第18話

side 成瀬涼子




豊田を押し倒した私は、取り敢えず体重をかけて首を絞めてみた。


「ギュウッ!!」


あら、呆気ない。

白目向いちゃったよ?

あっさり離して座り直す。

つまんない。折角久々に乱闘出来るかなぁって期待したのにさ。

取り敢えず技量をはかろうとしたら気を失っちゃった。


「保険かけた意味無いじゃん。」


これならハンデ付けなきゃ相手にもならない。私はワインを飲み直して豊田を眺めた。

ごほ、ごほ、ごほ、

あ!気がついたよ。

ヨダレ垂らしてだらしないって私のせいか。


「な、に、すんだっ!殺す気かっ!!」


「ん?乱闘しよっかなぁって。

でもあなた弱くて相手にもなんない。つまんない。」


私の声に豊田は真っ青になった。

どうやら危ない女だと思われたらしい。自分だって怪しい男の癖にさ。

咳き込みながらも豊田はクスクスと笑い始めた。

なによ。不気味な奴!!


「げほっ、まぁいい。

薬が効いてきたら今の分も併せて思い切り鳴かせてやる!」


薬?


「それってもしかしてワインに入ってたの。」


私はマジマジとワイングラスを見た。

ただし、私のじゃない。一口だけ飲まれた豊田のグラスだ。


「やっぱりねえ。取り替えて正解。保険はかけるもんよね。」


私のセリフに豊田が真っ青になった。


「あの薬を俺に飲ませたのか!」


言いながら口に手を突っ込み吐き出そうとした。相当ヤバい薬らしい。

そんなもん私に飲まそうとしたのか。

ムカついた私はじたばたしてる男がしていたネクタイで手首と足首を一纏めにくくりつけ、

玉転がしの様に隣の部屋に蹴り込んだ。

ハイヒールが背中に突き刺さった気もしたが、まあ、不可抗力だ。

隣のミニキッチンには手を拭く為のタオルがかけてあったから、五月蝿い男の口に押し込んだ。


「あ、これ、借りるからね。」


私は男のポケットからスマホを抜き取るとソファーに戻りワイン片手に景色を堪能した。


ドタドタドタドタ…


『涼子っ!無事か!』


誰よ馴れ馴れしい!

バターンと開け放たれたドアの向こうに居たのは


『あら?呪いの若頭じゃない。』


湯島秀人だった。

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