第9話

side 湯島秀人




翌日。俺はSホテルに来ていた。


「若頭、マジでやるんで?」


着替える俺に声をかけるのは中井颯太なかいはやた。樋口は最早諦めの表情だ。


「客として入ろうとするからチケットが要るんだろうが。」


「それはまあ。けど大丈夫なんですか?ホテルマンに化けるとか専門知識が…。」


「何とかなんだろ。」


「若頭ぁ…」


Sホテルのオーナーとは、旧知の仲。無理を言えばチケットも何とか出来そうだが、彼には妙齢の(行き遅れ)娘がいて頼り難いのだ。

普段からそれとなくプッシュされてるしな。いくら行き遅れでもヤクザに嫁がそうとするか?普通。どんな問題アリ娘だか…怖い怖い。


仕方なく俺はホテルマンに化けて会場に潜り込む事にした。

もちろん、セキュリティがあるからそうそう潜り込む事は出来ないが、

会場担当のホテルマン2人を買収して潜り込みの補助をさせる事にしたのだ。

どうせ1時間ほどの潜入。

怪しい動きがなきゃ直ぐに退出する。


「中井、薬に手ぇ出してる奴の目星は?」


「こいつがいちばんクサイ男です。」


中井が渡した写真を眺めて顔を頭に焼き付ける。


「都内で病院を経営してる男です。」


「医者じゃねえのか?」


「医師免状は無いですね。

父から引き継いだ病院の経営面をみてる感じですかね。」


「病院経営者が薬に手ぇ出してんのか。世も末だな。」


豊田保とよだたもつ31才か。独身だな。」


あまり見てくれは良くないが金持ちだ。贅沢好きの女にはモテそうだな。写真を見た感想はそんなもんだった。


この男に俺は煮え湯を飲まされる事になる。



まさかこの時はそんなこと考えもしなかった。

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