第6話 レリック砦、周囲警戒の任務に就く

レリック砦の任は、魔層森郡から現れた魔獣を駆除すること。

しかし、魔層森郡には様々な魔獣が生息しており、稀に森の浅い場所にも強力な魔獣が出没すため、兵達の多くが負傷することになる。


今回は第一小隊、第二小隊の兵士の多くが傷を負ったため、兵力を補うために、第三小隊と第四小隊が砦に派遣されたわけだ。


それと入れ替わりで、第一小隊と第二小隊はレントの街まで撤退し、負傷兵は治療を受け、その他にも街で徴兵を行って訓練し、兵の補充を確保するという。


砦に到着した翌日、早朝から第三小隊は砦の防衛の任務に就くことになり、俺が所属するオルト分隊は周囲警戒の任となった。


第三小隊の兵数は三十人。

それが四つの分隊に分かれている。

その一つ、第一分隊がオルト伍長が率いる分隊というわけだ。


オルト分隊の構成は、隊長のオルト伍長、俺、ライアの三人の他に、ロイド、ネイト、ルナ、ベネッサの四人がいる。


砦までの行軍している最中、皆とは行動を共にしたけど話しかけられなかった。

だからオルト伍長以外の誰のことも詳しくは知らない。

軍事行動の時は無駄口は厳禁だから仕方ないけどね。


今はオルト伍長の命により、伍長、俺、ライアの三人は暗い森の中を警戒しながら歩いている最中で、

他の四人も少し離れた場所で、同じように周囲を警戒しているはずだ。


真上を見上げると、鬱蒼と茂る樹々の枝葉によって、空を見通すこともできない。

その暗い森の中で多数の魔獣の遠吠えが聞こえてくる。


昼間だというのに樹々が魔獣のように見えたり、どこからか殺気を向けられるような感じがしても、不安が徐々に押し寄せてくる。


ハァハァと荒い息を吐き出していると、隣を歩いているライアが声をかけてきた。


「まだまだ交代まで時間がある。今からそんなに緊張していたら身が保たない。もし戦闘になったら、後方に下がって、その銃をぶちかませばいいだけだから」


「簡単に言うなよ。こんなヤバイ森を歩くのも、魔獣と戦うのも、俺にとっては初めてのことなんだからな」


「そのうちに慣れるって。なんせ魔獣はウジャウジャと現れるからな」


ライアは場を和ませるように笑むが、それで不安が消えるはずもなく、俺は両手に持っている武器を強く握りしめた。


この武器は、まだ剣技が拙い俺の為にオルト伍長が用意してくれたモノで、魔道銃剣というらしい。


リスラティア王国はそれなりに魔道具が発展しているらしく、俺が身に着けている軽鎧は強度強化の効果と重量軽減の効果が付与されている魔道武器だったりする。


そして俺が持っている魔道銃剣はライフルのような形に円形の弾倉が取り付けてあり、その銃口の部分に短剣が取り付けられてる。


オルト伍長の説明では、銃の引き金を引くと、銃剣の内部にある魔石からエネルギーが充填され、それを一気に放出することで、セットされた魔道弾が発射される仕組みだ。


魔道弾には火炎魔法が付与されており、敵に着弾すると、貫くような衝撃を放って爆発する。


一発一発の破壊力はあるが、弾丸をセットする度にアクションバーを引く必要があり、弾倉に弾丸が十五発しか入っていないので、弾切れに注意が必要らしい。


一時間ほど森の中を歩いていると、オルト伍長の胸元に装備された魔道無線機がジージーと音が鳴った。

これもリスラティア王国の魔道具の一種だ。


「どうした?」


「こちらは先ほどゴブリンの群れ十二体を撃破。その後にコボルト十体を撃破。どちらも素材および魔石は回収済です」


「それは大量だな。俺達はまだ魔獣と遭遇していない。また一時間後に連絡をくれ」


「了解です」


魔道無線を切ったオルト伍長の様子から、どうやら別働班からの定期連絡のようだ。

あちらさんは、どうやら魔獣と交戦があったようだな。


それからしばらく森を進んでいると、ライアが怪訝な表情をしてオルト伍長へ声をかけた。


「第一小隊、第二小隊からの情報と、森の様相が全く違いますね。一時間以上も歩いているのに未だに魔獣と遭遇しないなんて、何かが変じゃないですか?」


「そうだな。ロイド達からの報告では、既に十体以上もの魔獣の群れと二度交戦している。この周辺は確かに魔獣の数も多いが、頻繁に遭遇するのは五体ほどの群れだ。大きな群れが現れたとなると少し違和感を感じるな」


二人の話を聞いて俺はビビった声をあげる。


「やめてくれよ。脅かすのは」


「大丈夫ですよ。こちらにはオルト伍長がいますからね」


「ライア、俺に任せて楽しようとするな。シッカリと働いてもらうからな」


オルト伍長はニヤリと笑い、ライアは肩を竦めて、手をヒラヒラと振る。

二人の軽い調子に、俺だけが怖がっているのがバカらしくなってくるな。


少し不安が薄れて周囲を警戒しながら歩いていると、遠くの樹々が大きく揺れ始め、段々とその揺れが近づいてくる。


その気配を察知したオルト伍長は片手で俺達を制しながら、もう片方の手で背負っている大剣の柄を掴み、勢いよく抜刀した。


「そろそろ、こっちにも現れたようだぞ。ライア、お前は俺の支援と、レンを護衛だ」


「僕の体は一つしかありませんけど」


「つべこべ言わずに指示に従え、お前ならできるだろ。それとレンは後方から剣銃で援護しろ」


伍長の言葉が合図となったように、目の前の樹々がバキバキと折られ、巨大なヘビの群れが姿を現した。


その姿を見たオルト伍長は「チッ」と盛大に舌打ちをする。


「ヘルサーペントの群れ、それも十体以上。これを三人で相手するのは荷が重いな」


「さっさとに撤退しましょうよ」


「そういう訳にもいかない。奴等の魔石はオークの魔石よりも多いからな」


「金と命とどっちが大事かと言われると、悩ましいところですね。とりあえずレン、僕と二人で後方へ下がるよ」


ライアは腰に吊るしてある鞘から二本の曲剣を引き抜いてクルクルと回転させると、身を翻して後ろへと走っていく。


慌てて、その後を追って走りながら振り返ると、オルト伍長とヘルサーペントの戦いは始まっていた。


ヘルサーペントは体長が五メートル近くあるヘビ系の魔獣で、毒は持っていないが、巻きつく力が非常に強く、奴等に絡まれると簡単に巨木もへし折られてしまうのだ。


その上、進む速さはウルフ系の魔獣に匹敵するほどで、一般庶民が森で遭遇すれば、確実に死を迎えることになる。


それほどの魔獣に囲まれる中、オルト伍長はヘルサーペントの尾の攻撃を大剣で受け流し、その横腹を横に薙ぐ。

すると大剣の一撃を受けたヘルサーペントは腹を引き裂かれ、「ギギャー―――!」と悲痛な叫びをあげ、ドシンと地面に倒れた。


普通の剣でれば魔獣であるヘルサーペントの腹を両断することはできない。

しかし、オルト伍長の持っている大剣も魔道武器で、剣の刃がスゴイ速さで振動する。

それに伍長の体は身体強化されており、その膂力と武器の破壊力が加わって、あれ程の威力が発揮されるのだ。


オルト伍長の凄まじい戦いを目にして、俺の心は恐怖よりも安堵のほうが大きくなった。

この勢いなら、俺やライアが攻撃に参加する必要はないかもな。

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