第34話

side 成瀬涼子




イチロー君の父はかつての見合い相手の関係者だった。

あの日の見合いは前日のドタキャンになって、親父とお袋が相手先まで謝りに行っていて。湯島との経緯も話したと聞いていた。


「あれから賓田はずっと落ち込んでて、あんた美人だしすっかり婿に入る気になってたからな。」


賓田組の関係者と言っても、上野琢磨はやくざじゃなくて美容師だった。

いわゆる見合い相手の幼なじみってやつらしい。

上野琢磨の口から語られる会わなかった見合い相手の話。

もともと組の為にした結婚は奥さんの不倫と奥さんが不倫相手の子を妊娠したことで破局。

心機一転、見合いに望む筈が前日のドタキャン。

それからも良いこと無し。


「で、この間、死んじまって。」


「「死んだ!?」」


まさか自殺?


「ああ。交通事故。相手が飲酒してて。最後までついてなくて

通夜に行ったらドタキャンしたくせに相手の女はまだふらふらしてるって話を聞いて、まあ…」


もともと子連れでディズニーに遊びに行く予定があってもし会えたら…と軽い気持ちで来た成瀬の繁華街。


「そしたら前に見せられた見合い写真の彼女が一人で歩いてて…、

これは神様の引き合わせた必然。幼なじみの遺志だと思ったんだよ。」


確かに偶然にしてはすごいタイミングだ。


「悪かった。あんたにしたら八つ当たりだしいい迷惑だよね。

でも、あいつはマジでヤクザにしては優しい良いヤツだったんだ。」


頭を下げられたら怒れないよ。

私がふらふらしてるのだって本当の話だ。


「パパ?」


イチロー君が心配顔で頭を下げるパパを見ている。


「早く帰ってあげなよ。ママが心配するからさ。」


私が笑うと


「本当、ごめん。」


上野琢磨はイチロー君を抱き上げて帰って行った。

見合い相手の遺志かぁ。

あんな小さな子が間違えずに『ゆしまひでと』の名前を言えたんだもんね。


そうかも知れないなぁ。

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