第5話 レリック砦へ!
エリナ少尉とオルト伍長の指導のおかげで、体内の魔力を操れるようにはなった。
しかし、残念ながら魔法の才には恵まれていなかったようで、俺は未だに身体強化しか使えない。
ラノベ小説では、チート能力を授かった主人公がバンバンと活躍するはずなのに……それほど異世界転生は甘くなかったということだろうか。
毎日のように一ヵ月、最近では実践形式で訓練兵と剣の組み手を行っていた。
そして今日はなぜか午前中で訓練は終わり、午後になってエリナ少尉から呼び出しを受けた。
厩舎で制服に着替えた俺は急いでエリナ少尉の執務室へと向かい、扉をノックして部屋の中に入る。
すると、豪華なデスクを前にして、彼女は静かに座っており、そのすぐ傍にはオルト伍長が立っていた。
「レン訓練兵です。只今参りました」
俺が胸に拳を当てて敬礼すると、エリナ少尉は両手をデスクに添えて立ち上がり、ニコリと微笑む。
「そんなに姿勢を正さなくてもいいわ。ここは私達の他に誰もいないから、楽にしていいわよ」
「あれ、そうなの? 執務室に来いなんていうから、何があるのか心配したじゃないか」
「お前は楽にし過ぎだ。上官二人の前だぞ。少しは敬意を払え」
オルト伍長にたしなめられるが、この一カ月、訓練を通じて慣れ親しんだ相手だ。
その二人を相手にして、気を抜くなというほうが無理だろう。
オルト伍長はやれやれという表情で大きく息を吐く。
「魔層森郡から出現する魔獣をレリック砦で防衛していることはレンも知っているだろ」
「ああ、教えてもらったからな」
この一ヵ月、基礎訓練や戦闘訓練だけでなく、座学の知識もしっかり詰め込まれいる。
今ではレントの街に転生した時よりも、このイシュタル世界について少しはわかようになった。
リスラティア王国には、魔層森郡の魔獣達の脅威から王国を守るため、防衛の中心となる城壁都市が幾つか存在する。
俺達のいる城壁都市レントもその一つであり、レリック砦は最前線の拠点の一つだ。
もしレリック砦が落ちることがあれば、レントの街も危険になる。
その軍事的に重要な砦と俺に何の関係があるだ?
不思議そうに首を傾げていると、エリナ少尉がニコリと微笑む。
「今、レリック砦で防衛をしてるのは第二小隊なんだけど、想定以上に負傷者が多く出たらしいの。それで私達、つまり第三小隊が砦防衛の任に就くことになったのよ」
「なるほど、エリナ少尉とオルト伍長はレリック砦に行くってことだね。俺のことは心配しなくていいよ 。二人が留守の間も訓練に励むからさ」
模擬戦や組み手であっても、戦闘となるとバトルジャンキーと化す、エリナ少尉。
常に俺をからかい、悪戯を仕掛けてくる、脳筋ドS野郎のオルト伍長。
この二人がいなくなれば、ここでの訓練も楽になるはずだ。
やっと俺にも運が回ってきたな。
思わず頬をニヤニヤさせていると、エリナ少尉が爆弾発言を落す。
「何を他人事のように言ってるの。レンも私達と一緒に砦に行くに決まってるでしょ」
「少尉の言われる通りだ。砦に行ってからは、魔獣との実践となる。その分、危険もあるが、成長速度も早い。命懸けの経験に勝るものはないからな」
この街に来るまでは、平凡な高校生だったんだぞ。
木剣も持ったことのなかった素人が短期間でプロの兵士になれるわけないだろ!
魔獣との実践って、もう訓練でもなくなってるし!
魔獣から一撃をもらえば、確実に死に一直線だよね!
「待て待て待て、まだ訓練を始めて一ヵ月なんだぞ」
「そんなことは軍のお偉方には関係ない。レンに良いことを教えてやる。軍は兵の生死を厭わない。兵が少なくなれば補充するだけだからな。生き残りたければ、自分の身は自分で守れ。過大に他人を頼っていると死ぬことになるぞ」
「私達のことは信用していいからね」
「 エリナ少尉はレンに甘すぎます」
彼女の言葉にオルト伍長は、苦い表情をする。
エリナ少尉と戦闘訓練をする度に、殺されかけてるんですけどね。
バトルジャンキーな一面さえなければ、超美少女でスタイルも良く、性格も凄く優しいのに……誠に残念です。
エリナ少尉の説明では、訓練場にいる訓練兵の中からレリック砦に行くのは俺一人らしい。
軍には伏せられているが、俺がこの王国の出身者でないことは、二人には知られている。
そのことでエリナ少尉とオルト伍長は相談し、俺を第三小隊の兵として軍に登録していた。
そうしておけば軍の編成が変わらない限り、俺の秘密が漏れる恐れはないからだ。
その結果、俺の砦行きは決まったらしい。
二人の配慮を聞き、砦に行きたくないと我が儘を言えなくなった俺は、途方に暮れた表情で、盛大に溜息をつくのだった。
こうして俺は第三小隊の一員として、一週間後にレントの街を出発することになった。
戦闘用の軽鎧を装備して行軍すること二日、やっとレリック砦が姿を現した。
レリック砦は巨大な岩を加工した天然の建造物だった。
砦の中に入った俺達は、エリナ少尉の指示により、割り当てられた部屋へ向かう。
扉を開けて室内に入ると、既に一人の若者が簡易ベッドに寝そべっている。
「僕の名はライアだ。君がレンだね。オルト伍長から君のことを頼まれている。わからないことがあったら、何でも聞いてくれ」
「よろしくお願いします」
俺はペコリと頭を下げ、向かいの簡易ベッドに荷物を置いて、その横に座る。
するとライアはベッドから起き上がり、姿勢を正して俺をジッと見る。
「僕は二年前に軍に入り、第三小隊に配属された。それから幾度となく最前線で戦ってきたわけだけど、肌身で感じてわかっていることは、この小隊で無事に兵役を終えられる者は約半数だと言っていい」
「ということは、残りの半数は死ぬと?」
「全員が死ぬわけじゃない。体の部位が損傷し、そのために軍を退く者もいる。ただ普通に生活できなくなるけどね」
「どうして、今、俺に話すんだ?」
「エルナ少尉やオルト伍長の戦い方を真似すれば、確実に死ぬからさ。あの人達の強さは異常だからな」
今までの訓練で二人が本気をなって戦っているところを見たことはない。
しかし、エルナ少尉やオルト伍長が、この小隊の中で異質なのはわかる。
特に性格面だけど……
真剣な表情をするライアに向けて、俺は拳を前に出して親指を上に向けた。
「逃げ足なら任せてくれ。エルナ少尉の攻撃から逃げ切ったこともあるからな」
「それなら良かった。魔獣との戦闘状態になったら僕も他の皆も手一杯だ。だから精一杯生き抜いてくれ」
あれ? オルト伍長から、ライアは俺のことを頼まれたはずでは?
なんだか、将来が真っ暗に思えるけど……ホントに俺は大丈夫なのだろうか?
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