第31話 見つけた

 ここは、地球上のどこにも位置しない異空間。そこに鎮座するのは、馬鹿でかい建物。

 その正体は、『アクニンダン』の本拠地であった。



 この異空間や建物は自然にあったものではなく、一人の人物によって構築されたものだ。そして、そんな偉業を成し遂げたのは、『アクニンダン』の首領――通称『ボス』である。



 『ボス』について『魔法庁』が把握している情報は、彼女が『アクニンダン』という世界征服を目的とする悪の組織を、ここ数年間の内に設立したというものぐらいしかない。



 『アクニンダン』の主な活動は、『ボス』によって勧誘――最近の『魔法庁』や世論は、『ボス』が洗脳やら脅迫して無理やり加入させていると思っている――した幹部達が、週に一度。

 組織によって調教された魔物の群れを率いて、街を始めとした人が多く集まる場所を襲っている。



 その襲撃の度に、少なくない犠牲者が一般人や魔法少女にも出ており、世間では『アクニンダン』の早期解体が望まれている。



「ん? フランから送られてきているのは……追加の『改造人間』第五号ウィッチの戦闘データか」



 そんな危険極まりない組織のアジト、その最奥。玉座の間と呼ばれる場所にいたのは、一人の小柄な少女であった。

 彼女が身に纏う服装は、軍服にマント・・・・・・という奇妙なもの。



 その少女の正体は、先ほどまで話題に上げていた『アクニンダン』のトップ、『ボス』その人である。



 無駄にデカい玉座に腰をかけて、『ボス』はズボンから組織専用の端末を取り出して、連絡内容を確認する。



 連絡の差出人は、幹部の一人――フランだった。『ボス』が彼女に抱く印象は、頭の螺子が数本トんでしまっている狂人という非常に残念なものであった。



 自らも相当に危険人物であると自覚している『ボス』だが、フランはそれを優に上回る。

 もちろん、他の幹部同様に『ボス』の命令にも忠実で、発現した魔法は強力であり、組織の戦力増強に一役買っている。

 それだけを聞けば、優秀な部下と言えなくもないが、特定の魔法少女に向ける情熱や性癖は、『ボス』を以てしても理解、制御できないレベルだった。



 そんなフランが送ってきたのは、本日の任務に関する詳細な報告であった。

 『ボス』もフランの実況中継で、途中までは任務の様子を見ていたのだが、順調に進んでいた為、大丈夫だと思い別の用事に取りかかったのだが、何かあったのだろうか。



 報告書を読み進めると、『改造人間』第五号の戦闘データの他に、トップ層の魔法少女の一人を鹵獲したこと、『改造人間』第五号が撃破されてしまったという情報が羅列されていた。



「……そうか。あの『改造人間』が敗れるとはな。まあ、いくら強いと言っても、やはり単体では限界はあるか。肝心のフランが無事であれば、換えは効く」



 淡々と思った感想を独り言として溢す『ボス』。確かに『改造人間』第五号は、戦闘データや映像を見た所、非常に高い戦闘能力を保持していた。

 それだけではなく、あれだけの性能を見せていながら、完全には仕上がっていなかったらしい。



 魔法少女に倒されてしまい、残念な気持ちはなくはないが、所詮は裏切り者を組織の為に再利用した試作品。

 製作者がいれば、あれの上位互換はいつでも用意できるだろう。



「……しかし、『改造人間』第五号あれは一体誰に負けたのだ? 生半可な相手が勝てるような性能ではなかった気がするが……」



 『ボス』の最もな疑問を抱く。そして、次に思い浮かべた答えは、数による利を活かした物量差で押し潰されたという予想だった。

 それとも、トップ層の魔法少女達による少数精鋭の部隊に負けたのか。



 いや少なくとも、その可能性はない。せっかくの『改造人間』第五号の試験運用を、中途半端に終わらせたくなかったので、フランが出撃したタイミングで、各地に強力な魔物を数体放っていたのだ。

 ならば、考えられる可能性は一つ。



「……まさか、一人の魔法少女に倒されたのか。だとしたら、一体誰が……」



 そう言いながら、『ボス』は報告書に添付された映像を最後まで見終わった瞬間。彼女は言葉を失っていた。

 その原因は、映像に出てきた『改造人間』第五号を倒した魔法少女であった。



 薄いピンク色の着物姿に、武器は日本刀。扱う魔法は、炎を操る類のもの。



 そのどれにも、『ボス』は心惹かれるものはなく、見覚えがある人物ではなかった。

 しかし、映像の途中で魔法少女が『改造人間』第五号の自爆攻撃を無傷で乗り切った場面と、フランの魔法によって肉体も意思すらも縛られていたはずの『改造人間』第五号が、その呪縛から解放される場面に『ボス』の目は釘付けになった。



 その魔法少女が行使する魔法は、映像を見た限りでは炎を操るだけのものにしか見えない。だが、『ボス』は違った。

 映像の中の魔法少女に向ける視線には、フランとはまた異なる感情が含まれている。



「――ようやく見つけたぞ。あの魔法少女がいれば、儂の計画は今度こそ確実に叶う。……あの魔法少女についての情報は……名前はアマテラスというのか。確か、フランがご執心の魔法少女だったな。

 なら、直接呼び出して聞くとするか」



 『ボス』は端末を操作し、フランに連絡を取った。



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