第11話
side 湯島秀人
パーティーが始まる前に会場に潜り込む気でドアの前に立った時、
勢いよく中からドアが開かれ驚いた。
「どうかしましたか。」
俺の隣に立つホテルマンが彼女に声をかけた。俺は目立たないように彼の背中に然り気無く隠れる。
真っ青な顔で会場から飛び出した彼女は、モデルのミキ。ミラノやパリを拠点に活躍していたスーパーモデル。
志藤兼の才能に惚れ込み自ら専属モデルになっていると聞いた。
長身のスレンダー美女は声をかけたホテルマンに、
「姪が。成瀬涼子が居なくなったの。探してちょうだいっ!」
焦った声で訴えた。
成瀬涼子。昨日の女の顔が頭を掠めた。
「お連れの方とご一緒なのでは。」
俺は落ち着く様にゆっくり低い声で、彼女に話しかけた。
確か見合い相手と来る様な話を母親と交わしてた気がする。
「いいえ、あの腑抜けとは別行動…って、貴方!」
声を上げたモデルのミキに舌打ちしそうになった。
湯島の若頭だとバレたのか?
「貴方!いいわ!
ステージに上がって頂戴っ!」
ミキは俺の腕をつかみブンブン揺り動かした。
姪っ子探してるんじゃねえのかよ。
「っ!落ち着いて下さい。
私は職務中ですし貴女も姪ごさんを探してるのではないですか。」
俺の声に彼女は我にかえり再び俺達に訴えた。
「そうだわ涼子を探してっ!深紅のドレスを着てるわ。美人だし目立つ筈よ。」
「わかりました。全館に放送を流しホテルの警備員にも連絡をします。」
ホテルマンはマニュアルにのって対応してるが、
あの女が自分の意思で消えるとか考えがえられねえ。醒めた考え方をするやつだったが、人に迷惑かけるタイプには見えなかった。
それにしても弱ったな。
警備員が動き出しちゃ薬の取り引きを探る処じゃ無くなる。下手すりゃ俺が不審人物で捕まっちまう。
今日の潜入は見送りだな。
俺はホテルマン達と成瀬涼子を探すフリをして、借りていた部屋に戻り私服に着替えた。
そのまま携帯を手に取り駐車場の車で待機してる樋口に連絡を取る。
『若頭?早いですね。』
「トラブルだ。今日は諦める。」
『ああ。成る程。だから帰ったんだ。』
「あ?」
『豊田保です。車で赤い服の女と出て行きました。』
「何時だ。」
『え?15分位前ですかね。』
まさか成瀬涼子が一緒なのか。
「樋口、連れの女の顔見たか。」
『いや遠目でしたから。
お姫様抱っこされてましたから具合が悪いのかなとは思いましたが。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます