第8話
side 成瀬涼子
『ファッションショーのチケットが欲しい。』
湯島秀人の口から聞いた時はてっきり女の子の気を引く為だと思った。
何しろ友達の瑠璃子は、兄貴の事を無類の女好きと言って憚らない。
『あれさえなきゃ自慢の兄貴なのに。』
しみじみと口にした瑠璃子はホントに残念そうな顔だった。
湯島秀人は会場で何か探しモノをする気らしい。
『舞台に上がるのは君一人だろ。』
なんて言って爽やかに笑った。うわっ、極上の笑みだ!
んな訳ないじゃん。
こんな一流モデル並みの良い男を未紀叔母さんが見逃すもんか!
イケメン大好きなママも見とれてるし、さすがに有名な女好き若頭。
観賞用にしとかないと大火傷しそうだ。
だから私は、
『私と一緒だと叔母に目を付けられます。他の方のチケットを譲ってもらったほうがよろしいかと。』
にこりと笑って然り気無くチケットを譲るのを拒否した。
彼は驚いたように私の顔を見詰めると視線を反らして
『そうですね。別の方法を考えます。』
失礼しましたとあっさりと私達に背を向けてホテルから出て行った。
「はぁぁ。迫力のイケメンだったわね。」
興奮冷め遣らぬお袋は私の背をバンバン叩いた。着物越しでも痛い。どんだけ力が有り余ってんのよ。
「さ、お見合いの席に行くわよ。あれだけの極上のイケメンを見たらちょっとやそっとじゃイケメンに見えないだろうけど。」
そうね。『極上のイケメンだったわね』と私も心の中で同意した。
梅の間
そう書かれた和室でお見合いは行われた。お相手は
姓が竜崎でないのは愛人の子だから。
一見草食系だけど陰のあるイケメン。お袋の一押しだった。
「はじめまして涼子ちゃん。」
にこりと笑う顔は優しそうだけど
「「‥‥‥」」
お袋と思わず目を見合わせた。
どうしよう!
イケメンに見えない!!
チケットを譲らなかったから、きっと湯島秀人の呪いがかかったんだ。
私はお見合いの間中ずっとそんな馬鹿なことを考えてた。
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