第16話
side 成瀬涼子
太平洋を一望できる居間が売りの別荘に連れ込まれてワインを出された。
どうやらこの別荘はたまに悪いことに使うらしく、掃除が行き届いている。
もう中年腹なのに元気な事だ。
チラリと見る彼の左手薬指に指輪はない。
右手には大きなエメラルドの付いた如何にもでかくてお高い感じの指輪が嵌められてる。
一見独身。でも指輪しない男も多いし判断材料としてはアテにならない。
興味はないけど指輪は気になる。
「そう言えばなんて呼べばいいの。」
名前も知らないな。
「ああ、自己紹介がまだだったな。
豊田保。医者だよ。」
「お医者さま!」
成る程ね。金持ちのボンボンか。道理で苦労知らずな顔だな。
私は彼に微笑み、
ワインをありがとうと礼を言い、何かオツマミが欲しいとリクエストした。
彼は急に愛想が良くなった私に上機嫌でソファーから立ち上がる。
自分の財力と職業に私が引っ掛かったと思い込みほくそ笑みながら。
気色悪っ!
媚びるような笑顔を作った自分に自分でドン引きした。
まあ、仕方ない。自己防衛だ。
「「乾杯。」」
オツマミと一緒に帰って来た男は何故か私の横に腰掛けた。
柑橘系の香水がキツい!
でも付けなきゃ加齢臭とか汗の匂いもキツそうでそれもそれで嫌だった。
「君の名は?」
「キミ。」
本名を名乗る気はない。
君の名は?と聞かれてきみと答えた。
私の名前と言うより呼び方に困って聞かれたんだろうしね。
「キミか。良い名前だ。」
気に入ったらしいから良いだろ。
彼はワイングラスを置くと私の腰を引き寄せた。
「始めるの?」
私も笑ってグラスを置く。
久しぶりだな。
広いし、楽しめそうかな。
男は顔をしかめると、ムードがないなと苦言を溢す。
「あら、ムードがなんていらないじゃない。」
私は笑顔で彼を押し倒した。
「始めましょうか。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます