第6話 優しい絆、支え合う日々
亮と別れた後、和奏は深呼吸を繰り返し、教室の扉をそっと押し開けた。教室内のざわざわした空気に包まれると、一瞬、和奏の足が止まる。
しかし、亮の「頑張ってね」という言葉が頭に浮かび、再び足を動かした。
教室内の視線がチラチラと和奏に向けられるが、それに目を合わせる余裕はなかった。
机にたどり着くと、ようやく和奏は椅子に腰を下ろした。自分が小さく震えていることに気付き、ぎゅっと膝を抱える。
友人たちの気遣いの言葉がいくつか聞こえたが、和奏は曖昧に笑って返すだけだった。
一方、亮は自分の教室に向かう途中で立ち止まった。心の中にモヤモヤした感情が渦巻いている。
和奏があそこまで追い詰められているのに、自分がもっと何かできたのではないかという後悔だ。
ポケットに手を入れ、鍵を握りしめる。
自宅を出る際に鍵を施錠したときの感触が蘇る。あのとき和奏が震えていた理由を思い返し、自分の無力さに歯がゆさを覚えた。
「昼休み、一緒にご飯を食べようか…」と和奏が言ったことを思い出し、亮は小さく頷いた。自分ができる範囲で和奏を支える、それが義兄としての役目だと自分に言い聞かせる。
昼休みになり、亮は弁当を持って和奏の教室へ向かった。廊下で待ち合わせをしていた和奏は、亮を見るなりぱっと表情を和らげた。
「お兄ちゃん、ありがとう。ちゃんと来てくれて。」
「約束だからな。それに、今日はどうしても一緒に食べたかったんだ。」
二人は屋上へ向かった。人気のない屋上は心地よい風が吹いていて、和奏は少しだけリラックスした様子を見せた。
二人で座り、弁当を広げると、和奏は小さな声で「いただきます」と言った。
「お兄ちゃん、ありがとう。最近はこうしてご飯を誰かと食べることもなかったから、すごく新鮮。」
「和奏が食べられるようになって良かったよ。しっかり食べて元気つけよう。」
亮がそう言うと、和奏は小さく頷いて箸を動かし始めた。二人で他愛もない話をしながら食事を進めていると、ふと和奏が箸を止めた。
「お兄ちゃん、私ね…もう少し頑張れる気がする。」
「そうか。それは良いことだ。でも無理はするなよ?」
「うん。でも、お兄ちゃんがこうして支えてくれると、本当に強くなれる気がするの。」
亮はその言葉に少し照れくさそうに笑いながら、「それなら何でも言ってくれ。和奏の力になりたいから」と答えた。
放課後、亮は和奏の教室の前で待っていた。扉が開き、和奏が姿を見せると、亮は笑顔を向ける。
「お疲れ。どうだった?」
「うん、大丈夫だったよ。少し怖かったけど、元カレには会わなかったから…。」
「それは良かった。でも、もし何かあったらすぐに連絡しろよ。」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん。」
二人は一緒に帰り道を歩き始めた。和奏の表情は、朝とは比べ物にならないほど落ち着いていた。亮もその変化に気付き、心の中で少し安堵する。
途中、公園のベンチに腰を下ろして休憩することにした。和奏がふと空を見上げて言った。
「お兄ちゃんって、本当に優しいね。私、恵まれてるなって思う。」
「そうか? でも、兄弟なんだから当たり前のことだろう。」
「ううん。当たり前じゃないよ。お兄ちゃんがいてくれるから、私、もう少し頑張れそうだよ。」
亮は和奏の言葉に胸がじんと熱くなるのを感じた。彼女の力になれているという実感が、亮にとっても支えとなるのだった。
「それなら、これからも遠慮なく頼ってくれ。お兄ちゃんはいつでも和奏の味方だ。」
「うん。信じてる。」
その言葉を最後に、二人は再び歩き始めた。日は少しずつ沈み、穏やかな夕暮れが二人を包み込んでいた。
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