第14話 傍観者 自罰的映画鑑賞
「……ここ、どこなの?」
――私はどこかの映画館にいた。中央辺りの席に座っており、周りを見渡しても他の客の姿は見えない。少々マナー違反かもしれないが、まだ上映は始まっていないので大丈夫だと思い、スカートのポケットからスマホを取り出そうとした。
けれど、いつも入れているはずのスマホは見つからなかった。
お陰で今自分がどこにいるのか、何の為にここにいるのか。その一切を探る術がない。
時刻も不明だが、不思議と私はここから立ち去ろうと思えなかった。映画館にいるのだ。これから上映される映画を目的に来たのだろう。多分。
「……ホラーは止めてほしいかしら。流石に一人で見れる自信はないし……」
手持ち無沙汰で、ただぼうっとスクリーンを見ていると、館内が徐々に暗くなっていく。間もなく、映画が始まりそうだ。
そうして始まったのは、どこかで見覚えのある少女が主人公として描かれた物語であった。少女のバックボーンは至って普通。
優しいながらも、怒った時には般若のように恐ろしい母親。不器用ながらもしっかりと愛情を注いでくれて、頼れる背中を見せてくれる父親。
少女を姉として慕い、一生懸命後ろを着いてくる妹。
一般的な、されど理想な家族像がそこにはあった。
少女はそんな家族に囲まれて、幸せに過ごすしていく。そういう展開だと思っていた。
「こんな展開……悪趣味過ぎる……」
導入部分が終わってから、少し経った頃。少女の妹は、その幼い命を散らしてしまった。
事故だろうか、病気だろうか。
少女の妹が死んだ原因は、魔物に喰われてしまったようだ。何故か画面が歪んで、そのシーンが良く見えなかったが、休日に家族で最寄りのデパートに出かけた際のシーン。
運悪く魔物が現れて、他の避難客のせいで妹一人が逸れてしまい、次に再会した時には彼女は冷たい骸に成り果てていた。
通報を受けた魔法少女が間に合わず、少なくない犠牲者が出た。少女の妹も、その内の一人だった。
ただ、それだけの話である。
いつの間にか、私は無言になっていた。
今更の話だが、この映画の世界観の設定では魔法少女や魔物が普通に存在するようだ。だから、少女の妹が魔物に襲われて命を落とすのも、事故に巻き込まれるのとそんなに変わりがないのだろう。
けれど少女も私も、妹の死を当たり前だとか、仕方がないとかで切り捨てたくはなかった。
しかし現実は無情なもので、少女には力がなく妹を見送ることしかできず、幸せであったはずの家族の間には大きな亀裂が入ってしまった。
そこからの展開は見るに耐え難く、家族の団らんからは笑顔が消え、共に過ごす時間自体が減っていく。
少女もそんな現実から目を背けるように、生きるべき理由を探した。
魔法があるのだ。そんな都合の良い奇跡があっても良いだろう。
けれどそんなに美味い話はなく、この世界には、代償に願いを叶えてくれる『白い
もしもいたとしたら、自分が理性のない化け物に堕ちると知っていたとしても、一切の躊躇なく契約を結んでいただろう。
しかし、この映画の世界観における魔法少女の発生には、異世界からやって来た妖精との契約はないらしい。
完全に少女本人の資質に由来するようだ。
しかも、それだけではなく、その才能が開花するのも運次第。
最高にトチ狂っている。
お陰で奇跡に頼ることも、魔物に復讐するという逃げ道も少女は選択すらできなかった。
それが分かってからの少女は全てを諦めた。それでも自ら命を断つことはなかった。その理由が、死ぬ勇気がなかったからか、妹の分まで生きなければならないと思ったのか。
所詮
精々、背中を押して上げることしかできず、少女に寄り添うことは不可能だ。
私の悶々とした感情を無視して、映画は進んでいく。
表面上は立ち直った少女は人懐っこい笑顔の仮面を被り、可能な限り他人を助けてきた。普通の少女として振る舞おうとしていた。
その歪な在り方にやるせない気分になり、映画は
かつての光景の焼き直しのように。魔物に襲われかけた少女は、死を覚悟して。
けれど、その時に浮かんでいた表情は、どこか安堵しているようにも見えた。
表情は時に、口よりも物を語る。まるで妹にようやく会えると――。
それが気に食わなくて、手を伸ばしかけた瞬間。
――少女は、一人の魔法少女に助けられた。
その魔法少女の背は少女よりも低く、服姿がきらびやかなドレスではなく、遊び心が一切感じられない
少女が救われたのは命だけではなく、心も救っていた。何故かその魔法少女に助けられた日を境に、少女は魔法少女に覚醒したのだ。
――私の力が少女に馴染んだことを確認して、私は安堵の息を吐いた。
「良かった……」
少女は命の恩人のようになるべく、魔法少女として戦うことを決意した。
土壇場で「どうにかなれ!」と思ったら、どうにかなった。
未だに自分の正体や力の由来は分からないが、私はこの少女の助けになれて嬉しいと思う反面、何でもっと早く力を彼女に与えることができなかったのか。
何度も、何度も。自分を責めた。
自分自身の不甲斐なさを責める声がどれだけ大きく響いても、私以外誰もいない空間に虚しく響くだけだった。
――少女の人生を題材とした映画は進んでいく。
『――か、かわいい。あの子なら僕の願いにも――』
『――はい?』
――めでたく魔法少女になって
――相変わらず、私はただの無力な
――後書き――
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