第5話

side 湯島秀人



桜ホテルでお見合いしてると言う瑠璃子の友達を探してロビーに走り込む。

瑠璃子の話では見合いは午後2時から。まだ30分前だ。なんとか見合い前に成瀬の親子を捕まえないと…。

それにしても中3で見合かよ。婿養子を取るためとは言えこれが瑠璃子の事だったらと考えると複雑だ。

娘の顔は知らねえが成瀬の若頭夫婦の顔なら解る。

幾ら顔見知りでも見合いの席を邪魔するとかは出来ないしな。始まっちまったら邪魔は出来ねえ。

数時間待つとか、冗談じゃねえし。

もしかしてまだロビーに居ないかと見回した視線がひとりの女を捉えた。

ピンクの振り袖。黒と金の帯。

甘い色の着物なのに大人っぽい着こなしをしていて何より綺麗だった。

艶のある黒髪を結い上げて背筋をしゃんと伸ばす姿に見惚れる。

白い肌に少しつり目がちな目は長いまつげに縁取られている。20歳位だろうか。


『欲しい。』


女に初めて感じた感情に俺は戸惑う。

視線を外せなくなった彼女の隣に、如何にも胡散臭い男が護衛二人を連れて腰掛けた。

同業者だな。

俺は眉をしかめる。

彼女は意外なほど冷静に男の相手をしていた。

男慣れしてるのか。


遅れてロビーに入ってきた樋口が北川と共に不審気に声をかけた。


「若頭?」


「成瀬のお嬢ですか?」


成瀬のお嬢か、すっかり忘れてたな。

俺は樋口と北川に振り袖姿の娘を顎で指し、


「あの護衛を追っ払え。」


「「うすっ。」」


どうやら二人はあの振り袖娘を成瀬のお嬢だと思ったらしい。

素直に返事した2人は護衛2人に背後から近付き口を塞いで打撃を食らわす。

油断しすぎだな。

あっさり気絶した護衛二人を、北川と樋口は肩に担いで堂々とホテルのエントランスから出て行った。

さて。お姫様を助けるかな。


「俺の女に触ってんじゃねえよ。」


低い声でひと睨みすればキョロキョロと護衛を探し青くなる男。


「去れ。」


俺の声に怯えて逃げるように席を立った。


「大丈夫か?」


テーブルを挟んで正面に座るとマジで綺麗な顔に見惚れた。


「…お世話になりました。」


素っ気なく頭を下げた娘に肩透かしを食う。それだけかよ。


「…さっきのは見合い相手?」


振り袖姿だし、もしかしたらと聞いてみる。


「お見合い相手は別の人です。」


彼女は仕方なく…という感じで答えを返す。やっぱり素っ気ない。

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