告発原文05 警察の盗聴がばれる

2月23日(木)。ところで、私の父は末期ガンで寝たきりになっていたので、おしめを使っていました。そのおしめを洗って庭に干すのが、私の日課でした。

私は、ふと思い立って、中川警察に電話を入れました。応対に出たのは、滝本刑事でした。私は彼に、おしめの件を話し、私は独身であるが、あの***の男に、妊婦と誤認されて襲われたのではないだろうかと話してみました。

刑事は話の途中で、ついうっかりという感じでこうつぶやきました。「やはりまだ不安ですか・・・われわれもあの男の足取りを追っているんだけど、手がかりがなくて困っている・・・」

私は聞いて思わずにやりとしました。ついに白状した!


私は、刑事との電話を手短に切りあげると、すぐに姉に電話をしてこうまくしたてました。

「やっぱり、あの男、怪しいんだって。いま刑事から直接に聞いたの。私が通報する前から、警察の容疑者になっていたんだって。月曜日(20日)、刑事がうちへ事情聴取に来たのは、私の口封じが目的。玄関先でがんがんやっただけでは、別件逮捕ってわけにもいかないから。あの男が犯人だと、私たちに騒がれて逃げられたら困るから。だから、また襲われないように、私も警戒してるけど、あなたも気をつけるんだよ」

姉はにわかにはとても信じられない様子でした。どこの馬の骨と知れない男ならともかく、古くから顔なじみの近所の人の息子が、あの恐るべき妊婦殺人事件の容疑者だなどとは!まさか!


私は姉の呑み込みの悪さに腹を立て、すぐにがちゃりと電話を切ってしまいました。そして2階の窓から憮然と外を眺めていると、なんということでしょう!あのX(=エックス)刑事、20日の月曜日にうちへやってきた年配の刑事が、血相を変えて私の家のほうに走ってくるではありませんか。刑事のうしろには、屈強な制服警官も従っています。


何事かと、私は階下へ駆け下り、玄関を開けました。そこにはX刑事が立っていて、頬を高潮させて憤然と私を見下ろしていました。

このときも、私に口をさしはさませない調子で、彼は興奮しつつ声を上ずらせながらこうまくし立てました。

「違う!違う!あの男は犯人なんかじゃない!絶対違う!あの男は、単なる集金人だ!あんたが玄関を開けてやらんかったから怒っただけだ!あの男は怪しくなんかないっ!あんたたちは警戒なんかしなくていい!私、その男の顔も名前も知っています!われわれが厳重に警戒しているからいいっ!違う違う!あの男はおしめを見て、あんたを襲いに来たんじゃないっ!・・・」

そう口では言いながら、X刑事は庭に翻っているおしめに目をやると、ギョッと表情を変えました。


門の外では、若い制服警官が、いったい何事が起こったのか理解できない面持ちで、こちらを見やっていました。私もいったい何が起こったのか、この当座はまったく理解ができませんでした。どうして今ごろX刑事がこんなところにいるのだろう??


刑事がほとんど支離滅裂なことを、一方的にまくし立てて引き上げたあとで、私は冷静になり、やっと事情が呑み込めて来ました。

X刑事は、私の家のすぐ近くで張り込みをしながら、私の家の電話を盗聴していたのです。

恐らく彼は、パトカーに乗り、若い制服警官がハンドルを握っていた。

X刑事は、滝本刑事がうっかりあの男が容疑者だと漏らしてしまったのみならず、私がそのことをすぐさま姉に電話で伝えたので、大慌てした。この女、ほおっておくと次から次に友人知人に電話を掛けて、そのことをばらしまくるに違いない。すぐに阻止せねば!

刑事はイヤホンで盗聴していたので、若い警官は電話での会話の内容を知らない。刑事が慌ててパトカーを飛び出していくので、警官のほうはすわっ犯人逮捕かと、刑事に付き従って駆けてきた。ところが、私の家まで来てみると、私が何食わぬ様子で顔をだしたので、いったい何事か理解できずに呆然と眺めやることしかできなかった。


電話の盗聴をしていたと断言する根拠は、X刑事の言葉のなかに、私と姉との会話を聞いていたのでなければ、決して出てこないような内容が含まれていたからです(たとえば、「”あなたたち”は警戒なんかしなくてもいい」など)。

滝本刑事が、X刑事に無線で連絡をいれて、容疑者のことをうっかり漏らしてしまったことを告げたから、駆けつけてきたのではない。もしそうだったら、ああも興奮して支離滅裂にまくしたてるはずがありません。もう少し冷静でいられたでしょう。

X刑事は、三日前には、私ごとき小娘、あの男は怪しくなどないと、得意の弁舌でうまく丸め込んだつもりだったのですが、反対に、実は口封じに来ただけだということを見抜かれていたのを盗聴で知らされて、大慌てしたのです。


(注記;ところで「おしめがかかっている」から「妊婦と誤認された」と連想したのは、明らかに私のうっかりミスです。でもこのミスがきっかけで、男が容疑者であることや警察が盗聴をしていることが私に知れたので、あえてここに書きました。捜査当局は、捜査の結果、容疑者の男が、妊婦に対し固執した関心を持ち、再び妊婦を襲う可能性があるとの見解から、近隣住民に、立て看板またビラなどで「妊婦に異常に関心を持つ人物がいたら通報して欲しい」と呼びかけていました。けれども私自身は、私が襲われそうになった前後の状況から、この男は女だったら誰でも良かったとの意見を持っています。妊婦と誤認されて襲われた、というのは誤りです)


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