第32話
side 成瀬涼子
『ゆしまひでと。』
たどたどしく口にした可愛い女の子を抱き上げた。パステルカラーの上下のパンツスタイル。なかなかのお洒落さんだ。
まったく。夜の繁華街にこんな小さな女の子を連れ込むなんてどんな親だよ。説教してやる。
「お嬢、その子は!」
バタバタと駆け寄る山崎を睨み付けた。
「来るな!泣く。」
山崎の凶悪面を見て泣くのはもちろん腕の中の女の子。滅茶苦茶な省略言葉だが自覚してるらしく山崎は立ちどまる。言いたいこともわかってるし。
【湯島秀人に子供はいない。】
山崎も、それに湯島の構成員もそこだけはキチンと調査済み。
そうでなきゃ私との事は進めない。
湯島の方はともかく、山崎は私の性格を把握している。
子供がいるなら養育責任を果たすべき。それすらやらないクソ男なんていくら惹かれてたってゴメンだ。
「わかった。ママはどこかな?一緒なんでしょ。」
私が頷くと女の子は嬉しそうに笑った。
「ママはお留守番。パパと一緒なの。」
無邪気に答えた女の子に笑ってしまった。ほおぉ~一緒なんだ!ゆしまひでとと。
私の口角がくっと持ち上がる。
「じゃあパパはどこかな。」
私が聞くと
「あっち!」
女の子は迷わず繁華街と繋がる路地の方を指差した。
「ご挨拶しなきゃね。」
「ごあいさつ?」
「うん。ごあいさつ。」
首をかしげる女の子に話かけた。
私の願掛けを見事に粉砕してくれちゃって!湯島秀人の女。女は女でもまさか隠し子が出てくるなんて笑えるわ!
『挨拶ってのはね最低限の礼儀ってやつだよ』と。
私は女の子に笑いかけた。
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