第35話

side 湯島秀人





イチロー父子を見送り、俺は涼子と手を繋ぎ繁華街を歩く。

時々あからさまな敵意を含んだ視線を浴びるが気にしねえ。コイツは俺のモンだ。文句あるかと睨み返した。


「もう帰るのか?」


「まあ散歩だし。」


「なら送る。」


ぶらぶらと涼子と手を繋ぎただ歩く。それだけでなんだか気持ちが浮かれるんだ。


「夜の散歩ってさ、」


ポツリと涼子が呟く。


「うん?」


「願掛けだったんだ。」


「願掛け?」


山崎の言ったアレか。

俺は素知らぬ振りで耳を傾ける。


「もし繁華街まで歩いて行って帰る間に『湯島秀人の女』に声を掛けられなかったら…アンタのプロポーズ受けようかなってさ。」


思わず足を止め涼子の顔を覗き込む。

相変わらず綺麗で無表情。


「10回試して全滅。どんだけ女癖悪いのさ。」


言った途端に涼子の目から綺麗な涙が一粒落ちた。


「…っ、悪い。」


「本当だよ。サイテー!」


場所は既に繁華街を外れた住宅地。

俯く涼子を思い切り抱き締めた。


「今日のは堪えた。」


涼子の声に思わず顔を覗き込む。


「おいっ!隠し子なんて絶対無いからなっ!!」


必死に言うと


「そんな事知ってるわよ。」


サラリと返された。

ソコじゃねえのかよ!


「見合い相手の話。」


「あ?」


「振り回した癖にふらふらしてて申し訳ないなぁーってさ。」


「それは結局俺が悪いからだろ。」


俺の女癖が悪かったから涼子は結婚に踏み切れない。

まだ涼子は高校生。普通なら同級生辺りと初々しい付き合いしてる頃だもんな。


「悪い。」


「いいよ。別に謝らなくても。」


突き放されたみたいな言葉に少し傷付いた。


「…涼子?」


まさかこの期に及んで嫌われたのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る