれば東へ。求められれば、どんな場所にも向かうだけだ。



 もちろん、若林さんには操られたダイヤモンド・ダストから渡された紙――『アクニンダン』のアジトの座標位置が書かれたもの――を既に提出済み。

 本当は一人で突撃をしたい所ではあるが、転移魔法を使えない私にはそれは不可能。

 命令が下るまで、待機するしかない。



(……アリサちゃん、フラン。今度こそ、絶対に助けてみせるから。だから、無事でいてね)



 ――それがどれだけ自分勝手な願いであったとしても、今の私にはそれしかできなかった。祈ることしかできなかった。



 そんな悶々とした思いを抱えながら、家にも帰らずに魔物討伐や街の復興の手伝いをする日々を送っていると、私を含めた『魔法庁』全ての魔法少女に招集がかかった。



 ――『アクニンダン』攻略作戦。世界の命運を賭けた戦いが、私が二人の少女を悪の組織から解放する為の戦いが、私が『ボス』と対話をする為の戦いが始まろうとしていた。




――後書き――


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