第7話

side 湯島秀人




「お見合いですか?」


成瀬深雪なるせみゆきに聞かれて思わず苦笑した。

俺が嫁を持つ様にプレッシャーをかけられてるのを知ってるらしい。


「いや、実は成瀬さんにお願いがあって探していたんですよ。」


「まあ。」


成瀬深雪は俺と涼子の顔を代わる代わる見て


「申し訳ありません。涼子は成瀬の跡取り娘ですの。湯島に嫁には出せませんのよ。」


眉を下げて宣言された。


「お、母さん!湯島の若頭は女遊びがハンパないんだから、女子中学生なんて相手にしないわよ。」


成瀬涼子の口から思い切り俺を貶す言葉が出た。俺の噂を聞いたのか。

自業自得とは言え傷付くな。


「…噂は噂です。実は、明日のSホテルで行われる志藤兼のファッションショーのチケットが欲しいんですよ。」


時間もないことだしざっくばらんに話した。


「ファッションショーのチケット?」


成瀬深雪は俺に怪訝な顔を向け、涼子を見た。


「チケットなら確かに二枚有るわよ。

ただ、あれは私と今日の見合い相手とを見たいって言う未紀みき叔母さんの企みだし。ノリによっちゃ舞台に引っ張り上げる気だよ。

だって志藤兼のデザインしたワンピース付きの招待状だもん。」


母に説明する成瀬涼子の話に目を見張る。なんてややこしい話になって行くんだ。


「そう言えばあんた、以前も舞台に上げられた事があったわね。」


眉を潜める俺の傍らで母娘は会話を始めた。


「未紀叔母さんは志藤兼を売り込むのに必死だからね。恋の力ね。」


成瀬涼子は面白く無さそうに醒めた笑い顔を見せた。ホントにこいつ女子中学生かよ。


「そうね。あんたその辺りのモデルより美人だし見栄えするしね。」


「その代わりディナーはご馳走になってるんだ。」


にこりと笑う笑顔は無邪気でさっきの醒めた笑いとは大違いだ。


「なら俺が。ミキさんの代わりにとびきりのディナーをプレゼントしますよ。」


「「あら。ホントに?」」


何故か母娘で食い付かれた。


「勿論、チケットを譲っていただければですが。」


「譲れるチケットは1枚だけだし、私とペアで会場に入らなきゃ駄目だよ?

叔母さんは途中で一緒に舞台に引っ張り上げる気だし。」


「俺は会場の中で調べものをしたいだけだ。中に入れりゃ何でもいいし別行動になる。けど舞台に上がるのは君だけだろ。」


「んな訳無いでしょ。

貴方みたいなイケメンを未紀叔母さんが見逃すモンですか。間違いなく舞台に上げられるわよ。」


呆れたように涼子に言われたが、イケメンって言われたのは誉められたんだよな。俺は素直に喜んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る