起きた話


…はっ、…として、


…?







朝?


見慣れた、自室の天井が見える。



うーん、…なんだか、凄い、もの凄い…



夢を見た気がする。

んー、どんな夢だったか…


頭を利き手で持ち上げながら、ベッドから起き上がる。あー、今日は、なんだか…やけに頭がスッキリしている。

スマホを片手に、ベッドから抜け出し、ダイニングルームへいこうと、短い廊下を歩いた途中


「……アキラ」


と、呟いた。

無意識に、ぼそっと。


…ん?アキラ…?


知り合いに、そんな名前の人はいない。

…芸人に、そんな名前の人がいたっけか?

でも私はあまり、そういうのに興味はないし、今の今まで思い出しも…しなかった。


じゃあ、誰?

誰…だ?



なにか、…恐ろしい出来事…が……あったような気がする。

夢の中で、誰かが、…


なにかを見た、なにかを眺めた。

あの惨状を…

惨状…?…ぁ、あ、そうだ。



…そうだ、そうだった。


アキラ、とは


夢の中の、「恋人」。



あの無駄に生々しい惨状たちがフラッシュバックする。アキラは死んだのだ、階段から落ちて。無惨にも。

…彼を探す途中、友人に会った。そして、その友人が溶けてなくなって死んだ。

二人、人が死んだ、そんな、胸くそ悪くて気分が悪い、夢だった。


殺したわけではない、否、殺さないで、いつの間にか人が死ぬ方がたち悪い、な。

気持ち悪いだとか、怖かったとか、そんなことは思わなかった…いや、それを含めて


本当の本当に、ただの「夢」で


「夢でよかったぁ…」


と、私は力なく呟いた。




朝、学校に行けば、あの溶けて消えた友人が変わらず姿で今日もいた。今日も優しくてかっこいい、友人のままだ。


夢の中に出てきた友人は存在する。しかし、多分、だけれども、私の言うアキラは、いない。存在しない。

でも、どうしても、あの惨状が、あの、恋人の表情が、忘れられない。…これが、恋…かしら。

ああ、…初恋が、夢の中の知らない誰か、なんて。なんだか、ロマンチックで可笑しい話だ。





まてよ?


あの夢の、最初アキラの名前を「アキラか、アキト…か」なんて、思たっけ?

アキトって名前の、知り合いならいるのだけど。

ああ、似てたか?

…あれ、朧気で、…どうにも、思い出せない。


でも


アキトは、今日も、…休みだったよな。

ここ数日、学校に来てはいないみたいだ。

何かあった?…もしかして、あの、惨状は


あの、出来事だけは




……正夢、だったのか?



なんて、縁起の悪いことを思った。

なんて、下らないことを思ったけれど、


今も、その「アキト」は、来ないままだ。

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恋人 中田絵夢 @Lunaticm

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