第30話 決意



 私――アマテラスは、夢の中で自分のそっくりさんに励まし、新しい力をもらった。その後、目覚めた時に起こっていた一つの街を襲っていた悲劇。

 そして、その襲撃者の姿を見て、私の体は動いていた。



 その襲撃者の正体は、中学生である私よりも幼い少女のアリサちゃん。また別の名を、『アクニンダン』の幹部、ウィッチ。

 少し前に彼女は組織の裏切り者として、私の目の前で殺されてしまったはずなのだが。

 どういう訳か、アリサちゃんは生き返って、街で無辜の人々を襲い、彼女の暴挙を止めに来た魔法少女達と戦っていた。



 理由は分からないが、あの時に交わした約束――アリサちゃんを助けるという約束を守る為に、私は全速力で現場に駆けつけていた。



 久しぶりに出会ったアリサちゃんの様子は、異様としか言いようがなかった。あれほどまでに忌避していた他者を害する行動を、平然とやっていたのだ。

 言動からも正気であるとは感じられず、彼女が蘇った理由を探る目的で会話を長引かせたが、その内容は支離滅裂で理解はできなかった。



 けれど会話をしている最中に、視界に映るアリサちゃんの体に違和感を感じた。よく目を凝らして見てみると、魔力の糸のような物が、彼女の体から伸びてどこかに続いていた。



 直感的にそれが原因で、アリサちゃんは操られている。そう理解した。ならば、やるべきことは簡単だ。

 その原因を物理に排除すれば解決する。ちょうど良いことに、私の新しい武器は刀である。

 これに炎の形をした魔力を纏わせれば、実体があろうがなかろうが関係なく斬ることができる。そういう確信があった。



 そして、長い攻防の果てにアリサちゃんの意思や肉体を縛る『糸』を切断することに成功した。



「……今度こそは約束を守れたよ。アリサちゃん」



 私の腕の中で安堵したように眠る少女――アリサちゃんに向かって、ポツリと呟いた。

 これで、私がやらなければならないことの一つは終わった。

 しかし、まだまだ課題は山積みである。操られていたとはいえ、アリサちゃんが出した被害は甚大で、後処理や彼女自身の処遇を決めるのに膨大なコストと時間を要するだろう。

 また、正気を取り戻したアリサちゃんの精神的なケアにも力を入れなければ、彼女の心はもう一度壊れてしまう。



「……それは私が支えて上げれば良いか。一度助けて、はいお終いじゃ無責任だしね」



 アリサちゃんを起こさないように、片手を動かして彼女の頭を優しく撫でる。そうすると、彼女は気持ちよさそうに「んっ」と喉を鳴らし、その様子はとても可愛いかった。

 この少女の笑顔を守る為に、力を尽くす決心をした。



(アリサちゃんを助けることはできた。次は……)



 しかし、私には果たさないといけない約束がまだ二つもある。一つは、私が魔法少女を目指すきっかけをくれた魔法少女。彼女に誇れる姿を見せること。



 新しい力に覚醒したとはいえ、まだまだ未熟で口が裂けても一人前になったとは言えない。それでも、私よりも幼くても立派な魔法少女としての後ろ姿を見せてくれたや、助けてくれたことに対するお礼は言いたいとずっと思っていた。



 晴れて魔法少女としての力に目覚め、『魔法庁』の職員さんにスカウトされた時に、命の恩人である彼女に会える。そう思っていたのだが、誰に聞いてみても「そんな魔法少女はいない」と言うばかり。

 ネットで調べても、僅かな痕跡すら感じさせない。



 色々な衣装の魔法少女がいるが、小柄で軍服姿・・・・・・であるから非常に目立つはずなのだが。



 ただ、このまま魔法少女として活動していけば、何れ出会える。そんな気がしていた。



 それも重要だが、私にはもっと急がないといけない約束がある。それは私に直接救いの手を求めていたフランを、『アクニンダン』の呪縛から解放することだ。



 手を差し伸べる機会が二度もあったと言うのに、私自身の力不足のせいで助けることが叶わなかった。

 だけど、それもここまで。今の私の力さえあれば、アリサちゃんと同じようにフランを救える。いや、救ってみせる。



「……待っててね、フラン」



 私は心の中に、一人の少女の顔を思い浮かべると、決意をさらに固めた。



 ――その少女が心から救いを求めていると、まだ彼女の心が無事であると信じて。

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