第33話
side 湯島秀人
俺は樋口に目配せした。
ガキにはまったく見覚えがないがガキがいるなら親もいる筈だ。
こんな繁華街であんなチビが迷子にならず涼子にまで辿り着くとかあり得ないだろ。
「若頭!」
樋口が路地の入り口から半身を乗り出してるチンピラを見つけた。
あいつか。
既に樋口は確保に向かい俺は涼子に視線を戻す。ガキを抱き上げた涼子はなにやら楽しげに話し込んでやがる。
俺はため息をつくと涼子に向かい歩き出した。
「涼子。」
「秀人?なにしてんの。」
そりゃあ俺の台詞だろ。
俺はチラリと山崎に目をやり
「散歩。」
嘘バレバレの単語を吐き出した。
「あら偶然。私も散歩。」
嘘つけ!
俺は涼子の腕の中のガキに目をやり、
「名前は?」
面倒臭そうに聞いてみた。
「うえのいちろう。」
「いちろう?一郎か。」
「野球のイチローからとったんだよ!」
ガキはどや顔をみせた。成る程、親が野球ファンか。それにしても…。
「てっきり女の子だと思ったわ。」
涼子の声に「ああ。」と頷いた。色白だし目鼻立ちがパッチリしてるしな。
「パパの名前は?」
「
知ってるか?と涼子に目線で聞かれ首を振る。聞いたこともない。
「イチロー君のおうちはどこ?」
涼子は優しく聞いている。
「ビワコのちかく!」
「びわこ?」
びわこ、ビワコ、琵琶湖?
「琵琶湖っ?」
「近畿の水瓶か。」
日本で一番大きな湖。Lake Biwa
関東じゃねぇだろ!!
「湯島って近畿にも敵がいたんだ。」
ぼそりと呟く涼子。…身に覚えはねえぞ。
「若頭。」
ずるずるとチンピラを引き摺って来た樋口。
「パパっ。」
一郎は涼子の腕から降りてチンピラに飛び付いた。
「こいつ、近畿の賓田組のチンピラで。」
「チンピラじゃないよ。ビヨウシだもん!」
イチローが言い、
「…
賓田組に山崎が反応した。知ってるのかよ。
「バツイチの組長イチオシの見合い相手。」
「…あ?」
「深雪姐さんが妊娠を報告した日、本来ならお嬢の見合いの相手だった奴の実家が…」
賓田組か!
「なんでまた今ごろ。」
あれは半年前の話だ。
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