最終話

 それから一週間。


 俺は始まりの街でプルプル震えていた。


 メスガキがオナホのことを知り、からかいに来たが、ベッドで震えている俺を見るなり、部屋から出ていった。


 怖かったんだ。オークが復讐ふくしゅうしにくるんじゃないか、穴という穴にヤリを突っこまれるじゃないかって気が気じゃなかった。


 しかも、頭の中で無意味にファンファーレが鳴りひびくんだ。なにもしてないのに!


 怖いったらありゃしない。


 それに比べたら、メスガキの罵倒なんてかわいいもんだ。






 ある時、偉そうなヒトがやってきた。


 もう見るからに偉いそうなヒゲをたくわえた、立派な方である。オナホとか使わなそうだし、枕もとで奥さんと乳繰ちちくり合ってそうな、そんな精力的な男であった。


「あなたが手にしているものを見せてもらっても……?」


 俺は、オナホをギュッと抱える。


 やっぱり、変だと思ってやってきたんだ。オナホなんていう、精を空費するだけのおもちゃをめるために――。


「や、ちょっとお聞きしたことがありまして」


「な、なにを……?」


「うちの町はオークによってたびたび略奪を受けていました。それがぱたりと途絶えたのですよ」


 オーク。


 何もかも懐かしかった。一週間前のことだったのに、30光年という距離を行って戻ってきたみたいな感慨かんがい深ささえあった。


「で、オークの根城に行ってみたら、これがありまして」


 ふところから取り出したのは、赤と白のオナホ。


 俺が生みだしたオナホ。


 思わず、手の中のものを出して、見比べてみた。


 気のせいではなかった。この世界には存在しないであろう、人工的なぷにぷに具合は、まさしくオナホであった。


「俺のだ……」


「やはり! あなた様のものでしたか」


「え、あ、まあ」


 恥ずかしい。恋人にエロ本を見つけられたときのような気恥ずかしさがこみあげてくる。


 あの時と同じだったら、この人は愛想をつかして出ていく――。


 だが、そうはならなかった。


 男はオレの手をギュッと取り、


「あなたは英雄です!」


 あり得ないようなことを言った。






 そうして、俺は英雄としてあがめられることとなった。


 異世界初かもしれんな、オナホ英雄なんて。


「はあ……」


 街の中心には、天高く屹立きつりつするオナホ像。


 お隣には、オークを足蹴にする俺。


 そのどれもが大理石を切り出してつくられた、無意味にったデザインだった。たぶん、100万円はくだらないと思うね。


 そんな街の計画を耳にした瞬間、街を出ることを決意した。


 俺がやったことをたたえるために作るのだろうが、俺のプライドが傷つくからな……。


 ほかの転生者にでも見つかったら、恥ずかしくて、死にたくなる。


 それに、銅像をつくられるほど、俺が何かをしたってわけじゃないし。


 オークがオナホを使い、オナホは精と魂を吸収したというだけ。


 一週間ずっと鳴りひびいていたファンファーレは、オークが絶頂とともに死を迎え、レベルアップしたからだろう。


 到底信じられないことではあったが……。


 まあでも、メスガキにキラキラとした目を向けられたのは、ちょっとうれしかったな。


 とにかく。


 祝賀ムードからようやっと静かになって、俺は街を出る。


 見送る人はいない。


 ただ、月だけが俺を照らしている。


 手のひらをかざせば、すぐさまオナホが現れる。


「頼りにしてるからな」


 ツンと突けば、月光に照らされたオナホがくにゃりと倒れた。

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オナホ片手に異世界転生 藤原くう @erevestakiba

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