第23話 誤算
「はあ……はあ……とりあえず血は止まったわね」
自分の氷結魔法を使って、止血だけは行ったダイヤモンド・ダスト。それでも可能であれば、近辺の『魔法庁』の支部か回復魔法が使える魔法少女からの治療は受けるべきだと第三者は判断するだろう。
それほどの負傷を、ダイヤモンド・ダストは負っているのだ。
しかし、そんなことは彼女が止まる理由にはならない。
困っている人間を救いたい。それが彼女が魔法少女を目指した理由であった。
同じような理由で、もしくは魔物や『アクニンダン』に対する復讐心や、ただ単にちやほやされたいという不純な理由を含めて、魔法少女になる動機は様々である。
それを、ダイヤモンド・ダストは別に悪いこととは思っていない。たとえ、どんな動機であったとしても、それで救われる人間はいるからだ。
だからと言って、自らが目立つ為や個人的な復讐を優先して、他者を犠牲にするのは論外である。
あくまでも、魔法少女は力なき人々を助ける存在なのだから。
その理念を体現する為に、ダイヤモンド・ダストは魔法少女になった時に誓ったのだ。
全ては無理でも、可能な限りの人々は――少なくとも、目の前で泣きそうになっている小さな女の子を、笑顔にしてみせると。
「……行かないと。約束したから。あの子の……ウィッチの本当の名前を教えてもらうって。それだけじゃない。絶対に助けてあげるって、言ったから」
頼りない足取りでも、意識が痛みで朦朧としていても、ダイヤモンド・ダストは気絶しないようにする為に、独り言を呟く。
ウィッチが飛び去った方向では、激しい戦闘音が聞こえる。恐らくだが、操られているウィッチと増援で駆けつけた魔法少女達が戦闘を繰り広げられているのだろう。
刺された直後のウィッチの様子を思い出すダイヤモンド・ダスト。
全部を見ることはできなかったが、ダイヤモンド・ダストを刺したことに対して、明らかにショックを受けて正気を失っていた。
あの状態では、ウィッチは肉体の支配に抗おうとはせずに、むしろ現実逃避の為に自らの意思で破壊衝動に身を任せているかもしれない。
そんなウィッチを、ダイヤモンド・ダストや一部の魔法少女が助けるべき対象と訴えた所で、『魔法庁』や世間一般的な視点に基づき、物理的に排除される可能性がある。
ウィッチの強さは凄まじいものであるが、トップ層の魔法少女が複数で連携を取れば、周囲に被害が出たとしても、人的被害はなしで討伐は可能なはず。
それは実際に戦ったダイヤモンド・ダスト自身の感想であった。
このままでは、助けると宣言をしたウィッチがただの脅威として処理されてしまう。
そんな悲劇を避ける為に、ダイヤモンド・ダストは激痛を堪えて、歩みを進め続けた。
そのダイヤモンド・ダストの前に、一人の少女と一体の異形が姿を現す。
彼らの正体を認識した彼女は、すぐさま警戒態勢に入り、いつでも戦闘に移行できるようにした。
「……『アクニンダン』の幹部、フラン……!」
「あははっ! 僕も有名人になったものだねぇ。それより、君に素晴らしい提案があるんだ。無力な自分に嘆く君に、僕が力を与えてあげる」
「……そんな提案に、私が乗る訳がないじゃない……! 貴女の相手は後でしてあげるから、今はそこを退きなさい。私は、あの子の所に行かないといけないのよ!」
今回の捕縛対象であるフランの出現に、ダイヤモンド・ダストは魔力を放出して威嚇することで、戦闘を回避するように努めた。
しかし、そのダイヤモンド・ダストの態度にフランは歪な笑みを浮かべながら、こう告げた。
「――元から君の返答はどっちでも良いんだ。たとえ拒否しても、無理やりにでも連れて行くから。
むしろ、反抗的な方が躾けがいがあるから、僕としては全然問題ないよ」
その笑みを見て、ダイヤモンド・ダストは一つの可能性に思い至ってしまう。
――もしかして、フランを含めて『アクニンダン』の幹部の少女達の精神は、とっくに壊れていて取り返しがつかないのではないか、ということに。
――もっとも、真実はそれ以上に残酷であるのだが。
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