第12話 ゴールデンウィークのある一日
今、学園は休みだ。
世間はゴールデンウィークに突入したのだ。
だからと言って、僕は特にやることもない。
どっか遠くまで旅行するのは無理だし、日帰りできる近場で適当にぶらぶらするくらいが限界である。
「あ、夏元さん」
まあ、家にいても暇を持て余すから、と目的地は特にないけど適当にぶらついてた。
そうしてたら、肘まで袖のある白Tシャツ、黒いスラックスという私服姿の夏元と出くわした。
「あ、燿くん。これから遊びに行くの?」
「まあ、そんなところかな。夏元さんは?」
「ボクも遊びに行くとこ」
「あ、おつかいとかじゃなくて?」
肩にエコバッグ提げてるから、てっきり買い物に行くところなのかと思ったよ。
「違うよー。カバン持ってくほどじゃないから、軽めのこれ持ってきたんだ」
「そうだったんだ」
「で、燿くんはどこに遊びに行くの?」
「特には決まってないんだよね。まあ、そんなに遠くには行かないかな」
僕は夏元に尋ね返す。
「夏元さんはどこに?」
「あ、えーと……秘密ー!」
「秘密かぁ」
「うん。燿くんには秘密なんだよね」
「うん? 僕限定で?」
「他のみんなにも秘密だよっ。とりあえずボクもう行くから!」
慌ててるのか、夏元は走ってく。
「あ。呼び止めてごめんね、夏元さん」
「全然大丈夫ー!」
一旦振り返った夏元がそう言って、また走り出した。すぐに彼女の姿は見えなくなってしまった。
「おはようございます、平坂くん」
夏元と別れてから、少し。
今度は本屋前で今度は黒ワンピを着てる春木とあった。
「春木さん、おはよう」
「もしかして平坂くんも秋谷凛の写真集を買いにきましたか?」
「あ、そっか。発売されてるんだっけ」
「おや、忘れてたんですか?」
「あっ、いや。その……も、申し訳ないです」
「いえいえ気にしてないですから。お金は大丈夫ですか? 今、お財布大丈夫でしたら一緒に買いませんか?」
財布の中身は……まあ、三冊を買えるだけのお金はあるね。三冊も買ったら、今後が苦しくなるのは確定なんだけども。
「大丈夫だよ。ちなみに春木さんは何冊買う予定なの?」
「一冊ですよ?」
「二冊とかは?」
「布教用とかも考えないことはないですが、本屋さんには在庫の限りがありますし。他にも欲しい方がいらっしゃるかもなのに、そんなことはできません」
それと普通にお金の問題です、と春木は付け足した。
「────ありましたっ」
春木が二冊、写真集を手に取って僕に表紙を見せつけてくる。表紙の秋山は当然、眼鏡をかけてない。かけてたら普段のあれは変装にならなくなるもんね。
「はい、どうぞ。平坂くん」
「ありがとう、春木さん」
僕は彼女から差し出された一冊を受け取る。
「うーん、せっかくだし他にもいろいろ見てみようかな」
「そうですか」
春木は心配するような表情を僕に向ける。
「良いですか、平坂くん」
「うん?」
「……くれぐれも気をつけてください。本屋さんは思った以上にお金を使ってしまいやすいですから。私はこれ以上の出費を避けるため、今日はこれにて退散です」
彼女は他のコーナーに目もくれず会計に向かって迷いなく進んでいった。
「あー……たしかにね」
漫画とかが僕のことをすごい誘惑してくる。
「こっちは小説かな」
そこで、いつも通りの眼鏡をかけた秋山が目に入った。服装は制服じゃなくて、黒いシャツの上から白ジャケットと、下は白いフレアスカートでいつも通りじゃなかったけど。
「今日はよく知り合いと会うね」
僕の声が聞こえたからか、秋山が振り向いた。
「あら、平坂くん」
「や、秋山さん。写真集買いにきたんだ」
「ここはコーナー違うわよ?」
「まだ会計は済んでないけど、写真集はもう見つけたよ」
僕は持ってる写真集を見せる。
「そう」
「秋山さんは……小説探し?」
「ええ。ねえ、平坂くんはどっちが良いと思う?」
あ、すでに目星はつけてたんだ。
秋山は二冊の本を持っていた。
「どっちの服いい的な感覚で聞かれるとはね……ふむ。どっちもいいと思うよ?」
秋山が微笑する。
「答えも服装選びみたいな感じになるのね。どっちか選んで欲しいのよ」
「そうだな……じゃあ、僕が一冊買おうかな。それで秋山さんがもう片方を買えばいいんだよ」
「後で交換しようって事かしら?」
「そうそう。そういうこと。で……僕は、こっちかな」
「ふふ……ありがとうね。平坂くん」
彼女と僕は会計を終えて外に出る。
「写真集のご購入、ありがとうね。それと小説も」
「僕も欲しかったんだよ」
「感謝と言ったらなんだけど。サイン、書いてあげてもいいわよ? さっきペンも買ったし」
新品のペンを取り出した彼女に「秋山さん、お願いします!」とシュリンクを剥がしてから差し出した。
「おおっ」
素早くサインを書く彼女を見て、思わず声を上げてしまった。
「手慣れてるね」
さすがプロってやつですね。
「ふふん。サインは何回も書いてるからね」
胸を張って言う彼女に僕は拍手を送る。
「名前はこれであってるわよね?」
「うん、大丈夫」
秋山がサインを書き終えた写真集を受け取る。
「これは……一生の宝物にするよ、秋山さん」
「そうしなさい」
彼女は言いながらペンをしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます