第32話 叛意?
遠目ではあったが、推しを存分に堪能できて大満足した僕。
完成間近であった
むしろ、アマテラスの新衣装や活躍を見れたので、プラスだろう。
ルンルン気分で、『アクニンダン』のアジトに帰還し、捕まえたダイヤモンド・ダストを自分のラボに連れて行く。
都合の良い場面だけを見せて、アマテラスがウィッチに止めを刺したように勘違いさせることには成功して、アマテラスに憎悪を向けるようにはできたのだが。
それがイコールで、ダイヤモンド・ダストが僕の、『アクニンダン』の命令に忠実に従う駒という訳ではない。
もちろん、そういう方向で『調整』をすれば良いだけの話なのだが、『素材』が優秀であればあるほどに、『調整』――肉体や意思の掌握は難しくなる。
ノウハウ自体はほぼ完成しているが、やはり『素材』の力が強いと簡単にはいかない。
ウィッチの時には、その力の提供元が『ボス』である為、手伝ってもらうことでスムーズに『調整』が完了した。
けれど、ダイヤモンド・ダストは魔法少女。僕や他の幹部達のように『ボス』に与えられた紛い物の力ではなく、彼女達自身の才能に基づく力。しかも、それの最高峰の一角に位置している。
これまでの一般人や魔物、『アクニンダン』の幹部にやってきた『調整』とは勝手が違ってくる。
ダイヤモンド・ダストの殺意はアマテラスに向くように誘導はしたが、ウィッチに非道な仕打ちをしてきたのは僕らだ。
中途半端な『調整』では、アマテラスの前に『アクニンダン』に牙をむく可能性がある。というか、間違いなくそうなる。
僕としては、ダイヤモンド・ダストの殺意に塗れた表情や感情も含めて堪能して受け止めても良いと思っているが、あくまでも彼女の役割はアマテラスへの試金石。ここで使い潰す訳にはいかない。
それに僕の一番の推しは、アマテラスだ。
ダイヤモンド・ダストも僕の理想的な魔法少女像に近いとはいえ、推し以外に殺されるつもりはない。
そもそも、僕はアマテラスにも殺されたいとは思っていない。推しの、気に入った少女達の絶望に染まった顔や理不尽に対する怒りを享受したいだけ。二度目の生が続く限り、永遠に。
その為の手段として『アクニンダン』に所属しているが、世界征服はぶっちゃけどうでもいい。
もしも『アクニンダン』が僕の障害として立ちはだかるのならば、僕も本気で――。
――そんなことを考えている内に、ダイヤモンド・ダストを『調整』する為の専用のカプセルの用意ができた。強度だけ見れば、他の『試作品』達が入っているカプセルよりも数倍上だ。
少し前に『ボス』に無茶を言って、手配をしてもらった物だが、世の中何が必要になるか分からないものである。
「もー、暴れないでよ。僕の誘いに一度首を縦に振った君に、今更拒否権があると思う?」
「――! ――!」
「はいはい、聞こえない、聞こえない。……『シャドウ』さん。ダイヤモンド・ダストはそのまま押さえていてくださいね」
「■■」
相変わらずに殺意マシマシで暴れようとしているダイヤモンド・ダストは、『シャドウ』さんに拘束されている。
ダイヤモンド・ダストをカプセルに入れる為に、引き続き『シャドウ』さんに拘束をお願いした。
ノイズが入りまくって、もはや雑音に近かったが「了解」と言ってくれる『シャドウ』さん。そんな彼? に感謝の念を向けつつ、カプセルの蓋を開き、その中にダイヤモンド・ダストを放り込んでもらう。
その際に一瞬だけ拘束が解けてしまうが問題ない。『シャドウ』さんに、意識を刈り取ってもらったので心配する必要なし。
蓋を閉じて、厳重にロックをかけた後。カプセル内を特別な液体で満たす。この液体は、他の『試作品』達を『調整』する為にも用いる、僕の命令に従いやすくなる効果があるものだ。
ちなみに、この液体は僕の魔法『生体改造』の応用で作り出したものである。理屈としては、『素材』を改造するのに必要だからだろうか。多分。
そんな思考を中断してくるかのように、別のカプセル――『第四号』とラベリングされたカプセルから抗議を上げるような声が響いてくる。
「――! ――!」
「あー、君もうるさいなぁ。今は構ってあげられないから、後にしてくれる? 後で、たっぷりと
「――! ――!」
なおも抗議は続くが、それを無視してダイヤモンド・ダストに『調整』を施す為に、下心を一切排して両手をワキワキさせながら、カプセルの操作をしようとした瞬間。
白衣のポケットにしまっていた組織専用の端末が、音を立てて鳴る。
「ん? ……一体誰かな? せっかくのお楽しみの時間だったのに……。うわ、『ボス』から連絡か。えーと、何々……送った報告書について、より詳細なことを聞きたい、至急来るように、と。
拒否権ないじゃん!」
オフの時間帯に上司から、あまり喜ばしくない案件で呼び出される。これは転生をして、世界を跨いでも変わらない真理のようだ。
「……少しばかりだけど、猶予ができて良かったね。ダイヤモンド・ダスト。帰ってきたら、しっかりと『調整』してあげる。
まあ、今は気絶しているから聞こえてないか。じゃあ、『シャドウ』さん。行こう」
「■■」
これから自分がどうなるかも知らずに眠るダイヤモンド・ダストを尻目に、僕は『シャドウ』さんを伴いラボを後にした。
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