告発原文04 男の家族の動向

男は、私の父の名が印字されたホケン証書を、「俺はもうあのうちへは集金に行ってやらん」と、K.Uさんにつき返したそうです。刑事がそう言っていました。そこで、私の母がK.Uさんのところまで出向いて、千円の金を払い、証書を受け取ってきました。私はその証書を見て、おかしいものだと思いました。


2度目の通報のあと、私が2階の窓から逃げてゆく男を目撃したとき、男はてぶらであったのを、私ははっきりと確認しています。もし男が、刑事の言うとおり集金が目的で来たのなら、男はホケン証書を携えていなければならなかった。証書はB6判の薄いノーカーボン紙です。仮に男が証書をズボンなりカーディガンなりのポケットに入れてきていたのなら、折り目くらい付いていなければならない。けれども証書は、しわ一つなくぴんぴんのままでした。


それに刑事は、「男はいったん自分の家まで戻って、また出直してきたのだ」と説明していましたが、男に直接会ってそう釈明するのを聴取したわけではない。刑事が、勝手な推測でそう説明付けているだけなのです。


その***のメンバーの男は、実は、私の家から歩いて3分とは掛からない所にある家の息子であることが、近所の人から聞いて知れました。彼の父母と私の父母とはもう古くからの顔なじみで、懇意にしているひとであることもわかりました。私の家も、男の家も、昔ながらの農家なのです。

男は、私とたいして年齢も違わないようです。それなのに私のほうは、男のことをまったく知らなかったのは、彼が後妻の子だからでしょうか。

それはともかく、そういうことなら、私が彼に110番を呼びつけたことは、それが勘違いであれなんであれ、両家の間で大問題にならねばならないところです。こんな田舎で110番沙汰など、めったに起こるものではありません。ところが先様からは、この件に関して、いつまでたっても何も言って来ませんでした。

男は自分が110番を呼びつけられたことを、親に内緒にしているのでしょうか。


代わりに、というのでしょうか、先様の親御さんから、病室の父宛てに、人づてにですが、丁寧な見舞いの品が届きました。なぜ人づてなのでしょう。なぜ親御さんご本人がおみえにならないのでしょう?

私の母は、先様まで御礼を言いに出向きました。この際、110番沙汰のことは、とりあえず伏せていました。応対に出た男の母親のほうも、警察沙汰のことはいっさい口に出しませんでした。

にもかかわらず、うちの母が何も聞いていないのに、あちらの母親は自分のほうから息子のことを話題にして、「うちの息子は***でも役員をしている。人望があって、誰からも誉められるいい息子だ」と、さかんに自慢を垂れたのだそうです。私の母は、110番騒ぎが起きる以前は、このうちの息子のことはまったく知らなかったにもかかわらず。


私は、男の親御さんたちは、息子が警察を呼びつけられたことを知っているな、と判断しました。


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