第24話 僕に良い考えがある

「じゃあ、『シャドウ』さん。お願いしますね」

「一体何を言っているの……?」



 僕の発言に、対峙する青髪の魔女少女――ダイヤモンド・ダストは怪訝そうな声を上げる。

 そんな彼女を無視して、僕は少し離れた場所にいる『シャドウ』さんの分体・・に目で合図を送る。



 『改造人間』第三号こと、『シャドウ』さん。

 その戦闘力は、一回の実戦投入で魔法少女達に討伐された『改造人間』第一号と第二号を上回る。

 それだけではなく、喋れないながらも『調整』をしても知性を残すことができるノウハウが誕生した、僕の魔法『生体改造』における転換期となる個体でもある。



 そして、そんな『シャドウ』さんが持つ最大の特徴と言うのが、その不定形な肉体だ。物体などに同化することも可能で、その性質を利用して普段は僕の影に護衛として潜んでもらっている。

 また肉体の一部を切り離して、それを分身として活動させることもできる。

 まあ、本体から一定時間離れていると消滅してしまい、その分だけ『シャドウ』さんが弱体化するというデメリットがあるので、あまり多用はしたくないのだが。



 今回はダイヤモンド・ダストの前に姿を現す前に、『シャドウ』さんの分体を少し離れた場所に向かって投げておいた。

 その後、物陰に隠れながら接近していた『シャドウ』さんの分体は、僕の合図と同時に、その不定形な体を網のように広げて、ダイヤモンド・ダストに襲いかかろうとした。



「しまっ――」



 恐らくダイヤモンド・ダストが万全な状態であれば、この奇襲は失敗していただろう。

 しかし、ウィッチによる不意打ちに、焦る気持ち。それらが合わさり、ダイヤモンド・ダストには明確な隙が生じていた。



 戦闘態勢に移行していたものの、ダイヤモンド・ダストの意識は目の前の僕に割かれていた。死角からの『シャドウ』さんの攻撃に、対応が遅れる。



「よし、上手くいったね。流石は『シャドウ』さんだ。頼りになるなぁ」



 奇襲を仕掛けた『シャドウ』さんの分体は、ダイヤモンド・ダストの動きを封じ込めるように、彼女の華奢な体に絡みつく。



「な、何よ、これ! ……もしかして、この魔力! あの時に戦った魔物……!?」

「『シャドウ』さんを、能無しで本能丸出しな魔物如きと一緒にしないでくれる? 『シャドウ』さんはね、喋れはしないけど、紳士的で優しくて――ん? どうかしたの? 『シャドウ』さん。自分のは長くなるからしなくていいって? 本人がそう言うんなら、別に構わないけど……。

 じゃあ、『シャドウ』さん。行きましょうか」

「ねえ、離しなさ――むぐっ!?」

「今は喋るのは許可しないから。しばらくは黙ってて」



 ダイヤモンド・ダストの体に纏わりついている『シャドウ』さんの体の一部が蠢き、彼女の口を塞ぐ。

 突然の呼吸のしづらさに、ダイヤモンド・ダストは混乱しながらうめき声を上げる。



 そんなダイヤモンド・ダストの正面に回り、彼女の塞がれた唇に立てた人差し指を当てながら、静かにするように示してからこう告げる。



「……あんまりうるさくするんだったら、口だけじゃなくて鼻も塞ぐよ。もしかしたら加減を誤って、窒息死させちゃうかもしれないし、僕にそんな危険な真似はさせないでくれる?

 それに君だって、まだこんな所で死ねないでしょう?

 確かさっき、ウィッチに向かって言ってたよね。絶対に助けてみせるって。なら、大人しくしてた方が賢明だと思うけど」

「――!? ――!」



 僕の挑発か脅しのどっちか分からない言葉に、ダイヤモンド・ダストは意味の為さないうめき声を上げて抗議してくる。



「うん。納得してくれて良かったよ。なら、早く行こうか。君が助けると約束したウィッチが何をしているのか、君には見る義務がある。

 君の実力なら最初から本気でかかっていれば、ウィッチは倒せていただろうに。だけど、君はそれをしなかった。

 その結果がどんな悲劇を招くことになるのか、じっくりと見るといいよ。どうせ今の君にできるのは、そのくらいだからね」

「――」



 ダイヤモンド・ダストの内容が不明な抗議を無視して、好き勝手に言葉を告げると、それに何か思うことがあったのか、彼女の抵抗は目に見えて弱くなる。



 もしかして、ダイヤモンド・ダストは考えたのだろうか。

 自分勝手な理由でウィッチを助けることを優先してしまい、その隙を突かれて敵に囚われる醜態を晒し。助けると誓った相手の心を傷つけて、暴走するような事態になる前に解決できた可能性を。



 そして、今の状況に陥ることになった自分の無力さでも嘆いているのだろうか。



 一部拘束の関係上、ダイヤモンド・ダストの顔は隠れてしまっているが、彼女の表情は悔しさに満ちていた。



(はあぁ……唆るわー、このシチュエーション。歴戦の魔法少女が敵に捕まって、屈辱感に顔を歪める一部始終を間近で堪能できるとは……。

 生まれ変わったことに、マジで感謝します)



 自分でも自覚できるぐらいに、頬の筋肉がだらしなく緩んでしまう。

 すぐ傍から可哀想なものを見るような視線を向けられるが、そんなものは気にならない。

 そこで、一つのことを思いつく。



(……前々から暇があったら、アマテラスに試したいシチュエーションを色々と考えてきたけど、本当の意味で新鮮な反応を見れるのは一回だけ。

 本命のシチュエーションはアマテラスに取っておいて、他のは気に入って捕まえた魔法少女達で試していこう! 我ながら良い考え! 元々、『改造人間』で組織の戦力強化の他にも、欲望を発散する予定だったし、問題ないよね!

 だから、これは浮気じゃないし、アマテラスに姉妹を作って上げる僕の粋な計らい、プレゼントだ。うん)



 突如として天から降ってきた名案に、一人で満足そうに頷くと『シャドウ』さんに命令という名のお願いをした。



「少しだけ時間を無駄にしちゃったけど、ウィッチが戦闘をしているのを、バレないように観察できる場所まで移動しよっか。

 頼みますね、『シャドウ』さん」



 僕の言葉に無言で親指を立てるような仕草をした『シャドウ』さんは、ダイヤモンド・ダストを捕らえている分体を取り込み、改めて僕を乗せた状態で移動を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る