第27話 覚醒イベントを見逃したようです②

「……これだけやっても、駄目なの?」



 ウィッチは荒く息を吐き出す。『改造人間』魔法少女として『調整』された彼女の力を以てしても、連戦に次ぐ連戦の影響で疲労を隠せていない。



 正確に言えば、中堅程度の力しか持たない魔法少女の集団など、数の内に入っていない。ダイヤモンド・ダストを相手に、多少の消耗は強いられたが、それも『素材』の魔物の特性によって自然回復である程度は賄えていた。

 もしも、ダイヤモンド・ダストが始めから本気でかかっていれば、その限りではなかったが。



 そんな経緯もあり、全体の七割以上の余力を残していたウィッチだったが、乱入してきた魔法少女――アマテラスと名乗っていた――と交戦をし、終始押されていた。



 どんな魔法を繰り出しても当たることなく、何なら周辺の被害がなるべく小さくなるように立ち回られて、ウィッチは苛立っていた。



 それで攻め手を変えて、戦闘不能に陥っている魔法少女魔物を標的にして、避けられないようにしたのだが、それも失敗。

 一発も当たることなく、捌かれてしまった。



 そして、わざと自分の懐に入りこませての自爆攻撃。これならば、相手を仕留められる。そう思っていたのだが、結果はご覧の通り。



 ウィッチは体内で膨大な魔力を練り上げて爆発させたせいで、瀕死一歩手前よりもマシな程度の重傷を負っていた。



 一方で、アマテラスは衣装こそ損傷は見られるが、その染み一つない綺麗な肌には、僅かな掠り傷すら確認できない。



 誰がどう見ても、どちらに軍配が上がったのか、一目瞭然だろう。この光景を見て、どこぞの悪の幹部は「やったー! 推しが生きてるー!」と喜んでいたとか、いないとか。



 それはともかく、当事者であるウィッチがこの結果に対して納得している訳ではない。

 残り少ない魔力を動員して、最後の悪あがきとして魔法を発動しようとするが、このままではさっきまでの繰り返しで難なく防がれるだろう。



 その隙を作り出す為に、ウィッチは自身の内側で燻る怒りを抑え込んで、アマテラスに対して会話を試みた。



「お姉さん、強いんだねー。流石に私もお手あげだよ。……それで、せっかくだから最後に教えてほしいことがあるんだ。

 どうやって、さっきの攻撃を防いだの? 無傷は反則じゃない?」

「別に大した仕掛けもないよ。私の魔法の中に、偶々そういう効果の魔法があっただけ」

「えー。それって、本当? お姉さんの魔法、見た感じだと炎を操る効果だよね? それだけで、私の自爆から逃げられるとは思えないけど」

「……それ以上は今は言うつもりはないよ。今は貴女を――アリサちゃん・・・・・・を助けるのが先決だから」



 アマテラスがウィッチのことを、『アリサ』と呼んだ瞬間にウィッチの態度は一変。それまで内心苛立ちながらも、何とか取り繕うとしていたウィッチは激情を露わにする。



「……ねえ、会った時にも言ったよね。私の名前はウィッチだって。アリサなんて、名前じゃない。何の力もない女の子でもない。

 私は正義の魔法少女なの。だから、訂正して。私は誰が何と言おうと、ウィッチなの!?」



 まるで、その様子は癇癪を起こした子供のような――ウィッチは外見と内面も、正しく子供のものだ。



 自分の思い通りにならない敵が、自分のアイデンティティウィッチという存在を否定する。それによって、ウィッチの苛立ちが最高潮に達してしまった。



 既にウィッチの頭の中からは、騙し討ちをしようという考えは吹き飛んでしまった。



「うるさいなっ!? もう黙ってよ!?」



 会話の傍らで発動しようとしていた魔法が、乱雑にアマテラスに向かって放たれる。

 だが、そんな雑な魔法が通用しないことは十分に今までの戦闘で証明されている。



 それからの戦闘は、先ほどまでの光景の焼き直し。

 ウィッチの魔法を炎を纏わせた刀で切り裂くと同時に、アマテラスは一気に距離を詰める。



 そして、さっきまでとの違いはウィッチには、もう抵抗の手段がない。



 そのタイミングで、ようやく己の最期を悟ったのだろうか。ウィッチは怒りの表情を引っ込めて諦めの色を浮かべると、大きく振り上げられた刀を受け入れようと両手を広げた。

 まるで狂気に支配されていた思考から解放されたかのように。



「……ようやく、これで解放される。ありがとうね、お姉さん」



 小声で呟かれたその言葉は誰にも届くことなく、刀はウィッチに迫った。




――後書き――


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